第113話 解毒薬【side:ライラ】
「うぅ……」
どうしましょうどうしましょう……。
大変です、ヒナタくんが倒れてしまいました。
原因はカエデちゃんの持たされた薬を飲んだからだそうですが……。
呼びかけても反応がありませんし……。
どうすればいいのでしょう。
私たちは再びパーティー会場に集まっていました。
ヒナタくんは安静に寝かせてあります。
「カエデちゃん、ヒナタくんが目覚めなかったら、あなたのせいですよ!」
私は思わず、行き場のない思いをカエデちゃんにぶつけてしまいます。
相手はまだこんなに小さな子供なのに……。
「うぅ……ライラさん……ごめんなさいなのだ……。私のせいでヒナタお兄ちゃんがぁ……うぅ……」
カエデちゃんはさっきからずっと泣いています。
さすがに言い過ぎましたでしょうか。
「ライラさん、そのくらいにしてあげるっスよ……。カエデちゃんも後悔してるっス」
「そうですね……」
ウィンディさんになだめられ、私はようやく落ち着きを取り戻します。
そのときでした――。
「ヒナタくんはいるか……!?」
血相を変えてやってきたのは――ジールコニア子爵!?
以前ヒナタくんが助けた子爵様です。
どうされたのでしょうか。
「ジールコニア子爵さま!? どうなったのですか?」
「ヒナタくんが狙われているかもしれない! ヒナタくんに絶対に薬を飲むなと伝えにきたんだ!」
「えぇ!?」
これは……。なんと言えばいいか……。
ですが正直に言うしかありませんね。
「ジールコニア子爵さまのその行動は、とても嬉しいのですが……。ヒナタくんはもう、すでに薬を飲んでしまっています」
「なんだって!? クソ! 手遅れだったか……」
私がもっとしっかりしていれば、ヒナタくんを守れたかもしれないのに……。
そう思うと、後悔の念が絶えません。
「彼なら王を救えると思ったのだが……」
ジールコニア子爵がぽつりとつぶやいたその言葉を、私は聞き逃しませんでした。
「どういうことですか?」
「実は、ヒナタくんを眠らせた薬と同じもので、王も眠らされているのだ。王女によってな……。王は戦争をする気など全くなかったのだが、王女が暴走をして……」
「そうだったんですか!」
だとしたらヒナタくんを救うことが、そのまま王を救い、戦争を回避することにもつながるわけですね……。
ですが、どうやって救うというのでしょう。
ジールコニア子爵はヒナタくんを頼って来た。
つまり、ヒナタくん以外にこの薬から目を覚まさせれる治療師などいないということでは?
「だがまだ手はある……。これは正直、最後の手だと思っていたが……」
「どういうことですか?」
「危険な賭けだが、シノビの里に解毒薬があるはずだ」
なるほど、シノビの薬で眠らされているわけですから、その解毒薬もシノビの里にあるはず、というわけですね……。
ですが、それをどうやって手に入れると?
「わ、私はその解毒薬の場所を知っている!」
「カエデちゃん……それは本当ですか!?」
「ほんとうだ。かなり危険……いや、ほぼ不可能に近いが……」
カエデちゃんは厳しい顔をしています。
シノビの里に正面から解毒薬をとりにいくなど、無謀なことなのでしょう。
彼女はシノビの強さをよく知っているからこそ、それをよくわかっているのでしょうね。
「君は……?」
ジールコニア子爵がカエデちゃんを興味深そうに見下ろします。
「私はシノビのものだ。わけあってヒナタお兄ちゃんと暮らしている。でも、ヒナタお兄ちゃんがこうなったのも私のせいだ! だから解毒薬は私が手に入れる!」
「そうか……」
でも、カエデちゃん一人に取りに行かせるわけにはいきません。
当然そんな危険なこと、させられません。
「では、みんなで取りに行きましょうか!」
私はみなさんにそう提案します。
「ライラさんも……!?」
「大丈夫です、私もこう見えて、そこそこ戦うことは……まあ、一応……できなくもないんですよ……?」
「すっごく自信なさそうっス……。なんだか不安しかないっスけど……」
「と、とにかく! 私も、自分自身でヒナタくんを助けたいんです! ヒナタくんの力になりたいんです!」
いままで、ヒナタくんには助けられてばかりでした……。
今回こそは、私がヒナタくんを助ける番です!
「ライラさん……。そうっスね、自分も、ヒナタ先輩を助けたいっス!」
「ウィンディさん……! いっしょに頑張りましょう!」
みんな、ヒナタくんが大好きなんですね……。
ヒナタくんを助けたい、力になりたい、という気持ちは、みなさん一緒です。
「なんだかよくわかんないけど、私も力になるよ!」
「ファフニールさん……」
ヒナタくんについた悪い虫……としか考えていませんでしたが、こうなれば思いは一緒です。
ファフニールさんにも同行してもらいましょう。
「私は錬金術師だが、戦闘もできるんだ! 私にも協力させてくれ! ヒナタくんのためだからな!」
「リリーさん……ありがとうございます!」
リリーさんも一緒なら、たのもしいですね。
「私も、ご主人のために戦います!」
「クリシャさん、ありがとうございます!」
獣人のクリシャさんがいれば、鼻が利くのでいろいろ便利ですね。
解毒薬まで一直線です。
「ぼくたちも、ぜひ協力させてくれ。ヒナタくんは大事な仲間だからね」
「ユーリシアさん……。勇者パーティのみなさんがいっしょなら、怖いものなしですね!」
こうして、私たちはシノビの里へ、ヒナタくんのために解毒薬をとりにいくことになりました。
危険なことはもちろんわかっています。
ですが、ヒナタくんのためなら、私たちに出来ないことはないのです!
「待っていてください、ヒナタくん!」
私は静かに眠るヒナタくんの髪をそっと撫で、行ってきますの口付けをした――。
◇
【side:ヒナタ】
なんだか僕が眠っているあいだに、大変なことになっちゃったよ……。
僕は身体こそ動かせないけど、話だけは聞こえていた。
みんなシノビの里にいっちゃったけど……。
ライラさん、戦えるのかなぁ?
みんな、心配だなぁ……。
でも、僕のために……うれしいよ。
はやくなんとか動きたいんだけど……。
身体がいうことをきかない……!
――ぴく!
おや……!
なんとか右手だけが動かせたぞ!
ずっと心の中で
なんとかみんなが危険な目にあうまえに、動けるようになりたいけど……。
その後も僕は、ベッドの中でどうにか動けるようにならないかもがき続けるのだった。
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