第109話 医師ヒナタ
僕とファフ姉が勉強をし始めて、数週間が経った。
毎日一緒にすごしていたからか、ファフ姉はすごくポーションについて詳しくなっていた。
これでもう僕の教えることはなさそうだね。
「ありがとうヒナタ。ぎゅー!」
「う、苦しいよ……ファフ姉……」
ファフ姉にぎゅーってされると、いろいろと気まずい……。
だけどまあ、今日くらいはいいだろう。
「明日は、追加の進級試験だもんね」
「うん……ヒナタも応援してね」
明日の追加進級試験に受かれば、ファフ姉の留年は取り消しになり、進級することができる。
同じ学年じゃなくなるのは少し寂しいけど、うれしいことだよね。
◇
「どうだった?」
「大丈夫、合格だよ! ヒナタ、本当にありがとう!」
またファフ姉は僕を抱きしめる。
ほんとうによかった。
僕も勉強を教えた甲斐があったよ。
「ヒナタ、これからもよろしくなー」
「う、うん……」
これからは毎日は会えなくなるかもだけど、僕はいい友達に巡り合えた。
また学校の外でも会えるしね!
僕たちがファフ姉の合格を喜んでいると――。
「大変だ! 研究棟で爆発があったぞ!」
「「えぇ!?」」
そんな大声とともに、先生たちが研究棟に向かって走っていく。
他にも野次馬の生徒たちが大勢。
ふと窓の外を見ると、たしかに煙が上がっていた。
「どうする? 私たちもいく?」
ファフ姉も同じく野次馬根性がうずくらしい。
でも、そんな面白半分で見に行ったら迷惑じゃないのかな……?
「うーん、とりあえず近くまでいってみようか」
もしかしたら僕にもなにか手伝えるかもしれない。
僕はもっと大きな爆発事故の治療にあたったこともあるしね。
◇
「くそ! だめだ! ポーションの供給が追い付かないぞ!」
「道を開けてくれぇ! けが人が大量なんだ!」
僕たちが研究棟にやってくると、ものすごい事態になっていた。
これはひどい……。
以前の爆発テロ――まああれは実際に現場を見に行ったわけじゃないけど――に匹敵するくらいだ。
「ぜんぜん人手がたりない!」
「ここまでの大けがは……賢者様でも呼んでこないとどうしようもないぞ……!」
まさに地獄絵図と言った感じで、先生や上級生が必死に治療するも、ぜんぜん追いついていない。
このままではさらに事態が深刻になってしまうだろう。
「すみません、僕にも治療に加わらせてください」
「なんだね君は……!? こっちはいそがしいんだ。邪魔しないでくれたまえ」
まあ、そうなるよねぇ……。
「ちょっと、なんだいその言い方は! ヒナタはすごいんですよ! あの爆発テロの現場にもいたんですから!」
とファフ姉が食ってかかる。
あーあ、言っちゃったよ……。
ファフ姉にはいっしょにすごすうちに、いろいろ昔の話もしたんだけど。
大騒ぎになるだろうからおおやけにはしたくなかった。
「なに!? あの爆発テロの英雄だと!?」
――ざわざわざわ。
「とにかく、僕に治療させてください。ポーションもすぐに作ります」
「だが君はまだ新入生だろう!?
「もちろんです! 任せてください!」
「な、なら頼む……! 正直、猫の手も借りたいくらいなんだ!」
僕は急いで自分に可能な限りの
そして
今の僕にとって、ポーションをつくるなんてのは、手段を問わなければ超簡単なことだ。
「おお! 一瞬のうちに上級回復ポーションがこんなに!」
「まだまだです! 麻酔ポーションもありますよ!」
ポーションが完成したそばから、先生たちに手渡す。
これでとりあえずはなんとかなるだろう。
「つぎは僕も治療します!
目に付いた人から、とりあえず治療していく。
あの時みたいに
だから重症の人を完全回復させることは難しいけど、応急処置にはなるはずだ。
少なくとも、命だけは救える。
それで十分だ。
「おお! なんと鮮やかな
「きみ、それは本当に
先生も上級生も、目を丸くして驚く。
たしかに僕の
普通の人の
「しかも、すごいスピードだ!」
「そんなに魔力を消費して、バテないなんて……!」
僕はそんな賞賛の声も気にせず、ひたすら治療し続ける。
おかげで、なんとか全員、一命を取り留めた。
「ありがとう。君がいなかったら、この学校は廃校の危機だったよ……」
「いえいえ、あたりまえのことをしたまでです」
たしかに、学校の研究で死者を出したとなれば、世間からのバッシングもひどそうだ。
でも、救えて本当によかった……。
ここまで勉強を頑張ってきた甲斐があったよ。
「ヒナター! すっごーい! ほんとにみんなを救っちゃったんだね! さすが私のヒナタ! かっこいいー!」
「ちょ、みんなの前で、やめてよファフ姉」
ファフ姉は僕の頭をくちゃくちゃにする。
いつもこうしてじゃれあってるけど、先生たちの前だと恥ずかしい。
「はっはっは、英雄色を好むというが、君もそれに漏れないな!」
「せ、先生まで……からかわないでくださいよぅ……」
そして僕は、後日このことで表彰されることになる。
◇
「えー……ヒナタ・ラリアークくん。君は実に優秀で、先生たちよりも素晴らしい働きをした」
「あ、ありがとうございます」
「正直、この大学としては、もはや君に教えることはないと考えている。君は学術的な理論などなくても、どうやら完ぺきに現場の技術を身に着けているようだ。まさにそれは天才の所業。だから、今後はうちに教師として来てもらいたい」
「えぇええええええええ!?」
表彰されるとは聞いていたけど、まさか卒業までさせてもらえるなんて……。
賞状といっしょに、卒業証書まで手渡される。
「あ、ありがとうございます……?」
「いやぁ、君のような千年に一人の逸材を、うちの卒業生とできることを誇りに思うよ。今後も活躍してくれたまえ。っふぉっふぉっふぉ」
なんだかこの校長、少し打算的だなぁ……。
僕を利用してさらに学生を集める気だなぁ?
ま、それはいいんだけど……。
「それに、君にはまだやることがあるのだろう……?」
「校長先生……。はい。ありがとうございます!」
こうして、短かった僕の学校生活は終わりを迎えた。
◇
「ヒナター! 卒業おめでとう!」
「ありがとうファフ姉。でも、ファフ姉としばらく会えないのが残念だよ」
「え? 何言ってるの? 私が次にとってるポーションの授業、講師がヒナタ・ラリアークになってるけど……?」
「えぇええええええ!? 教師になってくれって話は本当だったのかぁ……。僕はてっきりリップサービスかと……」
ようやくギルドの仕事にもどれると思ってたんだけど……。
まあポーションの授業は週に何回かだから、いいけどね。
「またこれからも一緒だね、ヒナタ」
「……そうだね、ファフ姉。頑張って卒業しようね!」
「う……それは……」
まだまだ忙しい日々が続きそうだ!
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