第58話 追放者たちは……【side:キラ】


「くそ……俺まで追い出されてしまうなんて……どういうことなんだ」


せっかくガイアックを上手く追い出せたと思ったのにな……。


これじゃあ、とんだピエロじゃないか。


まあ俺だって、いろいろ酷いこともしたしな……。


天罰なのかもしれない。


だが俺はガイアックとは違う。


あの人から逃れた今、俺は自由だ!


新しい場所で返り咲いてみせる!


「あのーキラさん……俺たちはどうすれば……」


「知るかよ! それぞれ好きに生きればいいだろ……!」


いっしょに追い出された下っ端の若手医師たちだ。


こいつら、人に聴かないとなんにもできないのか?


とくに今声をかけてきたコイツ――ジンリュウはどうしようもないヘタレだ。


そんなんだからいつまでも出世しないんだ……。


「そんなこと言わずに、連れていってくださいよー!」


「は?」


「だって、キラさん。あのガイアックをあそこまで上手く支えてたんですから、きっと他のとこでも上手くいきますよ!」


ふん、俺に媚びたって無駄だ。俺だって、あてはないんだから。


ま、まあたしかに……俺のおかげでガイアックはあの程度で済んでいたともいえる……。


「お前たち、行くところがないのか?」


「そうですよ! 途中で雇ってくれるところなんてなかなかないですしね……」


「まあガイアックの悪い噂も広まってしまっているしな……。そんなところを追われた俺たちじゃあ……どこも相手にしてくれないか……」


俺たち下っ端なんてのは、貴族とはなばかりの、働かなきゃ平民よりちょっとリッチなくらいの貧乏貴族だ。


とくに俺の家は、いろいろな事情があって、俺が稼ぎをよくしないと難しい。


だからこそ、あんなガイアックに取り入ってまで、上手くやってきたというのに……。


うまく新しいギルド長にも取り入ったつもりだったのだがな……。


いままでさんざん、ガイアックとともに悪事を働いてきたツケが回ったか……。


「ほかのギルドに移るのはどうでしょう? ザコッグさんとかなら、雇ってくれるんじゃ?」


「馬鹿、ザコッグさんはガイアックに酷いめにあわされたからな。きっと俺たちなんか、相手にしてくれない」


「そんなぁ……。俺たち、ガイアックのせいで人生終わりじゃないですか……」


こいつも気の毒にな……。あんなやつと関わったばかりに……。


「そうだ! 誰かが新しい医術ギルドを立ち上げるっていうのは――」


「馬鹿野郎! どこにそんな金があるんだ!? ギルドの立ち上げに、いくらかかると思ってる!」


「ご、ごめんなさい……」


医術ギルド長クラスの貴族となると、弱小貴族の中でも、まあそこそこの金持ちってことになる。


少なくとも、俺たちなんかとじゃ比べ物にならない。


貴族のなかにもやはり階級はあるし、暮らしぶりはさらに差が付く。


俺たちはあくまで平民より上、というだけで、貴族階級のなかでは最下層――搾取され、見下される側だ。


「しかたがない……。地道に方法を探すか……」


俺たちは手分けして、人員募集の情報を探すことにした。


このご時世だ。人はいっぱい死ぬ。


少なからず医師の需要はあるだろう……。





俺はしばらく街の中を探し回り、あるところで立ち止まった。


「ん? こんな巨大なたてもの……あったか?」


どうやら外観を見るに、最近できたものらしい。


目に付く大通りに面していて、中も外もにぎわっている。


「活気があるな……」


俺はその建物の外観に書かれていた文字を読む。


――総合ギルド・世界樹の精鋭達ユグドラシルグレート


この街にもこんなものができたのか……!


「総合ギルド……! ということは……いけるかもしれない!」


まだ新しくできたところだし、もしかしたらまだ人員を募集しているのかもしれない。


俺はみんなを呼びにもどった。





「よし、全員集まったな」


「キラさん。俺たちはどこも断られてしまいました……すみません」


ジンリュウが申し訳なさそうに頭を下げる。


「問題ない。大丈夫だ。俺がちゃんと、見つけたからな」


「本当ですか!」


「ああ、ここだ」


俺は総合ギルドまで彼らを案内する。


「おお! なんてすごそうなギルドなんだ!? でも、こんなところ、競争率がすごそうですよ……」


「ああ、だがな、この張り紙をみろ!」


「これは……!?」


そう、ギルドの外の掲示板にはってあるのは、人員募集のチラシ。


しかも……そこには医師募集・・・・の文字。


「おおおお! こんなギルドで働けるのか! 嬉しい! さすがキラさん!」


「まだ喜ぶのははやいぞ……。よし! さっそく入ってみようか……!」


俺たちは総合ギルド――世界樹の精鋭達ユグドラシルグレートへ足を踏み入れる。


ギルドの門は解放されていて、誰でも自由に出入りできるようになっていた。


これだけの大ギルドだ、いちいちカギなんかかけていられないのだろうな。


それに、冒険者ギルドもあるだろうし、冒険者たちがひっきりなしに出入りしている。


医師募集とはいっても、それなりに条件は厳しいのだろうか。


だってこんな最先端の超ギルドだしな……。


正直、こんなでかいのは王都でないと見たことがない……。


そう、俺たちはそれなりに覚悟をしていったつもりだった。


だがそれで――。




――あんなことになろうとは。

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