第83話 高慢と偏見と害悪【side:グラインド・ダッカー】
俺ことグラインド・ダッカーは、偉大なる医術ギルドのギルド長である。
というのも、このガイアックという馬鹿な男から、みごとに乗っ取ったのだ。
そしてなんとも興味深いことに、そのガイアックが俺に頼みごとをしてきたではないか。
痛快だ! 実に痛快だ! 乗っ取り、蹴落とした人物が、さらに俺に頼って、縋ってくるなんて!
これほどまでに愉快なことがあるだろうか?
順調だ。順調すぎて怖いくらいだ。いつかこれが終わってしまわないか……。
俺が新しいギルド長になってからというもの、実に順調なのだよガイアックくん。
いかに前任者のコイツが無能であったか、よくわかるな。
「さあ、ついたぞ。ここが俺の家だ……」
俺はガイアックに案内され、奴の家にやってきた。
奴の父親の病気を治すためだ。
それにしても――。
「なんともみすぼらしい家だな。落ちぶれたものだ……。あのシルバ家ともあろうものが……っくっくっく……!」
「っく……!」
俺の侮辱に、ガイアックは眉をひそめる。
だが何も反論してこない。実に気分がいい。こいつにしたら、俺が最後の頼みの綱なんだろうな……。
まあこれがこいつ本来の分相応な家というものだ。そもそも、こんな阿呆がギルド長なんぞやっていたのがおかしかったのだ。
「それで、ガイディーンさんはどこだ?」
「あっちのベッドに寝ている……」
俺は言われるまま、ベッドに向かい、
これは……。
「どうしてこんなことになるまで放っておいたんだ……!?」
俺の知るガイディーン氏の顔じゃない……。すっかりやつれてしまっている。
いくらなんでもこりゃ悲惨だ。ガイアックは何をしていたんだ!?
「しょうがないじゃないか……! 俺には金もないんだ……」
だからと言って、これは酷い……。
もっと早くに俺の元へ来るべきだった……。そしたらこんなことには……。
まあそれは、こいつのちっぽけなプライドが、許さなかったのだろうな。
まったく、ガイアックめ。本当にどうしようもない男だ。
「まあいい。最善を尽くそう……」
俺は最新の知識と医療用アイテムを駆使して、手術に取り掛かる。
協会とのつながりも深い俺だからこそできる芸当だ。
最先端の医療をお見せしよう……!
◇
「よし……手術は終了だ……」
俺は最善を尽くした。ガイディーン氏はじきに回復するだろう。
「すごい……俺の時代とは全然格が違う……」
どうやらさすがのガイアックでも、違いがわかるようだな。
「ありがとうダッカー。こんなことを言うのは癪だが、あんたは恩人だ」
「いや、構わないよガイアック。お前は無能で腹の立つ男だが、ガイディーン氏にはなんの罪もないのだ。これくらい、お安い御用だ」
ガイアックが素直に礼を言うなんてな。信じられん。
だが実に気分がいい。ガイアックを屈服させた気分だ。
俺は万能感や全能感に浸っていた。
これは医術協会会長の座も、そう遠くはないな……。
ガイディーン氏を救ったことを、上にアピールすれば……ポイント稼ぎにつかえるかもしれんな。
「では、ガイアック。よい人生を! といっても、お前にはもう無理かな? アッハッハッハ」
俺は景気よくその場を後にする。
さあ、まだまだこれからだ!
◇
【side:ガイアック】
クソ、ダッカーのヤロウめ。どこまでもムカつく態度だったな……。
だが我慢ももう終わりだ。手術は終わった。
親父はじきに良くなるそうだ。よかった。
だが、どうもダッカーの奴、妙だ……。
あそこまで嫌な奴だったか? あれじゃ、まるで以前の俺みたいだ。
ギルド長になったことで、調子に乗っているのはわかるが……。
あの様子だと、そう長くは持たないだろうな……。
かつての俺のように、失脚し、地べたを這いつくばるがいいさ……!
俺はそのときまで、せいぜいこの地獄で息をひそめて待っていてやる。
そしていつかダッカーに、同じ思いをさせてやるぜ!
◆
ダッカーは慢心ゆえに、自分の状態に気づいていなかった……!
自分がかつてのガイアックのように、つけあがっていることを……。
そして、
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