第91話 因果応報


「ヒナタくんはいるかな……?」


そう訪ねてきたのは、元気になったガイディーンさんだった。


「ガイディーンさん!」


そういえば、改めてお礼にくるとか言ってたっけ……。


「もうすっかり良くなって……。前より100倍元気だよ。ありがとう」


「よかったです。そういえば、聞きましたよ。ガイディーンさん、医術協会会長になられたんですね。おめでとうございます。僕も嬉しいですよ」


僕が助けたガイディーンさんが、出世までするなんて、自分のことのように嬉しいね。


「ああ。ありがとう。それもこれも、全部ヒナタくんのおかげだよ。君のおかげでうちのバカ息子も少しはまともになった」


「いえいえ……」


「それでだ、お礼に関してなんだがな……」


「別にいいのに……お礼なんて……」


「君を国立医術大学に私の名で推薦しておいた。受けるかどうかは君の自由だが、ぜひ考えてみてほしい……」


「え?」


ガイディーンさん、今なんて……!?


国立医術大学!? 推薦!?


僕は平民なのに!? それに、お金もないし……。


「よかったじゃないですかヒナタくん! ぜひ、医師免許をとりましょうよ!」


横で聞いていたライラさんが飛び跳ねる。


「ですがライラさん、ギルドの仕事もありますし……。それに、スカーレット王女のことも……」


「それなら気にしないでください! ギルドのことは大丈夫です。ヒナタくんの好きな時に、好きなだけ来てくれるだけでいいんですよ?」


「ええ……どういうことですか……それ。それに……僕にはそんな、大学にいくようなお金なんて……」


「それなら心配しなくていい。お金も大丈夫だ。私は医術協会会長だぞ? そのくらい、なんとでもなる」


たしかに、ガイディーンさんの鶴の一声で、なんとでもなるんだろうけど……。


僕に医師免許なんて取れるんだろうか……?


たしかに免許があれば、もっと多くの人を救える。


もともと僕はポーション師だけど、もし僕が貴族に産まれていたら、医者を目指したかもしれないね。


「わかりました。ギルドや家族に迷惑のかからない範囲で……頑張ってみようかな」


「大丈夫ですヒナタくん! ヒナタくんなら余裕ですよ」


「えぇ……だからライラさんのその根拠のない謎の理論はなんなんですか……」


「ははは、まったく、君たちは仲睦まじいな」


ガイディーンさんがそんなことを言うものだから、僕たちは二人して照れる。


「まぁとにかくだ、そう言うことだから、私はこれで」


それだけ言うと、ガイディーンさんは帰っていった。


医術協会会長になったんだし、忙しそうだね。


「ヒナタくん、そんなに心配なら、私もついて行きましょうか?」


「ええ!? ライラさんも大学にですか? そんな……いいですよ……」


ライラさんは冗談で言ってるのか本気で言ってるのか、わからない時があるなぁ……。


「でも心配だなぁ……僕は平民だし、学もない」


「そんな! 自信を持ってくださいヒナタくん。なんといったって、あのガイアックですら卒業できるんですよ? ヒナタくんなら一瞬で帰ってこれますよ」


「あ、たしかに。そうですね。なんだかそう考えると気が楽になりました……」


ガイアックには悪いけど……。


なんだか行ける気がしてきたぞ!


医師免許を取って、もっとヒナギクやライラさんを守れるようになるんだ!





【side:ガイアック】


俺はヒナタに、善行を積むと誓った。


そして宣言通り、ダッカーの首をとった。


だがまだまだ、俺のしてきたことを考えれば、足りないのだろう。


「俺は、善行を積む旅に出ます。一から自分を見つめなおしてみたいんです」


俺は元気になって出世した親父に、宣言する。


「よく言った。お前もヒナタくんのおかげで、ずいぶんマシになったな。応援するよ」


「では、行ってまいります」


俺は荷物をまとめ、家を出る。もうこの街にはしばらく戻らないだろう。


俺は生まれ変わるために、修行の旅に出るのだ。


「そうだ、最後に、あの場所に寄っていこう」


あの場所、というのはもちろん――医術ギルドのことだ。


「よう、キラ。出世おめでとう」


「ガイアック……」


俺の元部下……安心して、このギルドを託せるな。


「なんのようだ?」


「いや、最後に、ここの景色を見たかっただけさ……」


「そうか。まあ邪魔にならないようにな。用が済んだら帰ってくれ」


つれない奴だ。まあ、俺がそれだけのことをしてしまったのも事実だ……。


「おい、ここにまとめてあるポーション、捨てるのか?」


俺はふいに目に付いたポーションの塊を指さす。


「ああ。それはあんたがギルド長だった時代のものの残りだ。もう患者に出すには少々古いのでな……。もし欲しければ餞別にくれてやるよ」


「おお、そうか。ではありがたくいただこう」


旅の途中、けがをしたりすることもあるだろう……。


それに、俺の時代の残りだということは、もともと俺のもののようなものだ。


「では、そろそろ行くぜ。迷惑かけたな、キラ」


「ほんとだよ。さっさと消えてくれ、ガイアック」


まったく、最後まで俺のことを許してはくれないのか……。


だが、それも仕方ない。俺はそういうことを背負って生きていくのだ。


右腕を失い、アイデンティティも失った。父を失いかけて……。


とうとうプライドまで捨て去った……。


俺があのヒナタに、頭を下げるなんてな……。


だからもう思い残すことはなにもない。俺には何もないんだ。


「よし、ここから新たな人生の始まりだ!」


俺は旅に出る。





「ぐあああああああああ!」


旅の途中、俺は怪我を負ってしまう。


なに、軽いけがだ。これくらいならポーションを飲めばすぐに回復するだろう。


うさぎの魔物から受けた、擦り傷だ。街を出てすぐの草原で、攻撃を受けた。


「えーっと、一番古いのから飲まなきゃな……。よし、これか。少々瓶の形が変だが、まあいいだろう」


――ぐびぐび。


俺は一気に飲み干す。


「う……!」


だがなんだコレは!? これが回復ポーション!?


味が変だし……これは、毒!?


俺はもう一度、ポーションの瓶を確認する。


これは……どこかで見覚えがあると思っていたが……。


俺の頭を走馬灯が駆け巡る。


「これは、あのとき俺が用意したポーション!?」


あのとき――すべての始まりの日。


俺がヒナタをギルドから追放した日だ。


■■■■■■■■■■■


「不満そうだな? だがそれだけじゃないぞ?」

「え?」

「昨日お前が作ったポーションが原因で、患者が死んだ。これが証拠のビンだ」

「は?」


「ありえない! これは僕の作ったポーションじゃありません!」

「うるさいそんなのどれも同じだろ」

「いくら僕でも、自分の作ったものを見間違えるわけがないです」


「嘘をつくなよ。ポーション師はお前だけしかいないんだから。お前が作ったに決まってるだろ?」

「さっきあなたたちだって、混ぜるだけなら誰でもできると言ってたじゃないですか!」

「は? 俺たちは暇じゃないんだから、わざわざそんなことするわけないだろ。さっきはお前がいなくなった後の話をしただけだ」


「裁判にかけてもいいところを、特別に追放で許してやるんだ感謝しろよ」

「っく……」


■■■■■■■■■■■


俺はヒナタのポーションを毒入りのポーションにすり替え、その罪を着せたのだった。


その時に、毒入りのポーションを何本か用意した。


それの残り・・が……コレだ。


「う、げほっげほっ……!」


俺は必至に、さっきのポーションを吐き出そうとする。


まさか自分が用意した毒を、自分が飲むことになるなんて……!


結局、神は俺を許さないのか……!


せっかく心を入れ替えようと思ったのに……過去の行いで……俺は……!


「うぅ……」


こんなことなら……いや、後悔しても遅いか……。


だんだん意識が遠ざかる。


目が覚めたら地獄なのだろうな……。


まぁいいか……これがみじめな俺に相応しいラストだ……。


俺はそこで意識を失った。





新たなチャンスを手にしたヒナタとは対照的に――。


ガイアックは自分の蒔いた種で、自分が苦しむことになってしまった……!


そんなガイアックの命運はいかに!?


ガイアックはどうなってしまうのだろうか……!?

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