第68話 ヒナタの冒険
「ヒナタくん!」
「あ、勇者さん!」
なんだか最近、勇者さんとよく会うなぁ……。
まあおんなじギルドを利用してるんだから、そりゃあそうかもしれないけどさ。
それにしても、勇者さんから声をかけてくれる割合がすごく多い気がするんだけど……。
僕の気のせいだろうか……?
「今日もクエストですか? お疲れ様です」
勇者さんは、物資を調達するクエストを中心に、毎日活躍してくれているよ。
国と渡り合うためには、それなりの準備が必要だからね!
「ああ、万事順調だよ。この調子なら、国もよほどのことがない限りは口出しができないほどの、巨大なギルドになれるだろうね……。ま、それもヒナタくんのおかげかな?」
「ええ? 僕ですか? 勇者さんこそ、すごく活躍しているじゃないですか!」
「ぼくが頑張れるのは、いつもヒナタくんの笑顔があるからだよ。安心して冒険にいけるんだ」
「ははは……そう言ってもらえるとうれしいです。僕も頻繁に勇者さんのかっこいい姿がみられて、しあわせですよ」
僕は心からの気持ちを伝える。勇者さんだって褒めてくれたしね!
だというのに、なぜかまた勇者さんはとりみだす。
「あへぇ!? か、かっこいい……だって!? 照れてしまうな……」
普段凛々しい勇者さんが照れてもじもじしている様子は、なんだかかわいい。
でもそれを口に出すと、また顔を赤くして照れちゃうんだろうな……。
なんて考えていると――。
「それはそうと……、そろそろ一度くらい、ヒナタくんも一緒に冒険にこない?」
と、魔導士のリシェルさん。
たしかに前からユーリシアさんに誘われていたけれど……てっきり社交辞令のようなものだとばかり思っていた。
「ええ……本当にいいんですか? 僕はポーション師なんですよ?」
「大丈夫よ! ヒナタくんはテロリストも倒しちゃうくらいの魔法の天才なんだから!」
「そうですか……、まあそこまで言ってくれるなら……」
「ほんと!? じゃあさっそく準備しなくちゃね! よかったわね、ユーリシア!」
誘われ続けているのに、それを何度も断るのも申し訳ないしね。
リシェルさんはユーリシアさんに、うれしそうに報告する。
「あ、あぁ……」
ユーリシアさん、まだ照れてるけど嬉しそうだ。
そんなに僕と冒険に行きたかったのかな?
なんだか僕まで嬉しいし照れちゃうなぁ……。
「じゃあ4人でパーティを組んで、出発ですね!」
賢者ケルティさんが、僕のうでをからめとる。もう逃がさない気だ。
そのまま僕はクエストカウンターに連れていかれてしまう……。
なんだか客引きにまんまと酒場に連れ込まれてしまうオジサンの気分だよ……。
「うーん、どうせなら、ポーションや錬金の素材になりそうなアイテムが手に入りそうなクエストがいいなぁ……」
「あ、じゃあこれなんてどうですか?」
ケルティさんが指さしたのは、高難易度の討伐クエスト……。
こんな危険な場所について行って、大丈夫なのだろうか……。
だけど否応を言う前に、ケルティさんがリシェルさんにクエストの紙を投げ渡し、あれよあれよとことが進んでしまった。
やれやれ……不安だなぁ……。
◇
こんなのほぼラスダンってやつじゃないのか? 場違いがすぎる……。
なんだかダンジョンの壁からは禍々しいオーラなんかが出ているし……。
「ありました! ここがボスの部屋ですね!」
「お! さすがケルティ! 見つけるのが早いな!」
「ええ!? もうボスなんですか!? ていうかいつもこんな感じなんですか!? すごいですね……。さすが勇者パーティだ……」
なんだか僕にはついて行けないよ……。
「お邪魔しまーす!」
リシェルさんは掛け声と同時に、ボスの部屋へ突入する!
もちろん扉からではなく、派手に魔法をぶつけて、壁をぶっ壊しての侵入だ。
リシェルさんは魔法の命中率は低いけど、威力はさすがの勇者パーティ級だからね……。
大ボスを相手にするなら、とっても頼もしい魔導士だ。
――グオオオオォォォ!!!!
「あれが
初めて見た……。すごい迫力だね……。
でも勇者パーティのみなさんは、そんなもの見慣れてるとばかりに、まったく動じない。
「今回のは小ものね……。素材はあまり期待できないかも……」
「ええ!? あれで小ものなんですか!?」
「いくわよ、ヒナタくん!」
「ええ!? 行くってどうすれば……」
――ズドン!
――グシャ……!!
瞬く間に、リシェルさんの魔法と、ユーリシアさんの剣撃が炸裂する。
「えええええ!?」
「ヒナタくん、どうだいぼくの剣さばきは!」
「どうって……そりゃあすごいですけど……」
さすがは勇者さんとその仲間だ……。伝説級の魔物でさえも、一瞬でやっつけてしまうなんて……。
「あのこれ……僕いらなかったんじゃ……?」
「そんなことはないぞ! ヒナタくんがいてくれるから、安心して戦えるんだ! ケルティの回復魔法は一日一回だからな。どうしても慎重にならざるをえない」
あれが慎重……? そうは思えないけど……。
まあ確かに……けがをしたときは僕のポーションでもある程度は治せるけど……。
「ユーリシアはヒナタくんにいいところを見せたかったのよ。爆発テロのときはあまり勇者らしい活躍は出来なかったしね……」
「は、はぁ……そうなんですか……」
「こ、こらリシェル! ヒナタくんにいらないことを言うな! バカ!」
なんだかまた勇者さんは顔を赤くして、リシェルさんに抗議をしている。
コロコロと表情が変わって、本当に可愛い人だ。
「さあ、ふざけてないで、さっさと素材を剥ぎ取って、帰りましょう?」
「そうですね、ケルティさん……」
ケルティさんは落ち着いてるなぁ……。
僕は
そして鑑定スキルを発動――!
――【
ふむふむ……。
●
伝説の龍種の中でも特に上位の存在
高い知能と強固な鱗を持つ
体内に流れるダークネス龍液は、様々な薬品に使用できる
身体の一部にレア素材がとれる部位があるが、そこは壊れやすいので注意!
ご親切に、そんな説明まででてきた……。
ほんと便利だなこの鑑定スキル……。
レアな素材が取れる部位がある……かぁ……。
どこだろう……、それもこの鑑定スキルが教えてくれるのかな?
「どうしたんだヒナタくん? そんなところで座り込んで?」
「あ、勇者さん……。ちょっと、このモンスターを鑑定してみてたところなんです」
「鑑定……。そういえば君はそんなスキルも使えたんだったな……。ぼくたちのような冒険者はそんな特殊なスキルは使えないからな……。すごいよ。助かるよ。やっぱり、ヒナタくんを連れてきて正解だったね」
そうなんだ……。冒険者の人で鑑定スキルを使う人はすくないんだね……。
まあ当然か。そんなスキルがあったら、普通は商人にでもなろうとするもんね……。
「で、鑑定の結果はどうなんですか?」
「あ、はい。ケルティさん。今鑑定が終わったところです。どうやら、このドラゴンにはレア部位があって、そこからしか採れないレア素材があるみたいですね……」
「レア素材!?」
「レア部位だって!?」
どういう反応なんだろう……。てっきりそのくらいのことは、勇者さんたちなら知っていてもおかしくないだろうとは思ってたんだけれど……。
「そんなこと初めて聞いたぞ……」
「え、そうなんですか!?」
「今までもったいないことをしていたみたいだな……」
「ま、まあ……そうかもしれませんけど……」
でも今回気づけたんだから、よかったよね!
今度からはレア部位に気を付けて狩り採れば……。
「で、そのレア部位っていうのはどこなの?」
「あ、はいリシェルさん。ここと……ここですね」
「へー……そこ、いつも私の大炎魔法で焼いてたわ……」
オイオイオイ……。
たしかにそれはもったいないね……。
「じゃあここを中心的に、傷つけないように持ち帰ろう……」
さすがはユーリシアさんだ。勇者として鍛え上げられた、抜群の剣さばきを活かして、キレイにドラゴンをさばく。
「よし……これでいいかな」
「それにしても……本当にヒナタくんを連れてきてよかったですね!」
「ほんとよね……。このままじゃ、延々とレア部位を無駄にし続けるところだったわ……」
「まぁまぁ……またいつでも呼んでくださいね」
そんなこんなで、僕たちは無事にレア部位をギルドに持ち帰ることに成功したんだ。
◇
【
……のだが……。
どうもざわざわしているね……。注目を浴びてしまっている。
「おいおい、まさかアレ……
「まじかよ……あいつら何者だ……?」
「どうやら勇者パーティらしいぜ?」
「マジかよ! なんでこんなところに!?」
「じゃああの一緒にいる男はどういうやつなんだ?」
「さあ……知らねえぜ……」
「っく……うらやましい男だな……あんな美人に囲まれて……!」
なんだかすごい注目だね。へんな噂をされてしまっている……。
どうしたものかな……。
まあそれはともかく、僕たちはミーナさんのもとへ、持ち帰ったドラゴンの肉塊を差し出す。
――ドシン。
おお! 結構重たいんだね……。
「ヒナタさん……こ、これは……!?」
「ミーナさん。これは
「は、はい……ですが……こんなレア素材……見たことないですよ……?」
「ええ!?」
まあそれもそうか……
「うちで素材化できるかどうか……。まあそれはやってみないと分からないですが……。とりあえず、お預かりしますね!」
「はい、お願いします!」
僕はドラゴンの素材をミーナさんに預けた。
「さすがだねヒナタくん! おかげですごい素材が手に入りそうだよ!」
「いやいや、勇者さんのおかげですよ……。僕はただ鑑定しただけで……」
「その鑑定がすごいんじゃないか!」
それにしても、
いったいどんな素材アイテムが採れるんだろう?
そして何につかえるんだろう?
ヒナギクのためになるものだといいなぁ――。
僕はそんなことを考えずにはいられないのだった。
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