第117話 毒の皿【side:スカーレット・グランヴェスカー】


私はジールコニア暗殺のため、ジールコニアを城の晩餐会に招待した。

これでやつの死体ごと、この世から消してやる。

城の中に入ってしまえば、もう私のものだ。

根回しは済んだ。


「スカーレット王女、ジールコニア子爵がお着きです」


「そうか、通せ」


私は窓の外をみて、中庭を歩くジールコニアを観察する。

ん…………?

なにかがおかしい。


「なんだあの面子は……!?」


ジールコニアの横には勇者ユーリシア・クラインツがいるではないか!

しかもその後ろにいる従者は……あれは変装しているが、明らかに――ヒナタ・ラリアークではないか!


「のこのことやってきおって……舐めた真似を……!」


私は手元のワイングラスを握りつぶした。

わざわざそろって殺されにきおったか……!


「だがこちらには策がある。毒の皿だ……! やつらの皿にはすべて、毒が入っている!」


「はい、その通りでございます、王女さま」


「ふっはっはっはっは!」





「スカーレット王女、お久しぶりです」


ジールコニアは白々しく挨拶をする。


「そうかしこまるな。楽にしろ」


「はい」


「それで……なぜ勇者どのがここに……?」


なにか企んでいないといいが……。


「いえ、ぼくはジールコニア子爵の友人としてお供しただけですよ。招待状には、お供を二人まで連れてきてもよいと書かれていましたでしょう?」


こいつめ……白々しいやつだ。

だがジールコニア子爵め、まさか勇者を護衛につけるとはな……。

だが無駄だ。

私ははなから戦う気などない。

勇者もろとも、毒殺してやる。


「そうですか、だが……勇者どのがジールコニア子爵とご友人だったとは、知らなかったな……」


「ジールコニア子爵は顔が広いですから」


「では、こちらへ。みんなで一緒に夕飯を楽しもうじゃないか……」


私はみなを、席に座らせる。


指を鳴らすと、使用人たちが、テーブルの上に料理を並べる。

もちろん、私以外のは毒入りだ。


「さあ、いただいてくれ」


「では、お言葉に甘えて」


ジールコニア子爵は、スープを口に運ぶ。

勇者も、ヒナタも、それぞれに料理を口にする。


――勝った!


くっはっははっはっははははははっは!!!!!!


私は心の中で笑いが止まらない!


これで、邪魔者はみないなくなった。

私による独裁国家の完成だ!

軍事力を拡大して、他国を占領し、蹂躙し!

闇の時代が始まるのだ!


勇者などという英雄気取りのバカもいらない!

個で大きすぎる力は邪魔でしかない!

英雄は私だけで十分だ!

それよりも、必要なのは忠実な軍団だけ!


「ふふ……ふふふ……」


思わず、笑みがこぼれてしまう。


「どうされたのです? スカーレットさま?」


ジールコニアがわざとらしく訊ねる。


「いえね……みなさんとの食事が楽しくて……」


「そうですか、それはよかった」


その後も、私たちは食事をつづけた。

やつらは一歩一歩寿命を縮めているというのに気づかずに、毒を口にする。


だが――おかしい。


もうすでに毒は回ったのではないのか????

なぜ奴らはだれも死なない!?


「っち……!」


私は使用人に目で合図を送り、異変について尋ねる。

だが、使用人はたしかに毒を入れたと合図を返してきた。

どういうことだ?


私がキョロキョロして、焦っていると――。


「どうされたのですか? なにかおかしなことでも?」


ジールコニアがまた、わざとらしく訊ねる。

その口元は、かすかに笑っていた……。


つまり、こいつは初めから、知っていたのだ。

なにか対策を講じ、死なないとわかっていて毒を口にしたのだ。


(キサマぁあああああああああああああああああああああ!!!!)


私は内心、憤慨する。

顔が真っ赤になり、血管が浮き出る。

だめだ、押さえねば……。

ここでブチギレて、剣を抜いてしまっては台無しだ。

あくまでも暗殺でなければいけない。





【side:ヒナタ】


よし、スカーレット王女は怒っているね。

僕は料理を食べながら、勇者さんとジールコニア子爵に目で合図して、心の中でガッツポーズする。

作戦通りだ。


僕はあらかじめ、三人の体内を、活性ブーストで強化しておいた。

さらには特製の毒対策ポーションをたっぷり飲んでおいたからね。

スカーレット王女が晩餐会に誘ってきたということは、毒殺も十分に考えられるからね。


これであとは、上手く王のもとへたどり着き、薬を飲ませれば解決だ。

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