第119話 怒りの鉄槌
僕の
「な、なんじゃこの状況は……!?」
「王、私から説明します」
「おお! ジールコニア子爵ではないか! 久しいのう……」
それから、王が状況を理解するのに、さほど時間はかからなかった――。
◇
「なんということだ……! スカーレット、キサマ恥を知れ!」
王は、スカーレット王女のことをぶん殴る。
「お、お父様! ですが私は、この国を思って!」
「くだらんいい訳をするな! キロメリア王国と戦争だと!? キサマ、イカレているのか!?」
もう王はめちゃくちゃに王女を罵倒する。
当然だ。
王である自分を眠らせ、国を乗っ取ろうとしたのだから。
いくら娘でも、許せなくて当たり前だろう。
「貴様を国家転覆罪で、投獄する! その後の処分は後で決めるが……とにかく投獄だ! これに関わったものどもも同罪だ!」
「そんな……! お父様! どうかお考え直しを!」
「うるさい黙れ! キサマのことなどもはや娘とも思わんわ!」
こうして、王女は牢屋に入れられることになった。
一件落着ってとこかな?
まあ、僕たちは壮大な親子げんかに巻き込まれたような気分だ。
◇
「きみが……私を救ってくれたというヒナタくんだね?」
「どうも」
王が、僕に表彰のトロフィーを手渡す。
僕はそれを、緊張しながら受け取った。
「君の功績は、ジールコニア子爵から全て聞かせてもらった。まったく君は、素晴らしい青年だ。この国の誇りだよ」
「そんな、大げさですよ。王にそこまで言われるなんて……恐縮です」
「なんでも遠慮せずに、言うといい。君の好きな望みをかなえよう」
そう言われても……もう僕は十分、今幸せなんだ。
これ以上なにか、望むものなんて――。
――あ、一つだけ……あった。
僕がまだ、叶えてないことが……。
「そうですね――」
僕は王に自分の希望を伝える。
まだ、叶うかどうかはわからないけど。
これが僕の唯一の望みだ。
「……そうか、なるほど。それはいい。そういうことならわしも、いや……国をあげて君の望みをかなえよう。全力で準備をしよう」
「ありがとうございます」
「だが、そのためには……まだ、やることがあるのじゃろう?」
「ええ……必ずいい報告ができるように、頑張ってきますよ」
「まるでわしの若い頃をみているようじゃ。応援しておるぞ、ヒナタくん!」
僕は王様という、これ以上ない頼もしい味方から、激励を受けた。
もちろんその後僕が向かった先は――――。
◇
【side:スカーレット・グランヴェスカー】
私は、薄暗い牢屋の中にいた。
この、王女であった私が……。
「クソ!」
牢屋の檻を殴るも、びくともしない。
私は……終わったのか?
「あああああああああああああああ!」
私はついに発狂した。
「戦争がしたい!
戦争がしたい!
戦争がしたい!
戦争がしたい!
戦争がしたい!
戦争がしたい!
戦争がしたい!
戦争がしたい!
戦争がしたい!
戦争がしたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
私の抑えていたすべての殺気が、漏れ出してしまう。
向かいの牢屋にいた囚人が、それだけで息絶える。
これが私の特異体質だった。
《
「あああああああああああああああああああああああ!」
するとついには私の殺気で、牢屋の鉄が溶けだした。
こうなるともはや自分でも怒りを、殺気をコントロールできない。
私はそこで、自我を失った――。
◇
【side:ヒナタ】
王との話が終わって、僕がその場を離れようとしたときだ。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!」
どこかから、この世のものとも思えないような声が聞こえてきた。
「い、今のは!?」
「ついに始まったか……」
王が、頭を抱え、絶望の表情を浮かべる。
「どういうことですか……?」
「あれは、スカーレットの暴走じゃよ。あれには手を焼いておってな……。子供のころだった、あいつがひとたび怒ると、周りの動物などがかってに息絶えるのじゃ……」
「そんな馬鹿な!」
「ここももう危ない。はやく行きなさい」
「王様は……!?」
「わしはあやつを止める。その責任が、わしにはある。なぁに、昔から何度も戦っておる。わしはこうみえて、かなり強いんじゃ」
そう言われても、心配でとても放っておけない。
だが――。
「大丈夫だヒナタくん、あとはまかせよう」
ジールコニア子爵が、自信満々にそう言う。
「だ、大丈夫なんですか!?」」
「ああ、このお方を誰だと思っている? この国の王たる器だぞ? あれくらい、どうってことないさ」
王を良く知るジールコニア子爵がそう言うのなら、と僕は納得する。
まあ、後は任せるしかないね……。
◇
【side:アーノルド・グランヴェスカー】
ふう……わしも老けたものだ……。
娘の反逆にも気がつかず、あっさりと眠らされてしまうなんて。
ジールコニアとヒナタくんがいなければ、どうなっていたか……。
だがせめて、娘の後始末くらいはやれなければな……。
あいつはかわいそうな子じゃった。
その性質のせいで、孤独になってしまった。
あの危険な能力を、なんとか抑えようと思ったが、結局はこうして定期的に発散させねばならなかった。
そのせいで、国家転覆などたくらみおって……。
まったく困った娘だ。
いくつになっても手を焼かされる。
だが、それも今日で終わりじゃな。
今回のことで、わしは決めたのだ。
今まで娘だから、王女だから、かわいそうだからと、手加減をしておった。
なんとか生かしてやっておったのだ。
だが今回は、あやつを殺すしかない。
それがけじめというものだろう……。
これは、王としての鉄槌。
「すまんかったのぅ、スカーレットよ」
「あああああああああああああああ!!!!」
もはやスカーレット――我が娘は、殺気の塊となってしまっていた。
自我崩壊――ステージ4だな。
「今回は特別激しいのぅ……。今、楽にしてやるからな」
「がるうううううううううううう!」
わしは、拳に全魔力を集中させる。
これは、代々王にのみ許される、究極の破壊系魔法――。
「《
――グシャ。
こうして、わが哀れな娘の生涯は幕を閉じた。
もっとはやくにこうするべきだったのかもしれん……。
「わしも、王である前にヒトの親ということか」
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