第84話 慢心と寛容と後悔【side:グラインド・ダッカー】
俺はガイアックの家で、ガイディーン氏を手術した。
完ぺきな手術だ。俺は気分爽快。意気揚々と我が城へと帰る。
「ただいま、レナ。俺のいない間に、なにもなかったか?」
「はい。万事順調です。さすがはダッカーギルド長。完璧なギルド運営です」
「はっはっは、そうかそうか。それはよかった!」
俺の仕事はまさに、完璧そのもの!
万が一にも、失敗などありえないのだった!
なぜなら俺は、長年にわたり監視役の仕事を立派に勤め上げた、実績がある。
そんな俺だからこそ、全体の仕事のスケジュール調整などが完ぺきに出来るのだ。
完璧超人ダッカーの名にふさわしい仕事ぶり。レナもいずれ俺に惚れるだろう。
ガイアックなどとはまさに天と地ほどの差がある!
ガイアックか……もう二度と会うこともなかろう……。
さらばだガイアック! 俺にすばらしいギルドを明け渡してくれてありがとう!
俺は心の中で、史上最低の男に礼を言った――。
◇
【side:ガイアック】
ダッカーが去って数日後――。
俺は親父の寝顔を見ながら、焦っていた。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
いつになっても親父の容体が良くならない……。
どういうことだ、ダッカーの手術は完ぺきだったんじゃないのか?
処置は、完全に終わったんじゃないのか……?
思い当たる可能性としてはふたつだ。
意図的にダッカーが手を抜いたか、もしくは医療ミス……。
このどちらも考えにくい……が……しかし……。
ダッカーは俺を見下していた。だが親父に対してはリスペクトもあっただろう。
だからわざと親父を殺すような真似はしないはず……だ。
あるとすれば、ダッカーの慢心からのミス……。
クソ……あのヤブ医者め……!
「だがどうする……!?」
もう一度ダッカーに頼んだとしても、ヤツにこれ以上何ができる……?
もしかしたらヤツには本来対処できないような容態なのかもしれない……!
それに、この状況からでも間に合うのだろうか? もしかしたらもう手遅れなんじゃ!?
「クソ! クソクソクソ!」
せっかく親父を救えたと思ったのに。
それはつかの間のぬか喜びだったのか!?
俺はなんてツメの甘いやつなんだ! これじゃあ台無しだ!
ダッカーが慢心していると言ったが、慢心していたのは俺の方だ……。
もっと最善を尽くすべきだったのだ……!
そう、最善の選択。それはダッカーに頼ることではなく――。
「ヒナタ・ラリアーク……っ!」
俺が最も、複雑な感情を抱いている相手……!
俺を何度も苦しめ、救い、どん底に突き落としてくれた相手。
ダッカーに縋るのでさえ、俺にとっては虫唾が走る思いだったが……。
だが、いくらなんでもヒナタ・ラリアークにだけは……!
いや、今はそんなことを言っている場合ではない。
もはや時間はない。一刻の猶予も残されてはいないのだ!
「うおおおおおおおおお!」
俺は自分の感情を殺し、ひた走った。
・
・
・
「はぁ……はぁ……着いた……」
――【
俺から全てを奪った……忌々しき、あのギルドだ。
ただでさえヒナタには屈辱な目に合わされたばかりだ。
それに、今更俺がどんな顔して頼むというのだ?
考えても仕方ない……。
だがきっとアイツは、そんな俺ですらも許して、受け入れてくれるのだろうな。
そんなところも憎たらしい。実に不愉快な人間だ。
「よし!」
俺は、ヒナタ・ラリアークに面会すべく、ギルドへ足を踏み入れる。
◇
【side:ヒナタ】
「え? ガイアックが僕に面会を?」
なんのつもりだろう……。
嫌な予感しかしないな……。また面倒事を持ち込まなきゃいいけど……。
僕は辟易としながらも、しぶしぶ面会室へ向かう。
「で……なんの用なのかな?」
「ヒナタ……」
僕が現れると、ガイアックは睨みつけてきた。
やっぱり、まだ僕を嫌っているのかな? でも、だとしたら本当に何の用だ?
「今日は頼みがあってきたんだ……。非常に、耐えがたいことではある、が……」
「えぇ……?」
僕はひどく困惑する。頼み……って、どういうこと?
あのガイアックが僕に頭を下げる日が来るなんて……。
自分が死にかけていても、僕の手助けだけは頑として受け入れなかった男だ。
そんな彼が、意思を曲げることがあるとすれば……。
「ガイディーンさんか……」
「……! そうだ……。話が早いな」
それは僕もショックだ。きっと、ガイディーンさん、よくないんだね……。
それならガイアックのこの行動にも納得できる……か?
いや待て、いくら父親の為だとしても、僕を頼ることなんてあるのか?
「実は……医術ギルドの方にも診てもらったんだが……親父は回復しなくてな……それでお前のところに来た」
「えぇ!? そんな……医術ギルドの人たちでさえ無理なら、僕なんてなおさら役に立たないんじゃ……?」
僕はあくまでポーションの専門家だ。鑑定スキルとかがあるとはいえ、やっぱりそこは専門家には敵わないんじゃないのかな?
「いや、ヒナタ。非常に不本意だが、お前の能力はレベルが高い。それは認めざるを得ない……。お前になら、なんとかできるはずなんだ」
なんだかガイアックに認められるというのは、妙な気分だ。
いや、最初から彼は僕のことを認めていなかったわけではなかったのかもしれない……。
ガイディーンさんが僕に入れ込むから、その嫉妬もあったに違いない。
とにかく、彼は僕のことが気に入らなかったんだね……。
でもそれは終わったこと。過去のことだ。今は彼はただの、困っている患者の家族だ。
「そういうことなら……」
「ほんとうか!? お願いできるか……? 俺の家に来て、親父を診てやってくれ!」
ガイアックは目の色を変えて、僕に縋りつく。
こんな必死な彼は初めて見た……。
まだ心を完全に入れ替えたわけではなさそうだけど……。
まあ、そもそも人間が本当に変わることなんてできるのかは疑問だけど。
それでも彼は、なんとか変わろうとしている。変わろうとしたんだな。
「なぁ、お願いだ、ヒナタ。お願いします!」
ガイアックはもう一度、僕の手を握り頼み込む。
手を握るのは正直やめてほしいけどなぁ……。
「うーん。残念だけど……それはできないよ……」
「え? は?」
――僕は、涙ぐむ彼を目の前にして、ハッキリと言い放った。
◆
ガイアックの必死の頼みごとを、きっぱりと断ったヒナタ。
だがそれが本当に、あの優しいヒナタの本心なのだろうか!?
ヒナタの心中やいかに!
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