第105話 初めての学友


僕が医術大学に通いだしてから、数日が経過した。

だけど――思っていたよりどうも……。

正直、拍子抜けした。

みんなもっとまじめに頑張っている生徒ばかりだと思っていたんだけど……。

さぼっている生徒も多い。


そんな学校にうんざりしながらも、僕が歩いていると……。


「ねえ、君。ポーションの授業で先生よりもすごいところを見せたってのは、君かな?」


「え、はい。そうですけど……」


後ろからの声に振り替えると、そこには赤色の髪をした女性がいた。

見た感じ年上に見えるし、先生かなとも思ったけど……生徒にも見える。


「あなたは……?」


「ああ、私はファフニール・フランニル。ま、君の先輩にあたるかな。留年してるから、学年はおんなじだけどね!」


「そうなんですか、よろしくお願いします」


先輩だったのか……。

よかった、先生と呼ばなくて。

もし先生だなんて口走っていたら、そうとう失礼だった。

女性の年齢はデリケートな話題だからね。


「それで、僕になにか御用ですか? フランニル先輩」


「ねぇ、私と友達になってよ」


フランニル先輩は、少々食い気味にそう言った。

そう前のめりで迫られると、目のやり場に困るなぁ。

フランニル先輩はかなりの美人さんだ。


「はぁ、それはなんでまた……?」


「だって、君……成績いいんでしょう? 私に教えてほしいんだよねー。私、こう見えてバカだからさぁ。それで留年しちゃって……。学年違うから友達もいないし……ね、いいでしょ? それに、君……かわいいし」


「まあいいですけど、こう見えてバカって……バカはこの学校に入れないと思いますよ? だから先輩はバカなんかじゃないですよ」


「お! うれしいこと言ってくれるねえ。お姉さん、君のこと気にいっちゃった。ねぇ、ファフ姉って呼んでもいいわよ?」


「いや、呼ばないですよ……恥ずかしい……」


「えぇ! なんでぇ!」


先輩は変な声を出しながら僕に身体を密着させてくる。

なんなんだこの人……。

今までにお兄ちゃんとは呼ばれ慣れているけど、姉と呼んでくれなんていう人には初めて会った。

ライラさんも年上だけど、けっこう抜けてるところあるからなぁ……。

こういうタイプの人は初めてかもしれない。


「と、とりあえず! 離れてください。こんなところ、誰かに見られたらどうするんですか」


「えぇ、いいじゃん別にぃ!」


今どきの都会の学生って、みんなこんな感じなのかな?

僕が田舎者なだけなのか?


とはいえ、僕にとって初めての学友ができた。





「だから、そこはそうじゃなくですね……」


「んもう! わかんないって!」


僕たちは空き教室で、自習を進める。

とはいえ僕がフランニル先輩にポーションについて教えるだけだ。


「うーん、おかしいなぁ。これ以上の説明はできないんだけどなぁ……」


「んもぅヒナタ、私が馬鹿だっていうの?」


「いや、そうじゃないですけど……」


フランニル先輩の成績からしても、そこまで理解力がないわけではなさそうだ。

僕が教えればなんとかなると思ったんだけど……。

ん?

どうも、フランニル先輩の成績表を見るに、彼女は実習系の成績がいいらしい。

理論より、身体でお覚えるタイプなのかな?


「そうだ、ちょっと、いいですか?」


「え!? はひぇ!?」


僕は先輩の後ろに回り込むと、彼女の手を取った。

まさに手取り足取り、というやつだ。

こうやって直接身体に教えた方が、彼女にとっては理解しやすいかもしれない。

だけど……どうしてそんなに赤くなっているのだろうか。


「どうしたんですか?」


「い、いやあその……けっこう大胆なんだね……」


「さっき先輩だって、僕に密着してきたじゃないですか」


「いや、自分からいくのとは違って、照れるもんだね……」


「いいから、ほら、ポーションに集中してください。いきますよ」


僕は後ろから、先輩の手を操って、ポーションの作り方を教える。

その際に、理論と実際の手順を照らし合わせて教える。

すると彼女はあっさり――。


「すごい! 簡単に理解できたよ! あれだけ教わってもできなかったのに! ヒナタは人に教えるのが上手だね! これは才能だよ」


「えへへ……照れますね」


これも、僕の成長スキルのおかげかもしれないね。

人に教える能力も、日々鍛えられているのかも。


「じゃあ、私にご褒美頂戴!」


「ご褒美ですか……? いいですよ」


いったい何を要求されるのだろう。

でも、大した要求じゃないよね!

先輩も、そこはわかってるはず!


「じゃあ――ヒナタはこれから、私のことをファフ姉って呼ぶこと!」


「えぇ!?」





僕とファフ姉・・・・が学校内を歩いていると……。


「あいつ、ポーションの授業で不正を働いたらしいぜ」


「うわ、まじかよ最低だな」


「しかも女連れて歩きやがって、見せびらかしてやがるのかよ」


どこからともなく噂話が飛んでくる。

わざと聞こえるように言っているに違いない。

僕も嫌われたものだ。

何もしてないのに……。


「気にするな。嫉妬ややっかみだ。それに、ヒナタは何もしていない」


「わかってますよ」


ファフ姉が僕をフォローする言葉を投げてくれる。

うれしいね。

彼女と歩いていると、そういった暴言も怖くない。

一人だったらすこし心細かったかもしれないけど。

友達って、やっぱりいいなぁ。


「ここはプライドのたかい連中の巣窟だからな。蹴落とし合いが日常茶飯事だ」


「そうなんですか……」


ファフ姉は去年から通っているから、頼りになるね。

僕も知らないことを教えてもらえそうだ。

ファフ姉も僕から勉強を教わって、ウィンウィンな関係だね。


「とくに、ガナッシュ・ルーベラという男は気を付けろ。私と同じく留年生で、嫉妬深く、卑劣な男だ」


「そんなヤツが……覚えておきます」


「さっきの連中も、ヤツが裏でいとをひいているに違いない。新人いびりに精を出しているようだ」


「最低の連中ですね……」


僕も気を付けよう。

ここはあくまで学校だ。

勉強に来ているのであって、他人と争いにきているんじゃない。


「それじゃあ、僕はこれで」


「ああ、楽しかったよ。これからもよろしくね、ヒナタ」


次の授業が別々だったので、僕たちはそこでわかれた。

何事もないといいけどね……。

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