第92話 隠された真実【side:スカーレット・グランヴェスカー】


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時は遡り、表彰式の翌日――。

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私はグランヴェスカー王国の王女、スカーレット・グランヴェスカー。


昨夜、表彰式にて、ギルド【世界樹ユグドラシル】を表彰した……。


「くっくっく、しかしあのギルド長のライラという女……なかなかいい根性をしている……。肝が座っていて、なかなかに侮れんな……」


私がひとり呟くと、部屋の外から声がかかる。


「王女さま。面会に参りました」


私の部下だ。今日は話があって、呼んでおいたのだ。


「入れ」


言うと、兵士の恰好をした男が二人入ってきた。


彼らは私の命令で動く、特殊な兵だ。


表向きは一般の兵士に紛れ込ませているが、彼らが忠誠を誓っているのはこの国にではない。私にだ。


いろいろ裏工作をするのに使っている。


「それで……なぜ今日呼ばれたのかわかるな……?」


「はい……承知しております……」


「お前たち二人には、昨夜、門番の仕事を任せたな」


「はい……」


全てをコントロールするには、まず入口を固める必要がある。


こやつらに門番をやらせたのも、それが理由だ。


門番を私が握っていれば、会場内に入る人間を、私がコントロールできるというわけだ。


「【世界樹ユグドラシル】ギルドのポーション師、ヒナタ・ラリアークを中に入れるな、と命令したはずだが……?」


「はい……すみませんでした」


ポーション師――ヒナタ・ラリアーク。


彼はなかなかに厄介な人物だ。


聞けば、【世界樹ユグドラシル】ギルドが栄えたのも、すべてはこやつの功績だというではないか……。


爆発テロを抑えたのもコイツだという……。


これでは私の野望の邪魔にしかならない……!


これから戦争を起こそうというのに、こんな優秀な治療術師がいたのでは、話にならん。


私の作戦では、爆発テロを皮切りに、戦争にまでなだれ込ませる算段だったのだ……。


それが、あのポーション師のせいで、思ったほどの被害にはならなかった……。


よって、戦争は回避され……私の野望はまたふりだしに戻った。


今後も事あるごとに邪魔されてはかなわん……。


「ポーション師はあそこで追い返し、暗殺する手はずだっただろう? ポーション師さえいなければ、ライラという女も丸め込めたかもしれんのに……」


「申し訳ありません……。邪魔が入ったもので……」


「いい訳をするな!」


「それが……ジールコニア子爵さまがやってきて……」


「なんだと!? ジールコニア子爵……」


ふふふ……そうか……ジールコニア子爵か……。


奴め……あくまで私を邪魔立てしようというのだな……!


「面白い……! よし、今後もヒナタ・ラリアークの見張りを続けろ。ジールコニアとは話をせねばならんようだな……」


私の邪魔をするものは、誰であろうと容赦はしない!


このスカーレット・グランヴェスカーの邪魔をするものはな!





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時間と場所は戻り、現在の世界樹ユグドラシルへ――。

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【side:ヒナタ】


ガイディーンさんの計らいもあって、僕は医術大学に行くことになったんだど……。


そうなると首都に引っ越さなければいけないね……。


ヒナギクとヒナドリちゃんも連れていくとして……。


いろいろと新しい環境を整えなくちゃね。


世界樹ユグドラシルのみんなと離れちゃうのは寂しいけど、まあすぐに戻ってこれるよね!


「と、いうわけで、お引越しします! いいかな? 二人はそれで」


「わーい、お引越しー! なのー!」


「私はお兄様の行くところなら、どこへでもついて行きますわ。ね、ヒナギク」


よかった、2人ともお引越しが嫌じゃないみたいだ。


特にヒナギクは元気になってから、もう元気が溢れちゃってるし……、都会にいくのも悪くないだろう。


「それにしても……黒龍のブラックペンダントは惜しかったな……」


僕は砕けて効力を失ったペンダントの残骸を眺め、ため息をもらす。


「なんですの? それ?」


「ああ、黒龍のレア素材から作った、超強力な装備品だよ。これを装備すると、潜在能力が引き出されて……【活性ブースト】っていうチート級の超すごいスキルが使えるんだよ。ホラ、こうやって――」


僕は目の前にたまたま置かれていたポーションに向かって、発動しないはずの【活性ブースト】を撃つ。


「――【活性ブースト】ってね……」


すると――なぜだかポーションは活性化され、上級ポーションへ……。


「え!? なんで!? もう【活性ブースト】は使えないはずじゃ……」


「ど、どうしたんですの!?」


「そ、それが……黒龍のブラックペンダントはもう壊れてしまったから、【活性ブースト】は使えないはずなんだ。それなのに……どういうことなんだろう?」


「ずっと装備していたから、【活性ブースト】が身についたのではありませんか?」


「そんな馬鹿な……」


僕は今起こったことが信じられずに、頭を抱える。


僕本来のスキルとしては、素材活性マテリアルブーストしか使えないはずなんだ。


それが装備品の効果で、活性ブーストが使えるようになっていただけで……。


「そうだ……!」


僕は自分の身体に向けて、万能鑑定オールアプリ―ザルを放つ。


これで自分の状態を確認すれば、なにかわかるかもしれない!



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●ヒナタ・ラリアーク


 □スキル一覧


 ・活性ブースト        【素材活性マテリアルブーストから進化】

 ・錬金クリエイト        【薬品調合ポーションクリエイトから進化】

 ・万能鑑定オールアプリ―ザル   【素材マテリアル鑑定アプリ―ザルから進化】

 ・火炎小球ファイアボール     【万能鑑定オールアプリ―ザルにより会得】

 ・魔法手術マジックオペ      【万能鑑定オールアプリ―ザルにより会得】

 ・×範囲回復魔法エクストラヒール  【万能鑑定オールアプリ―ザルにより会得】


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「おかしい……黒龍のブラックペンダントを装備していた時と変わらない……!」


スキル以外の情報も見てみよう……。


ん? なんだこの項目は……、以前にはなかったぞ……?



――≪裏スキル一覧≫――



「よし、見てみよう……」


僕はおそるおそる、その謎の項目を確認する。



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●ヒナタ・ラリアーク


 ★裏スキル一覧


  裏スキルとは、普段は眠っている隠れた才能のことである。


 ■成長する意思


  パッシブスキル。

  このスキルを持つ者は、成長の限界を知らない。

  あらゆることを吸収し、とどまることなく成長を続ける。

  鑑定スキルでスキルを覚えることも安易に可能。

  スキルは常に成長し、進化する。

  このスキルを持つ者にとって、すべての経験は無駄にならず、糧となる。


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「!? なんだこれ……。凄すぎる……!?」


裏スキルなんていうのがあるなんて……! 初めて知った……。


これも黒龍のブラックペンダントを装備していたせいなのかな?


――装備したものの潜在能力を最大限引き出す――と書かれていたし、そのせいで裏スキルが見れるようになったのかもしれない……。


もしくは考えられるのは、ここに書いてある通り、僕のスキルが成長し、進化したことで、万能鑑定オールアプリ―ザルの性能がアップして見れるようになったのかもね。


どっちにしろ、僕にこんなすごいスキルが隠されていたなんて……!


このスキルのおかげで、活性ブーストが僕に定着・・したのかも……!


「よかった……活性ブーストがまだ使えるってことだ!」


医術大学に行くのは不安だったけど……これならなんとかなりそうだ!


もしくは単純に、成長・・のおかげで素材活性マテリアルブースト活性ブーストに進化していたのかも! まあどっちでもいいけどね。


僕が鑑定スキルでスキルを簡単に使えるようになっていたのも、すべてはこの【成長する意思チートスキル】のおかげだったのか……。


僕にこんな素晴らしい才能が眠っていたなんて……!


きっと世界樹ユグドラシルで、たくさんいろんな経験を積んだからこそ、こうやって成長できたんだな……!


ガイアックの医術ギルドにいた時は、毎日同じような日々の繰り返しで……なにも学ぶことはなかったし……。


だから最近になって、ようやくスキルが成長しはじめたのかな……?


これもライラさんやみんなと出会ったおかげだ。


僕の活躍は、スキルアップポーションや、ペンダントのおかげだとばかり思っていたけれど……。


それだけじゃない、もともと僕の才能は成長すること・・・・・・だったんだ!


なんだか自信が湧いてきた気がする!


でもこれヤバいんじゃないか……!?


ペンダントもすごい強力チート性能だったけど……、このパッシブスキルというやつも、かなりのものだぞ……!?


このままだと、僕のスキルはどんどん進化していって……大変なことになるんじゃ……?





「よし! がんばるぞ! お兄ちゃん頑張るから、見ててね!」


「がんばるなのー! でも、兄さんは頑張りすぎだから、ほどほどに、なのー!」


「そうですわよ、お兄様はちょっと急ぎすぎですわ! もう少しゆっくりなさったらどうなの?」


「あはは……そうだね……。じゃあ首都に着いたら、みんなでゆっくり観光でもしようか」


「「やったー!」」


こうして僕は、自分の本当の才能に気づいた。気づかされた。


そう、みんなのおかげで、僕は自分の本当の価値に、気づくことができたんだ!


そして自信にもつながった……!


たくさんの、かけがえのない経験が……、僕を文字通り成長させてくれたんだ!


僕は新たな決意と自信を胸に、旅立つ支度をするのだった――。





新たな能力の覚醒と、新たな門出――。


次回、激動の第3章『王国・首都 編』開幕!

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