第103話 カエデの過去


「ヒナタお兄ちゃん……お話したいことがあるのだが……」


「うん、話して。カエデちゃん」


その夜、僕とカエデちゃんは、みんなが寝静まった後に密談をした。

ようやくカエデちゃんも僕を心から信頼してくれたようだね。

いっしょに黒幕を倒そう。


「私にヒナタお兄ちゃん暗殺を命じたのは……」


「うん、命じたのは……?」


まあ、おおよその予想はついている。


「スカーレット・グランヴェスカー王女なんだ」


「やっぱりね……」


あの王女さん、相当な過激派みたいだからなぁ……。

邪魔となれば僕のような民間人にすらようしゃをしない。

それにしても……どれだけ戦争したいんだ……。


「それにしても、カエデちゃんみたいな小さい子を暗殺者に選ぶなんてね……。そうすれば僕が油断するとでもおもったんだろうか……。カエデちゃんは、どうして暗殺者なんかに?」


「私も、なりたくてなったわけじゃないんだ。シノビの家に産まれた者の宿命だ。産まれたときから、それだけを叩きこまれた……」


「そうだったんだ……。それは、なんというか……」


「それに、私は一度里を抜けようとしたんだ。だけど、あいつらは私の実の兄を盾に……!」


「え!? カエデちゃん、お兄さんがいたの!?」


だから僕のことをお兄ちゃんと呼ぼうとしたのかな?

カエデちゃんのお兄さん、今はどうしているのだろう……。


「ああ、だけど兄もまた掟を破って、今は捕えられているんだ。私はそれを救いたい。だけど、奴らに逆らったら兄を殺すと……」


「そんな事情が……。わかったよ、僕に任せて。スカーレット王女の陰謀を阻止して、お兄さんも救い出そう!」


「ヒナタお兄ちゃん……! 大好きだ!」


カエデちゃんはまた、僕に抱き着いてくる。

僕はそれを優しく受け止め、頭を撫でる。

するとすぐに、安心したのかカエデちゃんは眠ってしまった。


僕はカエデちゃんをそっと寝かせて、毛布をかけてやる。

やっぱり、同じ妹を持つ者として、お兄さんの気持ちを考えると胸が痛い。

もしもヒナギクが、そんな目にあわされていたらと思うと……!


「待っててねカエデちゃん、僕が、救ってみせるから!」





翌朝、そこにカエデちゃんの姿はなかった。

カエデちゃん……!

いったいどこに……!?


僕は探し回ったけど、どこにもいない。

一応捜索届も出したけど……きっと見つからないだろうね。

シノビに本気で隠れられたら、どうすることもできない。


どうしてなんだカエデちゃん……!

心が通じ合ったと思ったのに……!





【side:カエデ】


私は独り、夜の街を走っていた。

もうこれ以上、ヒナタに迷惑はかけられない。


こんな私のことを本気で心配して、本気で考えてくれた人……。

私の2人目のお兄ちゃん……。


「待っててねお兄ちゃん、私が、一人でケリをつけるから……!」


もちろん、目指す場所はシノビの里。

だけど、私ひとりではとうてい太刀打ちできない。


入念な準備を整えて、闇に乗じて忍び込むしかない。

私は戦闘の準備をするために、数日間街に身を潜め、作戦を練ることにした――。


「――――」


だけど、待って――。

そんなことをすれば、どうなるだろう……。

きっとあのヒナタのことだから、私を追いかけてくるに違いない。

そうなれば、もっと迷惑がかかる。


「やっぱり、私ひとりじゃムリなのかな……」


今の私に出来ることはなんだろう……。

どうすれば、ヒナタに報いることができるだろう。

そしてどうすれば、お兄ちゃんを救えるだろうか。


「難しいけど、これしかないっ――」


私は来た道を引き返し――。



――一人、王城へ向かった。

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