第99話 観光にいこう


さて、お引越しから一夜明け、今日はいよいよ観光に出かけるよ。

ヒナギクもヒナドリちゃんも、昨日の夜からうずうずしている。


「じゃあリノン、家のことは頼んだよ」


「はいヒナタさま、いってらっしゃいませ」


なんだか偉い人にでもなった気分だ。

カエデちゃんはというと、後ろからバレないように僕たちの後を追うらしい。


「本当にいいの? カエデちゃんも一緒に楽しもうよ。なにかあれば僕が守るからさ」


「いや……そんな迷惑がかかるマネはしたくない……。身寄りのない私を、しかも命を狙った私を、ここに置いてもらってるだけでも感謝なのだ。だから、私は後ろから見るだけで十分……。それに、兄妹水入らずのところを邪魔しても悪いだろ……?」


「カエデちゃん……。カエデちゃんの雇い主――黒幕をやっつけたら、そのときはまたいっしょに観光しようね。約束だよ」


「ヒナタ……。ああ! 約束だ! シノビに二言はない!」


はやくカエデちゃんも安心して暮らせるようにしたいな……。

でもそのためには、カエデちゃんが雇い主の人が誰かを教えてくれないとなぁ。

まだ話してくれる気はなさそうだし……。

とりあえずは様子見かな。


「さあ、それじゃあ、行こうか」


「レッツゴー! なのー!」


僕はまた、以前買い物に行った時のように、ヒナギクとヒナドリちゃんの手を、両手にそれぞれ握って歩く。

まさに、両手に花だ。





「ここが大聖堂かー……!」


僕たちがやってきたのは、サントクルセリア大聖堂。

孤児院のシスターさんたちがやっている教会の本部みたいなところだね。

あまり詳しくはないんだけど……この国で一番大きな宗教施設らしいよ。


「とっても大きいですわね……」


「おっきい、なの……兄さん……」


下から見上げると、てっぺんが見えないくらい大きい。

しかも建物には細かい装飾があちこちにしてあって、途方もないくらい手間がかかっている。

昔の人はこんなものを作ったなんて、すごいなぁ……。

今も使われている宗教施設なだけじゃなく、歴史的な価値も高いらしい。


「なかに入ってみようか」


「えぇ!? 入れるんですの?」


「さぁ……わからないけど、とりあえずきいてみよう」


僕は入口のあたりにいた神父さんに話しかける。

白いひげをたくわえた、真面目そうな人物だ。


「あの、ここって中を見学させてもらったりできます?」


「残念だがね……今日は集会の日で、一般への開放はしていないんだよ。また、開放日に来てもらえるかな?」


「そうなんですか……」


「残念なの……」


せっかく来たのに……。

ヒナギクも残念そうに落ち込んでいる。

もうすぐで学校も始まっちゃうから、今度いつ来られるかわからないしなぁ……。


「どうしても、ダメなんですか?」


ダメもとで、一応粘ってみる。


「これは規則だからね。すまないが、力になれない」


「そうですか……。無理を言ってすみません……」


諦めて、僕たちは立ち去ろうとする。

すると――。


「あれ? そこにいらっしゃるのは……ヒナタさま? ヒナタさまではありませんか?」


声の方を振り向くと――。

そこには、以前僕が助けた孤児院の、シスターマリアがいた。


「シスターマリア! どうしてここに!?」


「今日は、特別な集会の日なんですよ。各地から、お祈りのために集まるんです」


「そうだったんですか……そんな日に……」


「そうだ! ヒナタさまたちも見学していかれます? けっこうおもしろいですよ?」


「え!? いいんですか!?」


「ええ、問題ありません」


「いえ、さっきおじさんに断られたもので……」


「ああ、それはきっと、めんどくさかったのでしょうね……。でも、私が通りがかってよかったです! ヒナタさまのお役にたてて、うれしいかぎりです!」


よかった……、シスターマリアのおかげで、中に入らせてもらえるみたいだ。

たまたま知り合いに会うなんて、ついてるね。


「ありがとうございます、シスター」


「いえいえ、これも婚約者としての役目ですから!」


あれー……このシスターさんはまだこんなことを言ってるのかぁ……?

なんかだんだん僕の婚約者を名乗る人が増えている気がするんだけど、気のせいだろうか。

僕なんかまだまだ一人前じゃないし、そんなつもりはないんだけどな。


「それじゃあ、中にどうぞ」


「あ、はい」


僕たちは、シスターに続いてサントクルセリア大聖堂の中へ。


――そこは、天国だった。


いや、天国と見間違えるほどの、荘厳な内装。

これは、みんながお祈りをするわけだ……。

毎日観光にこれないのがもったいないくらいだよ。

壁や天井にはいろんな絵が飾ってあって、どう表現したらいいかもうわからない。


「すごいですね……」


「ええ、ですが、それだけじゃありません」


「うわぁ……」


そこにはたくさんのシスターや神父さんが集まっていて、なんというかすごく神秘的だった。

みんな、お祈りをするために集まったんだね。

僕も、神様について深く知っているわけじゃないけど、今後のヒナギクの幸せを、祈っておこう。


「見ていてください、12時になると、もっとすごい景色が見れますから」


「もっとすごい景色?」


僕はヒナギク、ヒナドリちゃんと顔を見合わせて、首を傾げる。

いったい、これ以上のすごい景色って?

12時になると、僕は今日、ここにみなさんが集まった理由を知ることになる。


――ゴーン。


12時を知らせる鐘がなる。


「うわぁ……」


「すっごくきれいなの……」


「ほんとですわ……」


ちょうどその時間に、太陽がぴったりの位置に来るらしい。

大聖堂にあるステンドグラスが、日の光を強烈に反射する。

その光が壁の装飾などに複雑に反射し、なんとも神秘的な世界観を作りだしている。


「では、みなさん……神に感謝を……」


代表の人っぽい方がそう言うと、大聖堂に集まっていたみんなが一斉に祈りだした。

一応僕たちも真似しておこう。


「シスターさんはこれが見せたかったんですね……。素敵な景色をありがとうございます」


「いえいえ、ヒナタさまのためならお安い御用です。妹さんたちにも喜んでもらえたみたいで、よかったです」


「シスターさん、ありがとうなのー!」


よかった、ヒナギクも大満足だ。

いままであまり外の世界を見せて上げられなかったからね。

こういう体験は貴重だ。

とっても有意義な観光になったね。





「ただいま」


「おかえりなさいませ、ヒナタさま」


メイドのリノンが出迎えてくれる。

ほんと、僕なんかにはもったいないくらいだけど……。

ヒナドリちゃんいわく、メイドを雇ってもぜんぜん大丈夫なほど、お給料の蓄えがあるそうだ。

ライラさん、結構すごい額くれていたんだなぁ……。

ありがたいね。


「リノン、変わったことはなかった?」


「万事、順調でございます。お風呂も沸いていますし、お食事の用意もできております。お好きな方からどうぞ」


「わあ、ありがとう」


帰ってすぐに、ゆっくりくつろげるなんて……!

前まではヒナドリちゃんに家事を押し付けていたけど……。

ヒナドリちゃんにもゆっくりしてもらいたいからね。

僕の稼ぎでヒナドリちゃんの負担が減るなら、それに越したことはない。


今日もいい日だったな!

僕はゆっくりお風呂につかりながら、そう思った。

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