第61話 ザコッグの勘違い


「キラさんが倒れたって本当ですか!?」


僕は急いで病棟に駆けつける。


そこにはキラさんのベッドを囲むザコッグさんとヘルダーさん。


「ああ、ヒナタさん。こいつ使い物ものになりませんよ……少し虐めたらこれだ……」


「え!? キラさんを虐めたんですか!?」


いったいどういうことなんだろう……。


ザコッグさん……こんな人ではなかったのに……。


「え!? ヒナタさんだって、コイツが憎いはずでしょ!?」


「それとこれとは別です!」


「え!? 契約書にサインさせたんじゃ……?」


たしかに、採用のときに契約書にサインはしてもらったけど……。


「ザコッグさん……まさかなにか勘違いしてません?」


僕の嫌な予感が当たってないといいけど……。


「え、コイツを死ぬまでこき使うんじゃないんですか……?」


「そんなことするわけないじゃないですか……」


ザコッグさんが僕に気を利かせて、勝手な勘違いをしてしまっていたらしい。


まあ、以前にもそのようなことを言っていた気はするけど……。


僕がそんなことを実行に移すわけないじゃないか……。


「じゃあ、どんな内容の契約書にサインさせたんです?」


「これを見てください……」


僕はザコッグさんに契約書の内容を見てもらう。


「こ、これは……!?」


契約書に書かれている内容はこうだ。


・爆発テロの遺族(ガイアックのせいで死んだ235人の)に、給料の一部を送金すること。


・その分、しっかりと働くこと。


・ただし、十分な賃金は支払う。つまり世界樹が余分な給与を支払う。


これらがしっかりと約束されていた。


「これはどういうことです……!?」


「どうもこうも……書いてある通りですよ。彼らには遺族への償いの機会を与えたんです。それこそが一番いい形での解決になると思ったからね。僕が個人的なうっぷんで彼らにいやがらせしてもなににもならない。それじゃあガイアックと同じだ」


「ヒナタさん……そこまで考えていたんですね……さすがです……。それを、俺がかってな思い違いで暴走をしてしまって……。すみませんでした!」


「いいんですよ。ザコッグさん。それに、謝るなら僕ではなくキラさんに」


そこでちょうどキラさんが目を覚ました。


さっき僕の滋養強壮ポーションを飲ませたから、すぐに回復したんだね。


「ヒナタさん……。ザコッグをあまり怒らないでやってくれ……。悪いのは俺たちなんだから。これも罰だと思って、受け入れました……」


「キラさん……。まだ無理をしないで!」


キラさんは起き上がって話をしようとするが、まだしんどそうだ。


「僕はザコッグさんにも怒ってなんかいませんよ。まあ、職員を過労で倒れさせたのは問題ですが……」


「ヒナタさん……、俺たち元ガイアック派の医術師を、受け入れるだけでなく、遺族への償いの機会まで与えてくれるなんて……。なんて思慮深いんだ……」


僕は当然のことをしたまでだ。


僕一人が復讐に心を燃やしても仕方ないからね……。


一番苦しんで、彼らの医術師ギルドを恨んでるのは、やっぱり爆発テロの遺族たちだからね。


ここで真面目に働くことで、少しでも彼らのイメージが良くなればいいなぁ。


「ま、と言うことで……。ザコッグさん。これからは仲良くやってくださいよ?」


「は、はい! すみませんでした……」


まあザコッグさんなりにいろいろ考えてはくれていたんだろうけど……。


もうおんなじギルドの仲間なんだし、仲良くしなくちゃね!


「ヒナタさん……何から何まで、本当にありがとう……」


「いいんですよ。それより、キラさんは今はゆっくり休んでください」


「ああ……そうさせてもらおう……」


そうして、キラさんは再び眠りについた。


ザコッグさんには、後でライラさんから大目玉が喰らわされたよ……。


まあ、これをきっかけに、上手くやっていけそうだからよかったけどね。


こうして――。


ホントのホントに、僕たちは和解し、わだかまりなくギルドを運営していけそうだよ……。


それはそうと……、この総合ギルドにはまだまだ部門がある。


ということは、他にも問題が山積みなんだ――。


明日からはそれを解決していくことになりそうだね。


僕もがんばるぞ!

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