第三章 王国・首都 編
第93話 王都グランヴェスカー
王都グランヴェスカーに位置する、国立魔術医大――通称オーソリティー。
その名の通り、権威を最も重要視する、歴史と威厳ある学校だ。
僕には一生縁なんかないと思っていたけど、まさかそこの入学試験に参加することになるなんてね……。
ガイディーンさんは「ヒナタくんなら絶対に大丈夫だ!」と言ってたけど……。ほんとかなぁ? 不安だ……。
まあガイディーンさんから特別な口添えをしてくれているみたいだけれど……、それでもなぁ……。
今回はとりあえず試験だけだから、ヒナギクとヒナドリちゃんにはお留守番してもらっているよ。
「……で、なんでライラさんもついて来てるんですか……?」
僕は馬車の隣の席に座っているライラさんを見やる。
「え? なんでって……、私がヒナタくんと離れ離れになるわけないじゃないですか。私がヒナタくんの行くところについて行くのは当然です」
「えぇ!? 今回は試験だけなので、数日したら帰ってきますよ!?」
「……というのはさすがに冗談……、ですけど。私もちょうど王都に用事があったんですよ。それに、ヒナタくん、一人だと心細いかなぁ、なんて思って……」
「ライラさん……」
そう言えば、いつぞやもこうして二人で王都まで行ったっけ……。懐かしいなぁ。もう遠い昔のことのように思える。
でも、ライラさんがついて来てくれたのは、本当言うと嬉しい。やっぱり一人は心細い……。
「うぉほん……さぁ、着きましたよ」
馬車の運転手さんが、咳払いとともに馬車を止める。
また会話を聞かれてしまっていたみたいだね。
それにしても、二回目なのにさすがは王都だ。まだまだ慣れないなぁ……。
「ここが今回泊るホテルかぁ……」
以前泊まったホテルより、ランクは落ちるけど、それでも豪華なホテルには違いない。
「そういえば……今回はライラさんが予約しておいてくれたんでしたっけ……?」
「え、ええ……まぁ……」
「なんで目をそらすんですか……」
なんだか今日のライラさんはちょっとおかしい。
「な、なんでもないですよ! それより、はやくチェックインしましょう!」
「あ、待ってくださいよぅ……!」
◇
「えぇ!? 一部屋しかとれてない!? それってほんとですか……!?」
「はい……申し訳ございません。なにかの手違いでしょうか……。もしどうしてもというならキャンセルも可能ですが……」
ホテルの受付嬢さんの言葉に、僕はひどく動揺した。
前にそんなことを妄想したことがあったけど……今回はまさか本当に一部屋しかとれていないなんて! そんなことあるのか?
「ごめんなさいヒナタくん……私が予約の時に間違えたのかもしれません……」
「いやいやライラさんの責任じゃないですよ。これは仕方ないことです。間違いは誰にでもありますから……」
「すみません……こちらとしても申し訳ないです。あいにくの満室で……キャンセルがあればよかったのですが……」
「いやいや、受付嬢さんのせいでもないですよ。気にしないでください」
どうしたものかな……。僕は安宿でも平気だけど……。ライラさんがなぁ……。
ライラさんにあんまり変なところには泊まらせられないし。
あ、そうだ! ライラさんだけここに泊って、僕が別のところにいけばいいんだ!
僕がそう提案しようとしたところ……ライラさんの発言によってそれは遮られる。
「わ、私はー別に、ヒナタくんと相部屋でも構いませんけどね……!」
「えぇ……!? なななななな何を言ってるんですかライラさん! さすがにそれは……」
「いいじゃないですか。覚悟を決めてください!」
「いったい何の覚悟なんですか!」
受付嬢さんが笑っている。そんなに僕たちのやり取りは可笑しいだろうか。
「お部屋はとっても広いので、大丈夫だと思いますよ? それに、ソファで寝るという選択肢もありますし……。他のホテルもきっと満員です。今は観光シーズンですからね!」
なぜか受付嬢さんが僕たちを相部屋にしようと誘導してくる。まあ受付嬢さんからすれば、このホテルに泊まってもらいたいのだろうし当然か。
それにしてもライラさんが受付嬢さんにアイコンタクトで「グッジョブ」と伝えてるようなんだけど気のせいだろうか……。
「ま、まあ僕も、旅費が浮くので、ライラさんさえよければ構いませんけど……」
「だったら、相部屋に決まりです! そうしましょう! これはもう決定事項ですからね! 逃げたって無駄ですよ、ヒナタくん!」
「逃げませんよ……」
なんだかんだで、大変なことになってしまった。
妙な緊張をして、試験に響かなければいいけど……。
◆
【三人称視点】
ホテルに入っていったヒナタとライラを、物陰から見張る人物が一人。
「ヒナタ・ラリアーク……のこのこと王都まで……ご苦労なことだな……。まさかこの街で自分が死ぬことになるとは知らずに……」
暗殺者は、自分のナイフをクルクルと回し、ほくそ笑む。
「それにしても、昼間からいちゃつきやがって……。私は休日もなく、見張りを続けているというのに……っ!」
刺客の真っ黒なフードから僅かに見えるのは、その職業に似合わない、可憐な少女の顔だった――。
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