第115話 激昂【side:スカーレット・グランヴェスカー】


「スカーレット王女!」


「なんだ! 騒がしい!」


私はいそがしいというのに……。

血相を変えて部屋に入って来たのは私の私兵の一人であった。

以前門番の役をさせていた男だな。


「それが……たった今入って来た情報によると、……その……」


「なんだ! さっさと言え!」


私が怒ると思っているのか……?

どうやら殺気が漏れていたようだ。

このところイライラが治まらない。

事態が進展していないように感じて、焦りばかりがつのるのだ。


「大変申し上げにくいのですが……その……シノビの里が壊滅しました!」


「……………………は?」


私は一瞬、言われた意味がわからなかった。

だがその数秒の後に、理解するとともに血管がブチ切れそうになる。


シノビの里は我ら王族が、暗躍のために育て上げてきた組織だった。

それが…………壊滅しただと!?


「ど、どういうことだ……!」


「それが……何者かに襲われたとだけ……」


「クソ……! クソ! クソ!」


これではあらゆることが不便になるじゃないか!

裏の仕事は彼らに任せてきたというのに!


もしシノビのものから情報が洩れれば、私の身も危ない。


「そうだ! シノビの里のものは生きているのか!?」


「ええ……不思議と致命傷は避けてありました」


「シノビの里を襲ったやつらはとんだふぬけだったようだな……」


「ですがシノビたちは何かにひどく怯えていて、情報を出しません……」


ふん、この私よりも怖いのか?

シノビの里を襲ったのは、いったいどんなやつだ?


「まあいい、シノビたちを殺せ」


「は?」


「そんなどこぞの誰かに滅ぼされるような部隊などいらぬわ。代わりの諜報部隊なら用意してある。奴らの口から私のことが漏れぬよう、さっさと殺せ」


「は、はい……」


だが、シノビといえばもう一人いたな……。

ヒナタのところにいったカエデとかいうやつ。

あれももう要らぬな。

こうなればなりふり構っていられない。


「カエデとかいうやつも殺しておけ。もうシノビは信用できぬ」


「は、はい……」


「ん? なにか文句があるか? お前も死にたいか?」


「い、いえ……」


ふははははは!

私に逆らうような馬鹿や、無能はすべて殺すのだ!

そして隣国に攻め入り、隣国の者たちもすべて殺す!

そうしてこそ、ようやく私の王国は完成するのだ!


「お前だけが頼りだぞ……」


「はい」


「そうだ、ジールコニア子爵も殺しておいてくれ。やつはいろいろ嗅ぎまわっていたな」


「わ、わかりました……」





【side:ドグル】


俺はドグル。

王女の命令を受け、いろいろやっている。

今も数々の命令を受け、王女の部屋を出たところだ。


重要な仕事のときは、門番にふんすることが多いから、「門番」などと呼ばれている。

王女直属の暗躍部隊の一つだな。

俺たちは基本、2人一組で行動する。


だが今俺は一人だった。

俺は実はスパイなのだ。

俺の本当の飼い主はジールコニア子爵。

王女への忠誠は偽りのものだ。


「くそ……あの王女、イカレてやがる……」


俺は焦っていた。

とうとうジールコニア子爵を暗殺するように言われたのだ。

いち早くこのことを、ジールコニア子爵に伝えなければならない。


「おい、待てよ」


「…………?」


俺が振り返ると、そこには相棒がいた。

いつもともに「門番」として組んでいる男だ。

こいつの本名はしらないが、俺はデガンと呼んでいる。


「デガン、なんのようだ?」


「ドグル……お前さっき、王女の部屋から一人で出てきたな」


「ああ……そうだが……」


「どこにいくんだ? 急いでいたようだが……?」


「いや、ちょっとな……飲みにでもいこうかと、お前もどうだ?」


「ああ、そいつはいいな。俺も一緒にいかせてもらおう」


そう言うとデガンは俺に近づいて来て、ハグをした――。


「グフッ……! ぐえぇええええ! げほ……」


かと思えば、デガンの持つ大きな刃が俺のふところを貫いた。


「き、キサマぁ……! 気でも狂うたか!?」


「それはこっちの台詞だ。王女への忠誠を、ともに誓った中ではなかったか?」


「き、キサマ……いつから……」


「さあな、だがこれで、また一人同僚を亡くした……」


「…………!」


そういえば、きいたことがある。

王国直属の諜報部隊には、裏切者を見つけ、始末する「始末屋」と呼ばれる人物がいることを。

だからこそ、「門番」は二人一組なのだと。


「裏切者は、王女のそばに置いておくことはできない……」


「ぐはぁああああ……」


俺はそのまま、倒れ、絶命した――。


ジールコニア子爵が仇を討ってくれることを願おう。

そして、ヒナタ・ラリアークが王を救うことを……!

この国の命運は、彼に託されたのだ。

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