第119話 怒りの鉄槌


僕の活性ブーストを何回も重ね掛けすることで、王はようやく目を覚ます。


「な、なんじゃこの状況は……!?」


「王、私から説明します」


「おお! ジールコニア子爵ではないか! 久しいのう……」


それから、王が状況を理解するのに、さほど時間はかからなかった――。





「なんということだ……! スカーレット、キサマ恥を知れ!」


王は、スカーレット王女のことをぶん殴る。


「お、お父様! ですが私は、この国を思って!」


「くだらんいい訳をするな! キロメリア王国と戦争だと!? キサマ、イカレているのか!?」


もう王はめちゃくちゃに王女を罵倒する。

当然だ。

王である自分を眠らせ、国を乗っ取ろうとしたのだから。

いくら娘でも、許せなくて当たり前だろう。


「貴様を国家転覆罪で、投獄する! その後の処分は後で決めるが……とにかく投獄だ! これに関わったものどもも同罪だ!」


「そんな……! お父様! どうかお考え直しを!」


「うるさい黙れ! キサマのことなどもはや娘とも思わんわ!」


こうして、王女は牢屋に入れられることになった。

一件落着ってとこかな?

まあ、僕たちは壮大な親子げんかに巻き込まれたような気分だ。





「きみが……私を救ってくれたというヒナタくんだね?」


「どうも」


王が、僕に表彰のトロフィーを手渡す。

僕はそれを、緊張しながら受け取った。


「君の功績は、ジールコニア子爵から全て聞かせてもらった。まったく君は、素晴らしい青年だ。この国の誇りだよ」


「そんな、大げさですよ。王にそこまで言われるなんて……恐縮です」


「なんでも遠慮せずに、言うといい。君の好きな望みをかなえよう」


そう言われても……もう僕は十分、今幸せなんだ。

これ以上なにか、望むものなんて――。


――あ、一つだけ……あった。


僕がまだ、叶えてないことが……。



「そうですね――」


僕は王に自分の希望を伝える。

まだ、叶うかどうかはわからないけど。

これが僕の唯一の望みだ。


「……そうか、なるほど。それはいい。そういうことならわしも、いや……国をあげて君の望みをかなえよう。全力で準備をしよう」


「ありがとうございます」


「だが、そのためには……まだ、やることがあるのじゃろう?」


「ええ……必ずいい報告ができるように、頑張ってきますよ」


「まるでわしの若い頃をみているようじゃ。応援しておるぞ、ヒナタくん!」


僕は王様という、これ以上ない頼もしい味方から、激励を受けた。

もちろんその後僕が向かった先は――――。





【side:スカーレット・グランヴェスカー】


私は、薄暗い牢屋の中にいた。

この、王女であった私が……。


「クソ!」


牢屋の檻を殴るも、びくともしない。

私は……終わったのか?


「あああああああああああああああ!」


私はついに発狂した。


「戦争がしたい!


戦争がしたい!


戦争がしたい!


戦争がしたい!


戦争がしたい!


戦争がしたい!


戦争がしたい!


戦争がしたい!


戦争がしたい!


戦争がしたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」


私の抑えていたすべての殺気が、漏れ出してしまう。

向かいの牢屋にいた囚人が、それだけで息絶える。


これが私の特異体質だった。

絶対死臭オールデッド


「あああああああああああああああああああああああ!」


するとついには私の殺気で、牢屋の鉄が溶けだした。

こうなるともはや自分でも怒りを、殺気をコントロールできない。


私はそこで、自我を失った――。





【side:ヒナタ】


王との話が終わって、僕がその場を離れようとしたときだ。


「ああああああああああああああああああああああ!!!!」


どこかから、この世のものとも思えないような声が聞こえてきた。


「い、今のは!?」


「ついに始まったか……」


王が、頭を抱え、絶望の表情を浮かべる。


「どういうことですか……?」


「あれは、スカーレットの暴走じゃよ。あれには手を焼いておってな……。子供のころだった、あいつがひとたび怒ると、周りの動物などがかってに息絶えるのじゃ……」


「そんな馬鹿な!」


「ここももう危ない。はやく行きなさい」


「王様は……!?」


「わしはあやつを止める。その責任が、わしにはある。なぁに、昔から何度も戦っておる。わしはこうみえて、かなり強いんじゃ」


そう言われても、心配でとても放っておけない。

だが――。


「大丈夫だヒナタくん、あとはまかせよう」


ジールコニア子爵が、自信満々にそう言う。


「だ、大丈夫なんですか!?」」


「ああ、このお方を誰だと思っている? この国の王たる器だぞ? あれくらい、どうってことないさ」


王を良く知るジールコニア子爵がそう言うのなら、と僕は納得する。

まあ、後は任せるしかないね……。





【side:アーノルド・グランヴェスカー】


ふう……わしも老けたものだ……。

娘の反逆にも気がつかず、あっさりと眠らされてしまうなんて。


ジールコニアとヒナタくんがいなければ、どうなっていたか……。

だがせめて、娘の後始末くらいはやれなければな……。


あいつはかわいそうな子じゃった。

その性質のせいで、孤独になってしまった。


あの危険な能力を、なんとか抑えようと思ったが、結局はこうして定期的に発散させねばならなかった。

そのせいで、国家転覆などたくらみおって……。

まったく困った娘だ。

いくつになっても手を焼かされる。


だが、それも今日で終わりじゃな。

今回のことで、わしは決めたのだ。


今まで娘だから、王女だから、かわいそうだからと、手加減をしておった。

なんとか生かしてやっておったのだ。


だが今回は、あやつを殺すしかない。

それがけじめというものだろう……。

これは、王としての鉄槌。


「すまんかったのぅ、スカーレットよ」


「あああああああああああああああ!!!!」


もはやスカーレット――我が娘は、殺気の塊となってしまっていた。

自我崩壊――ステージ4だな。


「今回は特別激しいのぅ……。今、楽にしてやるからな」


「がるうううううううううううう!」


わしは、拳に全魔力を集中させる。

これは、代々王にのみ許される、究極の破壊系魔法――。



「《王の鉄槌キングスレイヴ》――!!!!」



――グシャ。



こうして、わが哀れな娘の生涯は幕を閉じた。

もっとはやくにこうするべきだったのかもしれん……。


「わしも、王である前にヒトの親ということか」

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