第64話 錬金術師の資格試験
「ヒナタくん、錬金術にも興味ないですか?」
「錬金術……ですか……?」
興味がないわけではないけど……。そんなこと、今まで考えもしなかったからなぁ……。
ライラさんはどうも僕に錬金術師資格を取ってほしいみたいなんだよね……。
「冒険者登録も済ませたことですし、資格試験に必要な身分証も用意できます。平民のヒナタくんでも、今なら錬金術師資格を取ることができますよ」
「まあ、ライラさんがそこまで推してくれるなら……やってみようかな……」
もともと取れるなら取ってもみたかったしね。
ポーション師はポーションを混ぜるだけだから、資格はいらないけど……。
錬金術師はポーション以外のアイテムの合成とかもするからね。
中には危険なものもあるし、資格が必要なんだ。
「試験はうちの錬金術師ギルド部門で受けられます。担当者に話は通しておきますから、明日にでも行ってみてください」
「明日……ですか……。そんなにいきなりいって、大丈夫なんですかね……?」
「ヒナタくんなら大丈夫ですよ! ポーションを混ぜるのとおんなじ要領でできると思います」
「そうだといいですけど……」
ポーションを混ぜるのとはわけがちがう気もするけど……。
まあなんとかなることを信じて、飛び込んでみるしかないね。
◇
「私が錬金術師のリリー・シュトラウザーだ。試験官をつとめさせてもらう」
「よろしくお願いします。ヒナタです」
どうやら受験者は僕だけみたいだね。
リリーさんっていう錬金術師の女の方が、試験官をやってくれるみたいだ。
リリーさんはおとなっぽい赤毛の女性で、いかにも錬金術師といった、お堅い印象。
「ヒナタくんはたしかポーション師としては一流なんだってな」
「ははは……一流かどうかはわかりませんが」
「やり方は一緒だ、ポーションを混ぜるのと、金属などの特殊なアイテムを混ぜるのと……その違いだけだ。もちろん、いろんな素材を混ぜるから、温度のバランスとかは複雑だがな」
なるほど……素材ごとの特徴を把握することが大事みたいだね。
ポーション師としての経験が生きるといいけど……。
「あれ……? ヒナタくん……道具は使わないのか……?」
「ええ。僕はポーションを混ぜるときも、基本はスキルでやります」
「なに!? ポーションと錬金とでは違うのだぞ?」
「ええ、わかってます」
普通は、ポーション師でも錬金術師でも、錬金調合用の道具を持ってるものなんだけどね。
僕はそういうものは使わない。
それに、昨日家で実験してみたんだ……。
今まではポーションだけを作っていたから、そんなこと、試したこともなかった。
でもどうやら、実験の通りに成功すれば、
「どうやら自信はあるようだな。頼もしい。さすがライラさんが推しているだけあるな。では試験を始めよう。ここに置いてある素材を自由に使って、なにかアイテムを錬金してみてくれ」
「はい!」
僕は部屋にある素材アイテムを物色する。
たくさんありすぎて、どこから手を付けていいのかわからないな……。
「お! これなんかいいんじゃないかな?」
僕は目に付いた宝石を手に取る。
鑑定してみると、どうやら加護の石という名前の宝石らしい。
昔からお守りに使われている石だね。
これに、青色の精霊石を合わせてみよう……。
なんとなくの直観で選んだけど……大丈夫だろうか。
「加護の石と精霊石を合わせて……錬金!」
――
「よし! できたかな?」
ふたつの宝石が混じり合って、なんとも言えない綺麗さだ。
よし、これを鑑定してみよう。
●
精霊の加護が宿ると言われている魔法アイテム。
持っているだけで、あらゆる不幸から身を護るとされる。
レア度S。
強力なモンスターがたまにドロップするが錬金でも作れる。
ただし、かなり高度な技術が必要である。
どうやらなかなか貴重なアイテムを生成できたみたいだね。
僕はそれをリリーさんに見せる。
「こ、これは……!?」
「だ、だめでしょうか……」
「い、いや……その逆だ……。まさかこんなすごいアイテムを作ってしまうなんて! 君は天才か?」
「え、いやいや……たまたまですよ。それに、ポーション師としての経験が生きたのかもしれません」
「それにしても……こんなSクラスのアイテムを、初めてで錬金してしまうなんて……!」
どうやら合格は間違いなさそうだね。
知らずのうちに、高レベルなアイテムを選んでしまっていたみたいだけど……。
ともかく成功してよかった。
「よし! 君は合格だ! 今日からポーション師だけではなく、錬金術師を名乗っていい」
「ありがとうございます!」
なんだか意外と簡単だったな……。
それにしても、このアイテムをどうしよう……。
お守りとしてヒナギクにあげようかな。
うん、そうしよう!
僕は早く家に帰りたくなった。
◇
【side:リリー】
ヒナタくんが錬金術師の部署を後にしてから……私は一人考え込んでいた。
もしかしたら私はとんでもないモンスターを生み出してしまったのかもしれない……。
熟練の錬金術師でも、スキルで作り出すのは難しいからと……道具を使って手動でやったりもする。
そんな代物を……一瞬で、あっさりと作り出してしまうなんて……。
彼はいったい何者なんだ?
「うう……ヒナタくん……」
それに、なぜか私の胸の鼓動までもが……張り裂けそうになっていた。
今までにあんなに能力のある男性を見たことがない。
私は錬金術師として、自分が一番才能があると思い込んでいた。
それが間違いだったと、今日――思い知った。
「ヒナタくんとライラさんの関係は……いったいどういうものなのだろうか……」
まあ……彼らがどういう関係にあろうと私には関係ない。
私は一流の錬金術師――リリー・シュトラウザーだ。
今まで欲しいと思ったものはすべて自力で手に入れてきた。
そしてこれからも……。
「ヒナタくん……か……また来ないかな……」
私は窓の外を見て、そうつぶやく。
◇
【side:ヒナタ】
さあ、今日も仕事が終わって家に帰ってきたよ。
「ただいまー」
「おかえりなのー」
「お帰りなさいませ、お兄様」
いつもの通り、ヒナギクとヒナドリちゃんが、玄関まで迎えに来てくれる。
うれしいね!
「今日はお土産があるんだ!」
僕はポケットから、今日試験で作った【
それをヒナギクに手渡すと――。
「すっごーい! とってもきれいなのー! ありがとうなの、兄さん!」
よかった。とっても喜んでくれたみたいだ。
これで少しは魔除けになればいいんだけど……。
でもなんだかヒナドリちゃんは難しい顔をしている。
「お兄様……私にはなにもないのですか?」
「あ、……そ、そんなことはないよ……」
しまった……! ヒナドリちゃんにもなにか用意しておくべきだったね。
しょうがない……ここは奥の手をつかおう。
「ヒナドリちゃん、いつもありがとう!」
僕はヒナドリちゃんを抱きしめ、精一杯頭を撫でまわす。
「お、お兄様!? わ、分かりましたから! 大丈夫ですから!」
ヒナドリちゃんは動揺して、目がぐるぐるになってしまっている。
「もう……お兄様……。ずるいんですから……」
どうやらこれで許してもらえたみたいだね!
でもこれだけだと悪いから明日なにか埋め合わせをしよう。
それを見ていたヒナギクが……。
「ヒナドリちゃん、ずるいなのー! 私も兄さんによしよししてもらうなのー!」
「はいはい、さあおいで!」
「あ! ヒナギクだけお土産ももらっておいて、それはずるいですの!」
なんだか知らない間に、ヒナギクとヒナドリちゃんで、僕の取り合いが始まってしまった!
いてて……あまり服を引っ張らないで!
ま、みんなが幸せそうだから……よかったね!
◆
新たな資格とスキルを手に入れたヒナタ……。
そして、次回ついに……
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