第85話 救いの手


「うーん。残念だけど……それはできないよ……」


「え? は? なんでだ!? どうして! 俺がこんなに頼んでるのに!?」


またその態度だ……。


ガイアックのこの高圧的な態度……僕はどうも苦手なんだよなぁ……。


「たしかに、僕もガイディーンさんには元気になってもらいたい。それに、困ってる人がいるのなら、僕は絶対に助けたいと思うよ。あなたの頼みが無くてもね……」


「だったら!」


「でも。これはそう簡単なことじゃないんだ。ガイアック。僕はアナタに何度も裏切られた。なんども踏みにじられた。それで、今更そんな頼みはちょっと都合がよすぎるんじゃないかな?」


「そんな……それは俺もわかってる! それをわかったうえで、恥を忍んでこうして頼んでるんじゃないか!」


それにしたって、虫の良すぎる話だ。彼が今までしたことを思えば……ね。


僕だって、言うときは言うし、これだけは言わせてもらいたい。


「あなたがあの日――僕をクビにした日、なんと言ったか覚えていますか?」


「は? そんなの覚えてるわけないだろう」


はぁ……。そうだとは思ってたけど……。残念だね。


僕はガイアックを恨んでるというわけではない……と思う……だけれど……。


ただ僕が行って、ガイディーンさんを助けるというのは、なにか違う気がする。


それだと、彼は彼のままだ。ガイアックが、変わらなければいけない。


そうじゃないと、また同じことの繰り返しだ。


だからこそ、僕はあえて、ガイアックに言う。


「あきらめて妹といっしょに野垂れ死ね――あなたはそう……言ったんです。仕事を失い途方に暮れている僕にね」


「俺がそんなヒドイことを……!?」


「そうだよ。あの時の僕は、妹のために必死だった。たしかに、それで周りが見えてないことはあったかもしれない……。だけど……、もし僕があのあと、ライラさんに出会ってなかったらって思うと……ね」


「すまない! 謝るから! この通りだ! 許してくれ! なんでもする!」


これは驚いた……。あのガイアックが、僕にここまで言うなんて……。


きっと彼も、たくさん苦しんで、たくさん後悔したんだろうね……。


家族を失いそうになる苦しみは、僕にもよくわかる。


「あきらめて父親といっしょに野垂れ死ね」


「そんな……!?」


「……なんて……僕は言わない。そんなことを言われる悔しさは、僕が一番わかってるからね。だからそれだけはしたくない。あなたを見捨てなんかしない」


「!? それじゃあ……!」


そう、僕はガイアックとは違う。ガイアックはあのとき、僕を見捨てた。


だけど、僕はガイアックを見捨てなんかしない。その逆だ。


これは僕からの当てつけだ。彼と逆のことをすることで、彼がしたことの重大さを思い知ってもらうんだ。


「だけど……約束してほしい」


「ああ! なんでもする! 金か!?」


はぁ……。まったく……なんでこの人はそんな発想ばっかりするんだろうねぇ……。


反省しても、根はかわらないのかな……。


だとしても、僕は可能性にかけてみたいと思う。


彼にだって、人の心はあるはずだ。



「――もう二度と――人を傷つけないでください」



「う……それは……」


「約束、できますか?」


僕がこんなことを言っても、意味はないのかもしれない。


人は変われないのかもしれない。それに、これは単なる僕のエゴだ。


ガイアックの生き方を変えるような権利なんて、僕にはない。


それでも、僕は彼にこれ以上人を傷つけるようなことはしてほしくない。


それに、そのほうが彼自身のためでもあると思う……。


「う……わかった……。約束しよう……。俺は、もう誰も傷つけない……。俺だって……今回のことで、いろいろ学んだんだ……! 本当だ! 俺は変わった!」


「その言葉を……信じますよ」


僕に本当にガイディーンさんを救えるのかはわからないけど……。


やれるだけのことはやってみよう!

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