第103話 カエデの過去
「ヒナタお兄ちゃん……お話したいことがあるのだが……」
「うん、話して。カエデちゃん」
その夜、僕とカエデちゃんは、みんなが寝静まった後に密談をした。
ようやくカエデちゃんも僕を心から信頼してくれたようだね。
いっしょに黒幕を倒そう。
「私にヒナタお兄ちゃん暗殺を命じたのは……」
「うん、命じたのは……?」
まあ、おおよその予想はついている。
「スカーレット・グランヴェスカー王女なんだ」
「やっぱりね……」
あの王女さん、相当な過激派みたいだからなぁ……。
邪魔となれば僕のような民間人にすらようしゃをしない。
それにしても……どれだけ戦争したいんだ……。
「それにしても、カエデちゃんみたいな小さい子を暗殺者に選ぶなんてね……。そうすれば僕が油断するとでもおもったんだろうか……。カエデちゃんは、どうして暗殺者なんかに?」
「私も、なりたくてなったわけじゃないんだ。シノビの家に産まれた者の宿命だ。産まれたときから、それだけを叩きこまれた……」
「そうだったんだ……。それは、なんというか……」
「それに、私は一度里を抜けようとしたんだ。だけど、あいつらは私の実の兄を盾に……!」
「え!? カエデちゃん、お兄さんがいたの!?」
だから僕のことをお兄ちゃんと呼ぼうとしたのかな?
カエデちゃんのお兄さん、今はどうしているのだろう……。
「ああ、だけど兄もまた掟を破って、今は捕えられているんだ。私はそれを救いたい。だけど、奴らに逆らったら兄を殺すと……」
「そんな事情が……。わかったよ、僕に任せて。スカーレット王女の陰謀を阻止して、お兄さんも救い出そう!」
「ヒナタお兄ちゃん……! 大好きだ!」
カエデちゃんはまた、僕に抱き着いてくる。
僕はそれを優しく受け止め、頭を撫でる。
するとすぐに、安心したのかカエデちゃんは眠ってしまった。
僕はカエデちゃんをそっと寝かせて、毛布をかけてやる。
やっぱり、同じ妹を持つ者として、お兄さんの気持ちを考えると胸が痛い。
もしもヒナギクが、そんな目にあわされていたらと思うと……!
「待っててねカエデちゃん、僕が、救ってみせるから!」
◇
翌朝、そこにカエデちゃんの姿はなかった。
カエデちゃん……!
いったいどこに……!?
僕は探し回ったけど、どこにもいない。
一応捜索届も出したけど……きっと見つからないだろうね。
シノビに本気で隠れられたら、どうすることもできない。
どうしてなんだカエデちゃん……!
心が通じ合ったと思ったのに……!
◇
【side:カエデ】
私は独り、夜の街を走っていた。
もうこれ以上、ヒナタに迷惑はかけられない。
こんな私のことを本気で心配して、本気で考えてくれた人……。
私の2人目のお兄ちゃん……。
「待っててねお兄ちゃん、私が、一人でケリをつけるから……!」
もちろん、目指す場所はシノビの里。
だけど、私ひとりではとうてい太刀打ちできない。
入念な準備を整えて、闇に乗じて忍び込むしかない。
私は戦闘の準備をするために、数日間街に身を潜め、作戦を練ることにした――。
「――――」
だけど、待って――。
そんなことをすれば、どうなるだろう……。
きっとあのヒナタのことだから、私を追いかけてくるに違いない。
そうなれば、もっと迷惑がかかる。
「やっぱり、私ひとりじゃムリなのかな……」
今の私に出来ることはなんだろう……。
どうすれば、ヒナタに報いることができるだろう。
そしてどうすれば、お兄ちゃんを救えるだろうか。
「難しいけど、これしかないっ――」
私は来た道を引き返し――。
――一人、王城へ向かった。
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