第66話 勇者ガイアック【side:ガイアック】
クソ……まともな職にはありつけそうもないな。
俺の身体はどんどんやつれ、汚れてしまっている。
新しい服も買えないし……すっかりみすぼらしい、別人のようだ。
「こうなったら……最後の手段だ!」
こんな底辺職……俺のやる仕事ではないが……。
背に腹はかえられない!
俺は冒険者ギルドへと向かった……!
冒険者には人格などは求められないからな。
どんな荒くれものでも、腕っぷしが強ければ採用される。
それに、俺のような元医師は貴重だからな。
回復魔法のないこの世界で、医師をヒーラーとしてパーティに迎え入れるのは向こうとしても喜ばしいことだろう。
「【
だが今度は冒険者登録のためにきたんだ。
「冒険者登録をしたいのですが……」
「は、はい……。わかりました……」
受付嬢に露骨に嫌な顔をされたのはどうしてだろうか……。
俺が風呂にも入ってないせいで臭いからか?
それとも俺の服装が汚らしいからか?
まあいずれにせよ、みじめな気分であることに変わりはないが……。
ともかく、俺はそれを我慢してでも、親父の為に金を稼がねばならない。
「しかし……パーティを組まないとな……」
俺一人では戦えない。俺はあくまで
俺の代わりに命がけで戦ってくれる駒が必要だ。
お、あそこにいかにも強そうな男がいるな……。
「おい、お前。俺とパーティを組まないか?」
「は? なんで俺がお前みたいな汚らしいホームレスとパーティを?」
男は俺をホームレスだと言いやがった……。クソ。
「俺は医師だぞ? 欲しくないのか?」
「……っぷ……。ぎゃっはっは、おい聞いたか? こいつ、言うに事かいて、自分を医師だってよ! 石と間違えてんじゃねえのか? ぎゃっはっはっはっは!」
こいつら……許せない……。俺を笑いものにしやがった。
「だまれ、俺は本物の医師だぞ? 有能だ。きっとお前たちの役に立つ」
「ああそうかよ。というかお前、俺様を首狩りのトモさまと知ってて声をかけてるのか? だとしたら身の程知らずだぜ? さっき登録したばっかの初心者なんか、たとえ有能な医師さまだとしても、足手まといだ。いらねえよ」
こいつ……きいてもないのに名乗りだしやがった……。変なヤツだ。
こういう馬鹿は自分を誇示しないではいられないのだ。愚かものめ。
「……っく……。俺をコケにしやがって……。舐められたものだな。俺は舐められるのが一番キライだというのに……。それもこれも……すべてはヒナタのせいだ……」
俺は思わずその場で愚痴をこぼす。
こんないかにも頭の悪そうな冒険者に断られたんじゃあ、他に行く当てなどない。
「……ん? お前、今なんて言った? ヒナタさん? お前、ヒナタさんの知り合いなのか?」
「……は?」
こいつ……ヒナタさんだって!? なんでこいつがあのポーション師を?
まあいい……なにか都合のいい勘違いをしているみたいだな。
ここはありがたく利用させてもらうか。
「ああそうだ。俺はヒナタの師匠であり、恩人なんだが? それがどうかしたか?」
「おお! あんた、そんな見た目の割に、ヒナタさんの恩人だったのか! すごいな! それはつまり俺たちの恩人でもあるというわけだ! ぜひパーティを組もう!」
「おお、そうか! それはよかった。ヒナタに尽くしてやった甲斐があったというものだ。やはり人助けはいいな……」
俺はついているな……。神が俺に輝けと囁いているに違いない!
「俺はガイア――」
そこまで名乗ろうとして、俺はふと考えた。
俺の悪評がどこまで広まっているかはわからないが……。
馬鹿正直に名前を言う必要はないのかもしれない。
「お、俺はガイア……ガイア・ドシルヴァーだ。よろしくな」
ここは偽名で通しておこう。
「そうか、俺は首狩りのトモだ。そしてこっちの酒樽みたいに丸い男がゲインだ。よろしく」
こうして俺は、首狩りのトモと、酒樽ゲインとともに、パーティを組んだ。
いかにもなパワー系のこいつらと、一流医師の俺が組めば、最強のパーティになるに違いない!
これはもしかしたら俺は、冒険者に向いてるのかもしらないな。
俺は冒険になど行ったことはないが……なぜか自信が湧いてきた。
「よし! 勇者ガイアさまに続け! やろうども!」
「おお! なんだか知らねえが、ヒナタさんの知り合いなら頼もしいぜ! すごい人に違いねえ!」
俺たちは適当なクエストをみつくろい……。
さっそうと冒険者ギルドを後にした。
受付嬢のお姉さんがなにか注意書きのようなものに目を通せと言っていたが……。
そんな面倒なこと、俺は気にしない!
とにかくやってみろの精神で、俺たちはさっそくフィールドに繰り出すぜ!
荷物などの準備を整え、夜明けとともに街を出る。
これがガイアック流のやり方だ!
まさに……ガイアックの夜明けといったところだな!
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