第57話 人員募集


「困りました……」


「どうしたんですかライラさん?」


珍しくライラさんが書類を前にして頭を抱えている。


これは役に立つチャンスだ!


「それが……深刻な人材不足で……」


「人材不足……ですか」


たしかに【世界樹の精鋭達ユグドラシルグレート】は急に部門を増やして、無理やり総合ギルド化したもんね……。


いきなり人を集めるのなんて難しい、なんてことは僕でもわかる。


だけど、受付嬢のミーナさんや、医術部門のザコッグさん、ポーション部副長のヘルダーさん。


他にもいろいろ、部門によってはちゃんと頼れる人材がそろってはきているはず……だと思っていたんだけど……。


倉庫の管理も、クリシャとウィンディに任せてあるしね。


「でも、僕が見る限りでは、どこもそれなりに回せていると思うんですけど……」


国からの補助金も大きかった。


商人や冒険者ギルド部門の人材には、さほど困っていないはずだけど……。


特に商業ギルド部門の拡張はすごかった!


街の他の商業ギルドがいくつか、吸収合併してほしいと向こうから頼み込んできたのだ!


なんでも、ガイアックに悪い噂を流されたとかで……売り上げが下がって困っていたそうだ。


メリダさん、ノルワイアさんという商人の二人がやっていた商業ギルドを、うちがそのまま買い取ることになったんだよね。


だから倉庫で働く人材や、営業に行く商人には特にこまっていない。


「ええ、足りている部署は足りているんですけどね……。足りてないところはほんとに足りてなくて……。もうほんとに猫の手も借りたいってかんじですよ……」


「そうなんですか……。それで……どこの部門が足りないんです?」


「医術ギルドです」


医術ギルド――そう聞くと、僕が真っ先に思い浮かぶのがガイアックの顔だ。


ま、もう終わったことだし……忘れよう……。


それよりも……。


「どうして、医術ギルドだけそんなに足りないんです?」


医術ギルドで働くような人たちだって、国からの補助でなんとかなりそうなものだけど。


それに何人かは国から推薦状を渡されて紹介してもらったしね。


人数は少ないけど、ザコッグさんのところの人たちもいる。


「もちろん、何人かはいるんですが。やはり、そもそもの総数が少ないというのが原因です。まず、大学出の貴族がそんなに簡単には見つからないんですよ。それに、彼らの多くは別にお金目的で働いているわけではありませんしね。


 医師たちは一度入ったギルドをまず辞めない、というのも原因ですね。貴族の家同士のつながりとかもありますから……。よっぽどの理由がないと、別のギルドになんか移らないでしょう」


「そうですか……」


たしかに、ガイアックの元にいた人たちも、みんなそんな感じだったな。


代々ガイアックの家系につかえている下級貴族とか、縁の深い家柄とか、みんなそんな感じだったはずだ。


「いろいろと、声をかけてまわったんですけどね……。ヘッドハンティングはすべて失敗に終わりました……」


「あきらめることないですよ! 他にも方法はあるはずです!」


「ヒナタくん……」


ライラさんにこんな悲しい顔をさせるわけにはいかない!


僕がなんとかするしかないね。


「例えば、募集の張り紙をつくるっていうのはどうでしょう?」


「張り紙……ですか……いいかもしれませんね」


張り紙を張れば、向こうから来てくれるかもしれない。


ヘッドハンティングには応じにくくても、これならもしかしたらいけるかも。


きっと、今の職場に馴染めなくて、本当はやめたいと思っている人もいるはずだ。


僕はそのことをライラさんに説明したよ。


「ヒナタくん。商才だけじゃなくて、こんな才能まであるんですね! さすが、アイデアマンですね!」


「あ、ありがとうございます。ただの思い付きですよ」


「でも、張り紙を作るなら、なにか絵や文字が上手な人に頼みたいですねぇ……」


「あ! それなら! 僕にまかせてください!」


「え!? ヒナタくんは絵も上手なんですか!?」


「いや……僕じゃなくって――」





僕は家に帰ってきたよ。


手には張り紙用の白紙の束を持っている。


「ただいまー!」


「おかえりなのー! 兄さん!」


「おおっと……!」


玄関で、ヒナギクが僕に飛びつく。


最近では、だいぶよくなったようで、以前の元気さをある程度取り戻していた。


よかったね……ホントに……。


「今日早く帰ってきたのはね、ヒナギクにお願いがあってのことなんだ」


「お願いなの? 兄さんのお願いならなんでもするなのー!」


「よし! じゃあこれを頼めるかい?」


僕はヒナギクに、募集の張り紙のことを説明したよ。


ヒナギクは頭もすっごくいいからね。


簡単に理解してくれる。


「わかったなの! いっぱいかくの!」


「そうか! ありがとう!」


それから、ヒナギクは机にかじりつくようにして、夢中で筆を握った。


「さすがヒナギクですわ。すっごく上手ですの」


「そうだよね。これは唯一無二の才能だ」


それを僕とヒナドリちゃんで見守る。


なんだかこうしていると、時間が止まったような気さえするね。


「できたのー!」


「おお!? すごい!」


ヒナギクの書いた絵は、とっても可愛らしくて、それでいてわかりやすい。


なんというか、見るものをそこに立ち止まらせる力があった。


これならいけるかもしれないぞ!


「ありがとう。じゃあ明日これを提出するよ!」





「なんですかこの絵は!? これをヒナギクちゃんが描いたんですか!? す、すごいですね……」


「ええまあ……えへへ……」


まさかライラさんがそこまで驚いて、褒めてくれるなんてね……。


僕が直接褒められたわけじゃないけど、なんだかうれしいし誇らしい。


「天才ですね……。やっぱり、兄妹は似るものなんですねぇ……」


「え、いやいや……僕は全然、天才なんかじゃないですよ?」


「じゃあ、秀才ってことで!」


「は、はぁ……ありがとうございます」


どうやらライラさんは、どうしても僕を才能があるってことにしたいみたいだ。


僕はまあ、努力はそれなりにしてきてはいるけど……。


そんな僕を見透かしてか、ライラさんが言う。


「ヒナタくんはもっと自信を持ってください! 私には自信を持てという割に、ヒナタくんは謙遜してばかりじゃないですか!」


「た、たしかにそうですね……。もっと自信を持つようにします……」


ライラさんの言葉は本当にありがたいなぁ……。


僕が支えるつもりが、僕まで支えられちゃっている。


おたがいに支え合ってるってことなんだろうか。


だったらいいな……。


「この張り紙……どこにはりましょうか……」


「そうですねぇ……。まずは表通りの掲示板と、それから……冒険者ギルド内の掲示板にも張らせてもらいましょう!」


「いいですね! さすがヒナタくん!」


と、いうことで……僕たちは新しい仲間を募ったよ。


さっそく、冒険者ギルド内にはると、すぐに反響があった。


「おお!? なんだこの張り紙は!?」


「医師の募集か……。俺には縁のない話だな……」


「ああ、だがこの絵は秀逸だ。これは知り合いの医師にもしらせねば……!」


「この絵には人を引き付ける……なにか魔力のようなものがあるなぁ。これを描いたものは只者じゃない!」


「お、俺、ファンになっちまただよ! 毎日見に来よう!」


掲示板に人だかりができちゃってるよ……。


これじゃあクエストを選ぶ人に邪魔かな?


だけど宣伝の効果はかなりありそうだ!


このことをヒナギクに伝えると、とっても喜んでくれた!


「褒められてうれしいのー! 兄さんの力になれてよかったのー!」


「ほんとにね。ありがとうだよ、ヒナギク」


僕はヒナギクを抱きしめ、頭を撫でる。


柔らかい、おひさまのにおいだ。


僕は手の中の小さな彼女を感じながら、その細さに、あらためて驚く。


こんなに弱弱しいなんて――だけど彼女は決して悲観的なところを見せない。


僕も前を向かなきゃ!


あらためて、僕はヒナギクからパワーをもらった。


さあ、明日からもがんばるぞ!

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