第114話 シノビの里【side:ライラ】


私たちはカエデちゃんの案内でシノビの里にやってきました。

もちろん目的は、ヒナタくんのために解毒薬を得るためです。


「よし、まずはバレないように隠密で行動しよう……」


カエデちゃんが腰を低くして、先導します。

メンバーは、私、カエデちゃん、リリーさん、ファフニールさん、ウィンディさん、クリシャちゃん……それから――。


「あれ? 勇者パーティのみなさんが見当たりませんが……?」


「ほんとっスねえ……どこに行ったんスかねぇ……。ってあれぇええ!?」


「ちょっとウィンディさん、声が大きいですよ! って、あれぇええええええええ!?」


なんと勇者さん一行は、私たちの隠密行動など無視して、正面から歩いていってます……。

どんだけ大胆不敵なのでしょうか。


ユーリシアさんはシノビの里の門の前に立ち、どうどうと――。


「たのもーう!」


まったく……先が思いやられます……。

ああ見えてユーリシアさんはおバカさんなのでしょうか。


思った通り、敵のシノビたちが勇者さんたちに襲い掛かります。

ですが――。


火炎小球ファイアボール!」


「雷撃剣!」


「精霊の弓!」


勇者さんたちの攻撃で、シノビたちは一斉に宙に散ります。


「すごい……さすが勇者さんたちです……」


その後も勇者さんたちは敵をものともせずなぎ倒していきます。

ですが、カエデちゃんは依然として渋い顔をしています。


「どうしたんですか、私たちも行きましょう」


「それが……実はここには私の実の兄が捕えられているんだ……。それを助けるまでは、私は派手に動けない」


「なるほど、そういうことでしたか……」


私たちは作戦を練り、二手に分かれることにしました。


カエデちゃん、ウィンディさん、クリシャちゃんの三人は、隠密してカエデちゃんのお兄さんを探します。

クリシャちゃんの鼻を頼りに、お兄さんの居場所を突き止める算段です。

そしてもしお兄さんが負傷していた場合、ウィンディさんがポーションで応急手当をすることになってます。


私とリリーさん、ファフニールさんは勇者さんたちを追います。

そして隙あらば解毒薬を見つけ出し、持ち帰る作戦です。

敵の処理は勇者さんたちにまかせましょう。


「それでは、健闘を祈ります!」


「作戦開始!」


私たちは、ヒナタくんのために、命がけで前に進みます――!





【side:カエデ】


私たちは兄の囚われている場所をなんとか見つけ出した。


「ここか……」


恐る恐る中に入ると、兄が十字架に貼り付けにされていた。


「うぅ……」


「お兄ちゃん……!」


私は自分の兄――サスケ・ロベルタスにかけよる。

体中傷だらけでボロボロだ。

ひどい……。


「おや……裏切者のご登場か……」


「……誰だ!?」


私たちが振り向くと、そこには私の師匠――コロウ・イシャドラがいた。

ついに私たちの侵入がバレたのか……!


「こんなことをして、無事にこの里を出られると思うなよ?」


コロウ先生は懐から刃を取り出し、戦闘の構えをとる。

やる気だ……。

だが、こっちはウィンディさん、クリシャさんの三人だ。

いくらコロウ先生が強くても、負けるわけがない……!


そう思っていた――。





「さあ、観念しなさい、カエデ」


「……っく」


私たちはあっという間に、部屋の隅に追い詰められた。

人数ではこちらに分があるけど、コロウ先生はさらに上をいく強さだ。


「ここまでか……」


クリシャさんは別動隊の勇者さんたちを呼びにいってくれた。

ウィンディさんはあまり戦えないから、私が守るしかない……。


ここで私が身を差し出せば、ウィンディさんの命くらいは守れるだろうか……。

そう考えだしたときだった――。


「待たせたね、カエデちゃん」


「ヒナタお兄ちゃん……!?」「ヒナタ先輩!? どうしてここにいるんスか!?」


「な、なにものだキサマ……!?」


なんと薬で動けないはずのヒナタが現れた。

どういうことなのだろう……。


「なんとか間に合ったみたいだね……活性ブーストを使いまくって、なんとか動けるようになったよ……」


「ま、まさか……あの薬を自力で……!? あ、あり得ない……」


コロウ先生も驚いている。

あれはシノビに古くから伝わる秘伝の薬だというのに……!

ヒナタのスキルはどれだけすごいんだ……!?


「さあ、カエデちゃんにこんなひどいことをさせていたのは、あなたですね? 僕が許さない!」


「ひ、ひぃ……!」


あれだけ強かったコロウ先生も、ヒナタの前では子犬のように弱かった。

一瞬のうちに、ヒナタにぼこぼこにされてしまった。


「すごい……! さすが先輩っス!」


「ありがとうヒナタお兄ちゃん!」


「二人にけががなくてよかったよ……」


ふと、ヒナタは私の実兄――サスケ・ロベルタスに目を向ける。


「このひとは……?」


「わ、私の兄だ。けがをしているから助けてほしい」


「もちろんだよ、カエデちゃんのお兄さんだもんね」


ヒナタはそういうと、ウィンディさんと協力して兄を治してくれた。


「ありがとう……でも……私は、ヒナタお兄ちゃんに迷惑をかけてばかりだ、助けるつもりが、また助けられてしまった」


私はうれしさもあったが、悔しさもあって泣いてしまう。

だがヒナタはそれを優しく撫でてくれた。


「大丈夫だよカエデちゃん。カエデちゃんは妹なんだから、僕が守るよ」


「うぅ……ヒナタお兄ちゃん!」


私は実の兄の前だというのに、ヒナタのほうにばかり泣きついてしまった。





【side:ヒナタ】


その後、ライラさんや勇者さんとも合流できた。

勇者さんは「せっかくヒナタくんのために解毒薬を手に入れたのに……」とグチっていた。


「まあまあ、ヒナタくんが無事元気になってよかったじゃないですか」


「ご迷惑をおかけしました、ライラさん」


「ヒナタくんのせいじゃないですよ」


それにしても、ライラさんまで危険なまねを犯してまで僕を助けようとしてくれていたなんて……。

僕は本当に恵まれているなぁ……。


「でも、ヒナタくんはすごいですね。私たちの助けなんて、必要なかったんですから」


ライラさんはどこか少し寂しそうだ。


「そんなことないですよ。みなさんには僕もいつも感謝してます!」


でも、まさか本当にシノビの里に乗り込んでいくなんてね……。

しかもシノビの里を、ほぼ壊滅させてしまった。

主に、ユーリシアさんが。


ユーリシアさんはすこしそのことを申し訳なく思っているようで――。


「カエデちゃん、それからカエデちゃんのお兄さん、2人の故郷を滅ぼしてしまって申し訳なかった……。ヒナタくんをひどい目にあわせたやつらだと思うと、手加減ができなくてな……」


「いえいえ、勇者さんのおかげで、兄も私もシノビの掟から解放されました。これで暗殺業から完全に手をひける……」


カエデちゃんはほっとして、嬉しそうだ。

カエデちゃんのお兄さんも元気を取り戻したみたいで、僕に話しかけてきた。


「うちのカエデが本当にお世話になりました。みなさんありがとう」


これで、本当に一件落着だね……。

だけど、こんなことになったのも全部あの王女の身勝手のせいだ。

僕は、それを許せなかった――。

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