第67話 ガイアックの負傷【side:ガイアック】


俺たちはダンジョンにやってきたぜ!


モンスターを何体か倒せばいいらしい。


まあ倒すのは俺じゃなく、パーティメンバーのやつだけどな!


俺は負傷したやつを手当するだけだ。


「さあ、お前たち! 存分に戦え!」


「うおおおお! いくぜ!」


首狩りのトモと、酒樽ゲインが俺の前を歩く。


するとしばらくして、大型の魔物が現れた!


木の魔物――トレントだな……。


トレントは身体じゅうの枝を、器用に伸ばして攻撃してくる!


「うおおお!」


首狩りのトモの大鎌が炸裂! 枝をばっさばっさと切り捨てる。


酒樽ゲインが炎魔法で火をつける! うおおお俺の仲間は有能か!?


これは俺が何かするまでもなさそうだな。


底辺職と馬鹿にしていたが、なかなか割のいい仕事なのかもしれんな。


「ようし! このままガンガンいくぜ!」


俺もなにか活躍してみたいからな! 先に行って敵を発見してやるぜ!


「あ、おい! ガイア! そっちは危険だ!」


「は?」


――ポチ。


なにか俺の足元で音がした……。


トラップの作動装置のような、嫌な音。


まさか……。


――シュン!


それとほぼ同時に、俺のもとに矢が飛んでくる!


「危ない!」


首狩りのトモがそう叫んでいるが……。俺はどうすることもできない!


俺には圧倒的に実戦経験がなかった! ダンジョンになど来たことがない!


「うわああああああああああ!」


俺の顔に矢が飛んでくる!


とっさに、俺は両手を重ねて顔の前に差し出す。


そしてそのまま、矢は俺の手のひらを貫いた。


矢は手を貫通し、俺の目をギリギリでかすめ、静止していた。


「あ、あぶなかった……」


もし俺が手で顔をかばわなければ……死んでいただろう。


ここがダンジョン……危険なところだ……。俺はそれを忘れていた。


冷静に、状況を把握すると、今度は急に手のひらに痛みを感じだした。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! いでええええええええええええええええ!」


こんな痛みは初めてだった。


たくさんの患者を診てきたが……みんなこんな痛みと戦っていたんだな……。


手のひらから矢を抜きたいが……血がでるだろうからそれも難しい。


「ガイア!! 大丈夫か!?」


首狩りのトモと、酒樽ゲインが、俺を心配して駆け寄ってくる。


あったばかりというのに、優しいやつらだな……。


「ぐおおおおおおおおお! 早く! 助けてくれ!」


だがもとはと言えば、こいつらが俺を先に行かせたのが悪い。


俺はダンジョン初心者で、しかも後衛だというのに……。


もっと俺を守ってくれなきゃだめじゃないか……。


「あんた、医師なんだろ!? 自分で治せないのか!?」


「馬鹿をいうな! これをみろ! 両手がふさがってるのに、自分の手を治療なんかできるか!」


まったく、これだから素人は困る。


医師ならなんでもできると思っているんだから……。


「じゃあどうすればいい!?」


「さあな……。質のいいポーションでもあれば、応急処置は可能だが……」


さっさと街に戻って、適切な治療を受けねば!


そうしないと、俺の腕は二度と使い物にならなくなっちまう!


そんなことは避けたい。俺は医師だからな。その手は人を救うためにある!


「ポーションか……! それなら!」


首狩りのトモはそう言ってカバンから上級回復ポーションのようなものを取り出した。


「なんだこれは!?」


一見、上級回復ポーションのようなものに見えるが……。


こんな紫色のポーション、見たことがない……。毒じゃないのか?


「これはヒナタさんが最近開発した、【上級回復ポーション改】を特別に先行して譲ってもらったものだ……!」


「なんだって!? まだ市場に出回っていないということか!?」


「そうだ! だがヒナタさんの開発だから、性能は抜群だ! これを使え! これならなんとか街につくまでの応急処置になるだろう!」


「……っは! 嫌だね!」


「……なんだって!? どういうことなんだ!?」


俺がヒナタのポーションを使うだって!?


そんな屈辱的なこと、出来る訳がない……。


それに、みるからに怪しい色のポーションだ。


こいつらがヒナタとグルになって俺に毒をもろうとしている可能性だってある。


そんなもの、受け取れるはずがない!


「俺はヒナタなんかの施しは受けない!」


「何を言っているんだ!? あんた、ヒナタさんの知り合いじゃなかったのかよ!」


「ああ、確かに俺はあいつの知り合いだ。だが、宿敵でもある!」


「どういうことかさっぱりわからん! 俺たちを騙してたのか!?」


「騙してなどいない。お前たちがかってに勘違いしただけだ」


「まあそんなことはどうでもいい。とにかくそれは置いといて、はやくこのポーションを使うんだ! そうじゃないと、その手……ておくれになるぞ!」


うるさいヤツだ……。


俺は何と言われようと、ヒナタなんかのポーションで回復したくはない!


それに、信用できない。あとで金銭を要求されるかもしれないしな。


「おい、かわりの方法を探せ!」


「無茶いうなよ! もういい! アンタがなんて言おうと、俺がかってにこのポーションをアンタの手にかける。それでいいな?」


「馬鹿! やめろ! よせ! そんなこと絶対に許さないからな! 訴えてやる!」


「ああもういいよ! 文句ならあとでいくらでも聞いてやるから、今はじっとしてるんだ! おい、酒樽ゲイン……ガイアを抑えてくれ!」


「うわバカ! やめろ! はなせ! 近寄るな!」


マジでこいつらあとで訴えてやろう。そしたら少しは金の足しにもなるだろう。


「うわああああああああああああああああ!!!!」


――じゅわあああああああああああああ。


首狩りのトモは、ヒナタのポーションを容赦なく俺の手にかける。


なんという屈辱的な音!


滅茶苦茶しみる……。


だがどんどん傷口はふさがっていく……。


「うあああああああ! 治った……?」


「な? さすがヒナタさんの最新作だろ? 感謝するんだな!」


「ふん……だれが感謝などするものか……。俺の手を穢しやがって……! 許せん!」


俺は怒りにまかせて、そのままダンジョンを進む。


もうこいつらのことは頼らない。さんざんな目にあったからな……。


「あ、おい! また先にいこうとして……。危ないっていってるだろ?」


「うるさい黙れ!」


まったく……やはりヒナタなんかの知り合いにかかわるべきではなかったか……?


だがせめてこいつらを利用できるとこまでは利用してやろう。


そうじゃないと、俺の手の負傷と比べて、割に合わないからな……。


まあ、こんなバカどもでも、囮にはなるだろう。


ガイアックの冒険はまだまだここからだ!





一人先を行くガイアック……。


その背中を追いながら、首狩りのトモはひとりごつ。


「なんだったんだアイツ……」


ガイアックが真に反省をするのは、まだ先のことになりそうだ……。

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