第90話 医術協会長【side:ドレイン・ヴァン・コホック】
・グラインド・ダッカー
・ガイアック・シルバ
「はぁ……」
私は報告書を前にして、ため息を吐く。
この1年間でスキャンダルを起こした医師たちのリストだ。
「これは私も、そろそろ潮時かもしれないな……」
スキャンダルを起こした二人の医師は、どちらも私のよく知る医師だ。
彼らにギルド長のポストを任せていたのも私の責任だ。
私ももう歳だし、感覚が鈍ってきているのかもしれない。
だが、後任が見つからないのだ……。頼れる後任が。
ガイディーン……。彼は優秀だった。
しかし、ガイアックのことがあってからは……すっかり弱ってしまったと聞く……。
「どこかにいい医師がいないものか……」
私がそんなことを考えていると……。
「失礼します」
ちょうど、見計らったようにガイディーンが現れたではないか!
「ガイディーン! お主、倒れたときいていたが……?」
「協会長、お久しぶりです。死の淵から舞い戻りましたよ。とある人物のおかげでね」
「おお! それはよかった! しかし、とある人物……?」
ガイディーンの肌艶は、以前よりそうとう若く見える。
私の見間違いでなければ、全盛期の元気さを取り戻しているように見えるが……。
いったいどんな魔法をつかったのだろう。
「ヒナタ・ラリアークという少年です。彼の特別なポーション技術によって、救われました」
「ほう……彼か……。しかしポーションだと!? 医師ではなく、ポーションにそんなことが……? たしかに彼は以前にも多大な功績をあげているが……」
「彼は特別なのですよ。間違いなく、今後の医療を数世紀進歩させることになる人物です」
「まさかそれほどまでとは……。それは楽しみだな……」
暗い気持ちになっていた私に、うれしいニュースだ。
私がいなくなった後のことを考え、鬱になっていたのだが、これは医術界の未来も明るいのかもしれんな。
安心して身を引けるというものだ。
「どうだねガイディーン。すっかり元気になった訳だし、私の後任にならないか?」
「ええ!? 私がですか!?」
「ああそうだ。君が次期医術協会会長となるのだ。私はもう必要とされていないみたいだ。それに、君ならだれも文句はいうまい……。いや、私が言わせないさ」
「私が……いいのでしょうか……」
「ああ。もちろんだ。ガイアックの件なら気にしなくていい。私がその責任をとってやめるという形にするから……」
「そんな! なにからなにまで……。ありがとうございます」
私は優秀な医師に後を託せて、幸せだよ。
お礼を言うのはこちらのほうだ。
しかし、ヒナタ・ラリアークか……。気になるな……。
「それで……君の医術ギルドのことだが……。ガイアックもダッカーも辞めた今、どうするのだ? 君が会長と掛け持ちでもいいが……誰かいい人物はいるか? それとも、そのヒナタ・ラリアークに託すのもよかろう」
「はは……彼はやりませんよ。彼にはもっと大事なギルドがあるので。それに、彼は優秀なポーション師ではありますが、医師免許はありませんし……」
「そうか……。ではまぁ、君の好きにするがよい」
「はい。そうします」
◇
【side:キラ】
俺は突然、医術協会に呼び出された……。
俺がいったい何をしたと言うのだろうか。
そう言えば、ガイアックも呼び出されて怒られていたっけな。
だから余計に緊張してしまう……。
「失礼します」
恐る恐る、扉を開ける。
「やあ、キラくん」
「ガイディーンさん!? どうしてここに!?」
「まだ正式な発表はしていないが、私が新しい医術協会会長だ」
「ええ!? それは……おめでとうございます」
そっか、ガイディーンさんは全盛期の調子を取り戻したわけだし……。
功績からいっても、会長に相応しいな。まあガイアックという唯一の汚点を除いてだが……。
だが俺になんの用だろう……。まさかガイアックを頼むとは言われないよな?
「ギルド長のポストに興味はないか……?」
「!?」
「君のことは高く評価している。あのガイアックを、うちのバカ息子をよく支えてくれていたな……。それに、迷惑もかけた……。だからどうだろう? ダッカーの代わりに、ギルド長をやってもらえないだろうか?」
「そ、それはもちろん! よろこんで! ですが……」
「ん? ヒナタくんたちのことか……。それなら心配ない。ちゃんと【
「あ、ありがとうございます!」
まさか、この俺がギルド長なんて……!
ヒナタさんにも感謝しなきゃな……。俺を拾ってくれたんだ。
あの人がいなければ、今の俺はない。
そして、俺はギルド長になるんだ!
絶対にガイアックやダッカーのようにはならない!
【
立派な医者になるんだ!
◆
ガイアックに人生を滅茶苦茶にされかけたガイディーンとキラ。
そんな彼らも、ヒナタのおかげで、まわりまわって最高の結果を得られた。
2人はヒナタに深く感謝をし、新たな道を行くのであった。
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