第62話 モンスターファーム


医術ギルド部門の人材不足はなんとか解決したけど……。


総合ギルドにはまだまだいろんな部門がある。


今日は、魔物飼育場モンスターファームに来たよ。


世界樹の精鋭達ユグドラシルグレート】の中には魔物飼育場モンスターファームがあって、たくさんのモンスターが飼育されているんだ。


総合セントラルギルドクラスともなると、こういった施設も必要なんだね。


素材アイテムの採集や、貿易に利用されている。


で、なんで僕がここに来たのかというと……。


「クリシャ! 元気にしてたかい?」


「ご主人! 来てくれたんですね!?」


けも耳の少女――クリシャは僕を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。


彼女は今はここ、魔物飼育場モンスターファームで働いているんだ!


獣人のクリシャには、魔物の言葉がある程度わかるようなんだよね。


「今日はどんな感じだい?」


「今日は、悪魔怪鳥コカトリスのたまごが40個ほど取れました!」


「そうか……それはすごいな!」


クリシャは背も低いし、僕をしたってくれているし……なんだかもう一人の妹みたいだ!


悪魔怪鳥コカトリスのたまごは酸化ポーションの素材にも使える。


もちろん料理にしてもおいしいしね!


魔物飼育場モンスターファームの仕事もかなり重要だ。


そんなところで働いているクリシャは偉いなと思う。


僕は思わずクリシャを引き寄せ、その頭を撫でる。


「ん……ご主人……こそばゆいです……」


「ははは、ごめんごめん」


獣人の子は耳の裏が敏感なのを忘れてた。


「そうだ……なにか困っていることとかはないかな?」


僕がここに来たのは、視察の意味もあるけど、クリシャの助けになりたい思いもあってだ。


牛魔物ミノスの雌から、お乳がでなくて困っているの……」


「なんだって!? そこまで連れて行って!」


やっぱり、いろんな魔物がいるからね。


まだまだここの環境に慣れない魔物もいるのだろう。


ストレスをやわらげて、飼育してやるのも大事な仕事だ。


「どれどれ……」


僕はさっそく、牛魔物ミノスの身体を触って、異常がないか確かめる。


牛魔物ミノスはそのまま牛型の魔物だ。牛人魔ミノタウロスほど人型に近い訳でもなく、かといって普通の牛に比べればかなり大きい。


そのぶんたくさんお乳が出て、家畜として重宝するんだ。


食べてもおいしいしね。


「これは……。寝不足が原因かな……」


鑑定してみると、牛魔物ミノスのお乳が出ないのはストレスが原因みたいだ。


そのストレスの元は、環境だろうね。


あたらしい牧場に連れてこられて、慣れないせいで眠れないんだ。


「今後は、彼らをもう少し離して飼育してみたらどうかな?」


「なるほど! その方が快適ですね。担当者に話してみます! さすが、ご主人です!」


「それと、よく眠れるように、あとで僕が睡眠ポーションを持ってくるね」


「ありがとうございます。ご主人!」


これで少しはクリシャの仕事の助けになれたかな?


みんな、頑張っているなぁ!





「失礼します……」


僕はライラさんに呼び出され、ギルド長の部屋に入る。


なんの用だろう……。


もしかして、先日のキラさんの一件で、怒られるのかもしれない……。


「ライラさん。お呼びですか」


「あ、ヒナタくん! 来てくれたんですね! ありがとうございますっ」


よかった、ライラさんなんだか嬉しそうだ。機嫌がいいのかな。


でも、一応謝っておこうか。


「ライラさん、先日は勝手なことをしてごめんなさい。僕がザコッグさんにもうちょっとちゃんと説明していればよかったんですけど……」


「え? なんのことですか?」


「え!? キラさんが倒れた件についてですけど……」


「それでしたら、なんでヒナタくんが謝るんですか? 全部キラさんが悪いんですよ? あの人はヒナタくんを虐めて、その上でヒナタくんの厚意で、このギルドに置いてあげているんですからね。文句をいわれる筋合いはないです。それとも彼がなにか言ってきたんですか?」


「い、いえ。キラさんはなにも……」


「そうですか。もしなにかあったら言ってくださいね? 私が許しませんから」


ライラさん……、なんだか目つきと声色が怖いな……。


でも、怒ってないようでよかった。


「それもこれも、勝手に勘違いして暴走したザコッグさんが悪いんですよ。お給料減らしちゃいます」


「そ、それは勘弁してあげてください」


でも、だったらどうして僕を呼んだんだろう。


いつもはライラさんの方から来るのにね。


まあギルドが広くなって、なかなか会えなくなったのもあるかもだけど。


「今日は、どうして僕をここに?」


「それは……ヒナタくんに会いたかったからです」


「え……!」


言うと同時に、ライラさんが僕へ一歩距離を詰める。


僕は思わずドキッとしてしまう。


「ふふふ……冗談ですよ!」


「やめてくださいよ……ライラさん……」


びっくりしたー……。


「それはともかく、今日呼んだのは、ヒナタくんにもっと自由になってほしかったからです」


「もっと自由に……?」


「そうです。この間の一件以来、ヒナタくんは自分に責任を感じていましたよね……」


「ええまあ……キラさんが倒れてしまったのはね……。もうすっかり良くなったとはいえ、残念でしたね」


僕がもっとしっかりして、ザコッグさんを止めれていれば……。


「もっとヒナタくんは自由にギルドを動かしていってもらっていいんですよ?」


「え、僕がですか?」


「そうです! 言いましたよね? 私たちは一心同体だって。だから、このギルドはヒナタくんのものみたいなものですから……。私ひとりじゃ、ここまでこれませんでしたし。全部ヒナタくんのおかげなんですからね! もっと自信をもってください!」


ライラさん……そこまで言ってくれるなんて!


よし、期待に応えられるよう、僕は自信をもとう。


そしてもっと自分から行動するんだ!


そしていつかライラさんと……。


「ありがとうございます、ライラさん! 頑張ります!」


「その意気です! ヒナタくん!」


そうしているうちに、なんだかだんだん気まずくなってくる。


よく考えたら、僕たち二人きりだし……距離も近い。


口数が少なくなると急に、変に意識してしまう。


「あ……じゃ、じゃあ僕はこれで!」


「そ、そうですね! 私も仕事に戻ります!」


僕はあわてて部屋を出る。


なんだか今日はいろいろあったな……。


帰ったらヒナドリちゃんのおいしいスープを飲んでぐっすり寝よう。

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