第102話 逆恨み【side:カエデ】
私はカエデ・ロベルタス。
暗殺者だ……だがそれも過去の話。
今はヒナタを監視するふりをして、護衛をしている。
愛する人を守るのも、シノビの仕事だからな!
今日はそんなヒナタの大学初日、登校日。
私は陰ながら彼を応援するため、尾行していた。
そして夕方、帰り道。
ヒナタは無事に初日をやり遂げたようだ。
「カエデちゃん……ずっとここで待ってたの?」
「なに、気にするな! 待つのもシノビの仕事だ! それに、ずっとヒナタのことを見ていたから退屈はしなかったぞ」
「そっか、でも無理はしないでね。家にいてもいいんだからね」
「っふ、ヒナタは優しいな。でも、これは私が好きでやっているんだ」
「じゃあ、まあ、帰ろっか」
家に向かって歩き出すヒナタを、私は後ろから離れて後をつける。
一緒に歩いているところを女王側の誰かに見られるとまずいからな……。
帰路を半分までいったところだった――。
突如何者かが、私を後ろから羽交い絞めにしてきた。
「やめろ! はなせ!」
私は大声でヒナタにアピールする。
だけど私は、一度はヒナタを殺そうとした。
そんな私を、彼は助けてくれるだろうか――。
◇
【side:ヒナタ】
「やめろ! はなせ!」
僕が家路を歩いていると、突然後ろからカエデちゃんの声がした。
誰かに襲われたのかな!?
僕が振り向くと、後ろから羽交い絞めにされているカエデちゃんの姿が!
そしてその犯人は、僕もどこかで見覚えのある人物だった。
フランツ・カマセーヌ――試験のときに一緒だった人物だ。
「ふはは! 止まれ! ヒナタ・ラリアーク! 俺は今日、見ていたぞ! お前が先生や生徒たちにちやほやされているところをな! おかしいだろぉ!? この俺様が落ちて、なんでド平民のお前がぁあああああ!!!!」
そう叫びだす彼の目は、すっかりおかしくなってしまっていた。
逆恨みにもほどがある……。
でも、理由はどうあれ、カエデちゃんが危ない!
「その子を離すんだ! 目的はなんだ!」
僕は自分の肉体にこっそり
もうすっかり
これも、裏スキルの成長の効果なのかな……。
「目的ぃぃぃぃぃい!? んなもんねぇよ!! 俺はムカつくお前に、地獄を味あわせてやりたいだけだ! この俺と同じようにな!」
「そんな身勝手な……」
たしかフランツくんは、カエルを治療しようとして、反対に爆発させてしまったんだっけ……。
僕は逆にすごいと思うけどな。
爆発させる能力なんて、聞いたこともない……。
それは一種の才能だ。
もちろん、使い方さえ間違えなければ……だけど。
「うおおおおおお! この娘の顔を、俺の能力で焼いてやる! こいつ、お前の大切な人なんだろう!?」
「……っく、卑劣な……!」
なんだろう……ホントに、絵に描いたようなクズだな。
小さな女の子を盾にとり、しかもその綺麗な顔を傷ものにしようだなんて!
許せない……!
「ほらほら、はやく取り返しに来ないと、取り返しのつかないことになっちゃうぜぇ?」
フランツはニヤニヤしながら、右手を宙にかざし、そこで小さな爆発を起こす。
僕がはやくなんとかしないと、その爆発をカエデちゃんに向ける気なのだろう。
だが、その彼の挑発が、僕にとっては絶好の反撃の機会となる!
(
僕は心の中で、無詠唱で鑑定をとなえる。
それによって、フランツのステータス及び、スキルを読み取る!
●フランツ・カマセーヌ
・スキル
■
手のひらで、小さな爆発を起こす。
先天性のユニークスキルで、大変希少。
強力な攻撃スキルだが、
なるほどね、そのせいで、彼は医師の才能には恵まれなかったわけだ……。
だけど、それを理由にして人を傷つけていいわけはない!
だから彼を許すことなんて、到底できない!
僕は
これで僕からも反撃ができる。
だけど、ここからじゃ距離がありすぎる……!
「おいおいどうしたぁ? ヒナタ・ラリアーク! この子のことが大事じゃないのかぁ!?」
「……っく」
そうだ!
僕は今度は
あとは僕の動体視力や反射神経、足の速さにも
これで
少なくとも今の僕には、ね。
「よし! いくぞ!
「なに!?」
僕はフランツに向かって、
爆発球がフランツに向かって飛んでいき、その足元を破裂させる。
もちろんカエデちゃんを傷つけないように、狙いを定めた。
「はっは! 馬鹿め! そんなことをしても無駄だ! こっちには人質が……って、アレ!?」
僕は爆発に乗じて、全速力で走った!
フランツが気づく前に、カエデちゃんをヤツの手から奪い返した!
「は、速い!? ど、どうなってやがる……!?」
「さぁて……フランツ・カマセーヌくん? だったっけ……いっしょに衛兵のところまで、いこっか?」
僕は優しく彼に微笑みかける。
「ひぃっ!!」
◇
愚かなフランツ・カマセーヌを衛兵に引き渡し、僕とカエデちゃんはようやく家に帰ってこれた。
もうすっかり外は暗くなってしまっている。
「ありがとう、ヒナタ……。助けてくれて……」
「カエデちゃんが無事でよかったよ」
「私は、てっきり見捨てられるかと思った……。シノビの世界では、それが当たり前だからだ。失敗したものは、自分の責任だ。簡単に仲間から切り捨てられる……」
「僕はそんなことはしないよ。いっしょに黒幕を倒そう! カエデちゃんが早く自由になれるように! カエデちゃんをこんな目にあわせた奴をいっしょにやっつけよう! だから、さ……カエデちゃんのこと、もっと僕に教えてよ」
カエデちゃんは僕をしばらく見つめると、うるうるした目で――。
「ヒナタ……、ヒナタお兄ちゃん……!」
「へぇ!?」
なんだろう……カエデちゃんにお兄ちゃんと呼ばれると、すっごくくすぐったい。
「ダメか……?」
「い、いや……ダメじゃないけど……」
「お兄ちゃんって呼んでいいなら、ぜんぶ話す」
カエデちゃんが上目遣いで見つめてくる。
どうしよう……。
すっごい可愛い……。
「わ、わかったよ。好きに呼んでいいから!」
「わーい! ヒナタお兄ちゃんだー!」
カエデちゃんはそう言って、僕にとびかかってきた。
やれやれ……。
でも、これで少しはカエデちゃんとまた仲良くなれたのかな……。
だといいな!
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