第83話 高慢と偏見と害悪【side:グラインド・ダッカー】


俺ことグラインド・ダッカーは、偉大なる医術ギルドのギルド長である。


というのも、このガイアックという馬鹿な男から、みごとに乗っ取ったのだ。


そしてなんとも興味深いことに、そのガイアックが俺に頼みごとをしてきたではないか。


痛快だ! 実に痛快だ! 乗っ取り、蹴落とした人物が、さらに俺に頼って、縋ってくるなんて!


これほどまでに愉快なことがあるだろうか?


順調だ。順調すぎて怖いくらいだ。いつかこれが終わってしまわないか……。


俺が新しいギルド長になってからというもの、実に順調なのだよガイアックくん。


いかに前任者のコイツが無能であったか、よくわかるな。


「さあ、ついたぞ。ここが俺の家だ……」


俺はガイアックに案内され、奴の家にやってきた。


奴の父親の病気を治すためだ。


それにしても――。


「なんともみすぼらしい家だな。落ちぶれたものだ……。あのシルバ家ともあろうものが……っくっくっく……!」


「っく……!」


俺の侮辱に、ガイアックは眉をひそめる。


だが何も反論してこない。実に気分がいい。こいつにしたら、俺が最後の頼みの綱なんだろうな……。


まあこれがこいつ本来の分相応な家というものだ。そもそも、こんな阿呆がギルド長なんぞやっていたのがおかしかったのだ。


「それで、ガイディーンさんはどこだ?」


「あっちのベッドに寝ている……」


俺は言われるまま、ベッドに向かい、患者ガイディーンの顔を確認する。


これは……。


「どうしてこんなことになるまで放っておいたんだ……!?」


俺の知るガイディーン氏の顔じゃない……。すっかりやつれてしまっている。


いくらなんでもこりゃ悲惨だ。ガイアックは何をしていたんだ!?


「しょうがないじゃないか……! 俺には金もないんだ……」


だからと言って、これは酷い……。


もっと早くに俺の元へ来るべきだった……。そしたらこんなことには……。


まあそれは、こいつのちっぽけなプライドが、許さなかったのだろうな。


まったく、ガイアックめ。本当にどうしようもない男だ。


「まあいい。最善を尽くそう……」


俺は最新の知識と医療用アイテムを駆使して、手術に取り掛かる。


協会とのつながりも深い俺だからこそできる芸当だ。


最先端の医療をお見せしよう……!





「よし……手術は終了だ……」


俺は最善を尽くした。ガイディーン氏はじきに回復するだろう。


「すごい……俺の時代とは全然格が違う……」


どうやらさすがのガイアックでも、違いがわかるようだな。


「ありがとうダッカー。こんなことを言うのは癪だが、あんたは恩人だ」


「いや、構わないよガイアック。お前は無能で腹の立つ男だが、ガイディーン氏にはなんの罪もないのだ。これくらい、お安い御用だ」


ガイアックが素直に礼を言うなんてな。信じられん。


だが実に気分がいい。ガイアックを屈服させた気分だ。


俺は万能感や全能感に浸っていた。


これは医術協会会長の座も、そう遠くはないな……。


ガイディーン氏を救ったことを、上にアピールすれば……ポイント稼ぎにつかえるかもしれんな。


「では、ガイアック。よい人生を! といっても、お前にはもう無理かな? アッハッハッハ」


俺は景気よくその場を後にする。


さあ、まだまだこれからだ!





【side:ガイアック】


クソ、ダッカーのヤロウめ。どこまでもムカつく態度だったな……。


だが我慢ももう終わりだ。手術は終わった。


親父はじきに良くなるそうだ。よかった。


だが、どうもダッカーの奴、妙だ……。


あそこまで嫌な奴だったか? あれじゃ、まるで以前の俺みたいだ。


ギルド長になったことで、調子に乗っているのはわかるが……。


あの様子だと、そう長くは持たないだろうな……。


かつての俺のように、失脚し、地べたを這いつくばるがいいさ……!


俺はそのときまで、せいぜいこの地獄で息をひそめて待っていてやる。


そしていつかダッカーに、同じ思いをさせてやるぜ!





ダッカーは慢心ゆえに、自分の状態に気づいていなかった……!


自分がかつてのガイアックのように、つけあがっていることを……。


そして、重大なミス・・・・・を犯していたことを……!

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