第69話 黒龍のレア素材


「ヒナタさん! 黒龍の皇玉がでましたよ!?」


「黒龍の皇玉? なんですかそれ……?」


冒険にいった翌日のお昼に、受付嬢のミーナさんに呼び出され、僕は驚くべき結果を知らされた。


「とびっきりのレア素材ですよ!? こんなのなかなかお目にかかれません!」


そう言われても、あまりピンとこないなぁ……。


まあレア素材が出やすいという、レア部位を持ち帰ったわけだからね。


レア素材が出てくるのは想像の範囲内だけど……。


そのすごさがあまりわからない。


「とにかく、コレ……どうぞ」


どうぞって言われても……僕一人じゃどうしようもない。


勇者さんのものでもあるわけだしね。


「あ、ありがとうございます。勇者さんたちと相談してみます」





というわけで……僕たちは再び冒険者ギルドに集まった。


僕、ユーリシアさん、リシェルさん、ケルティさんの……あの時冒険に行った4人だ。


「……で、これ……どうします?」


「どうする……って、ヒナタくんが好きにすればいいんじゃないのかな?」


「ええ!? 僕がですか!? いいんですか?」


「ぼくたちは初めからそのつもりだけど……? そもそもヒナタくんの鑑定スキルがなければ手に入らなかったものだしね」


勇者さん……いくらなんでもそれは太っ腹すぎるよ……。


それをいうならそもそも倒したのは勇者さんなんだし……。


「本当にそれでいいんですか……?」


「ヒナタくんにはお世話になってるんだし……私たちはかまいませんよ? ね、リシェル」


「そうね……! 構わないわ。というかむしろ……私たちはヒナタくんのためにやってる感じだしね……! つまりはまぁ……ユーリシアのためだけど……」


「ケルティさん……リシェルさん……」


二人とも、優しいなぁ。


リシェルさんの言ってるユーリシアのためってのは……どういうことなんだろうか……?


まあいいや。それは置いといて……。


「みなさん! ありがとうございます! これはきっと、なにかに役立てます!」


「ははは……ヒナタくんは大げさだなあ。そんなことよりも、その素材がなににつかえるのか……試してみたらどうかな?」


「あ、そうですね! さっそく、研究してみます!」


僕は勇者さんパーティに再びお礼を言って、別れを告げた。


そして黒龍の皇玉を持って、【総合ポーション管理・研究部】へ――。





「やあウィンディ! 元気にしてたかな?」


「先輩! お久しぶりっス! 会いたかったっスよぅ……!」


総合ポーション管理・研究部は、僕が留守の間はウィンディがやってくれているよ。


頼れるかわいい助手だね。


僕はさっそく、持ってきた黒龍の皇玉をウィンディに見せる。


「先輩……こ、これは……! 超レア素材じゃないっスか!?」


「わかるのかい?」


「見たことはありませんが、話には聞いたことがあります! これをつかえば、すっごいアイテムが錬成できるはずっス……!」


「錬成か……じゃあ錬金術が必要だね……」


とりあえずポーション管理部に来たはいいけど……。どうやらくる場所を間違えたようだね。


てっきりポーションの素材にも使えるかなと期待してたんだけど……。


このアイテムじゃあヒナギクの病気のためにはならなそうだ……。


「そういえば先輩、錬金術師の資格もとったんスよね?」


「うんそうだね。ちょうどそのときに知り合った錬金術師さんがいるから、その人に聞いてみるよ」


「ええ……またどこかに行っちゃうんスか!? さみしいっス……」


「あはは……まあまた何かあれば、なるべく寄るようにするからさ……ごめんね」


僕は上目遣いでこちらをうるうる見つめてくるウィンディの頭に手を置く。


なんだかこうしていると主人の帰りを待つ犬みたいだ……。


ウィンディには悪いけど、もうしばらく留守番を頼もう。





次に僕が黒龍の皇玉を持ってやってきたのは……錬金術師ギルド部門。


以前に試験官をしてくれた、錬金術師のリリー・シュトラウザーさんに会いに来た。


彼女なら錬金術に詳しいから、このレア素材の使い道がわかるかもしれない。


「リリーさん……? いますか……?」


「ひ……ヒナタくん!?」


どうしたんだろうリリーさん。急に来たからびっくりさせちゃったのかな?


「わ、私にわざわざ会いに来てくれたのか……? いや、まさかな……」


「いや、はい。リリーさんに会いに来ましたけど……?」


「な、なに!? はぅ……そ、そうなのか……そうなんだな……やったぁ……!」


リリーさんってこんな人だったかな? なんだか以前の落ち着いた雰囲気の大人な女性というイメージとはかなり違って見えるけど……。


「実は、リリーさんのお力を借りたくて……」


「ひ、ヒナタくんが私を頼ってくれてる!? も、もちろん力になろう。私でよければ!」


リリーさんは前のめりで返事をする。頼りになるなぁ。


「これを見てください……」


僕はポケットから黒龍のレア素材――黒龍の皇玉を取り出す。


「こ、これは……!?」


やっぱりリリーさんにもこれのすごさがわかるんだな……。


さすがリリーさん、一流の錬金術師だけあって、一目でこの素材の価値を見抜くなんて。


「ヒナタくん……。誰かにこれを見せたか?」


「え……受付嬢のミーナさんと、助手のウィンディ。それから、いっしょにパーティを組んだ勇者さんたちだけですけど……はい」


「そうか……今後は誰にも見せないようにするんだ……」


ええ!?


そんなにヤバい代物だったの? コレ……。


リリーさん、さっきまでと違って、すごく真剣な顔つきになってるし……。


「これはまさに伝説上の物体だ。君はとんでもないものを持ち込んでくれたな……」


「そ、そんなに……!? すみません、知りませんでした……」


「いや、ヒナタくんが知らないのも無理はない……。伝説の中でも禁忌とされるアイテムだからな」


そんなにすごい素材なら……いったいどんな使い道があるのだろう。


この素材から錬金で作られるアイテム……どんな強力な効果があるんだ?


「この黒龍の皇玉には、潜在能力を引き出すパワーが込められているんだ……。龍種の力の根源も、この皇玉と呼ばれる部位に由来するとも言われている……」


「そうなんですか……」


「ああ、だがそのあまりに強力な力に、おぼれてしまう人間も少なくないと聞く。だからこそ、その神秘の力は、古来より禁忌とされてきたんだな……」


「それでも、僕はこの力が必要なんです! 大切なヒトを守り、救うために! 僕はさらに強くなる必要があるんです! 身も、心も!」


「ヒナタくん……、そんな……た、大切な女性ヒトだなんて……。そうだな……。ヒナタくんなら大丈夫だ! 君なら力におぼれたりなんかせずに、コントロールできるはずだよ!」


「リリーさん……」


こうして僕は、リリーさん協力のもと、黒龍のレア素材を加工することになった。


いったいどんなアイテムが手に入るのか……わくわくするね!


ヒナギクのためになる能力だといいけど……。

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