第56話 勇者パーティのホームギルド
「そう言えば……勇者さんたちはどうしてここに?」
僕は訊ねる。
だって、勇者さんたちならすでにホームギルドがあるだろうし……。
わざわざこんな出来立ての冒険者ギルドに顔を出す必要がない。
「ぼくたちも冒険者登録に来たのさ。冒険者登録はギルドごとにしないとだめだからね。あ、そうそう……ついでに、ここをぼくらの新しいホームギルドにしようと思うんだ。だからこれからは基本ずっと一緒だよ」
「ええ!? 【
「うん、そうだよ」
たしか、勇者パーティのホームギルドといえば【
首都近郊の大都市にあるギルドで、勇者さんたちはそこを拠点に、毎日世界を救っているんだ。
「で、でも……どうして?」
「ライラさんから聞いたよ。ヒナタくんは、戦争を回避するために戦うつもりなんだろ? だったら力を貸すよ。勇者として、そんなことは絶対にさせない!」
「勇者さん……ありがとうございます!」
勇者さんがいっしょに戦ってくれるなんて、頼もしいよね!
これで【
「
「いやそんなことはやめてくださいね、ぜったい……」
物騒な発言をする人だ……。
もし誰かに聞かれでもしたら、大変なことになるぞ……。
「じゃあぼくたちはさっそくクエストに出発するから、これで」
「あ、はい。いってらっしゃい」
僕はとっさに手を振る。
ほんとうならもっとお話ししていたいんだけどな……。
まあ勇者さんたちはいそがしいだろうし、しょうがないか。
「じゃあね、ヒナタくん!」
「行ってきます、ヒナタさん」
「はい! リシェルさんケルティさんも、お気を付けて」
去り際に、リシェルさんが僕に近づいて来て、耳元でささやいた。
「勇者はね、ほんとはもっと君とお話していたいけれど、恥ずかしがりやさんだから……今日はこのくらいでがまんしてあげて。あれでも、だいぶ頑張ったんだから!」
「は、はあ……そうなんですか……」
あんなにどうどうとしているのに、恥ずかしがりやさん……?
勇者さんも意外な一面があるもんなんだな……。
でもなんで? 僕なんかに恥ずかしがる必要ないのに……。
◇
【side:ユーリシア】
私たちはヒナタくんに背を向け、受付嬢の方へ歩き出す。
リシェルがなにやらヒナタくんに耳打ちしていたようだが……。
余計なことを言ってないといいのだけれど。
「なあリシェル。さっきヒナタくんになにを言ったんだ?」
「さあね、なんでもないわ」
そう言うとリシェルは、いたずらっ子な笑顔で笑う。
どうせろくでもないことに決まってる。
ああ、それにしても今日のヒナタくんも……。
かわいかったなぁ……。
「どうしたの? ユーリシア、またヒナタくんのこと考えてぼーっとしてる?」
「な、なななな! そんなことはない! お前がへんなことをするからだ!」
まったく、からかうのもたいがいにしてほしい。
どうもヒナタくんと出会ってからというもの……戦闘でも調子がでないのだ。
「ユーリシア、また耳まで赤くなってるわよ」
「う、うるさい! はやくいくぞ!」
私はもうリシェルの言葉を無視して、先に歩く。
この先、たいへんなことになるだろうが……ヒナタくんは私が護る。
彼のような心の清いポーション師を、戦争なんかに加担させるわけにはいかない。
本来なら私も戦争に、真っ先に駆り出される立場にあるが……。
私にとって国なんてものはどうでもいい。
目の前の、手の届く範囲にいる、大切な人たちを守れないで――なにが英雄だ! なにが勇者だ!
それにどうも――話を聞く限り、今回の件はかなりきな臭い。
王女スカーレット・グランヴェスカー――彼女には何度かあったことがあるが……あれはどうも……。
「ユーリシア、はやくいくわよ?」
「あ、ああ……」
「まーたヒナタくんのこと考え込んで……あきれた……」
「な! こ、今度は違うぞ! 別のことだ!」
「今度は? じゃあいつもはヒナタくんのことなんだ? 認めたわね?」
「う、うう……。そんなにぼくをいじめないでくれ……」
「あはは、ごめんごめん! もういじめないわ」
まったく、リシェルには困ったものだ。
だが仲間としては非常に頼りになる。
リシェル、ケルティ。この二人となら、ヒナタくんを守れるだろう……。
私は再び自分に誓った。
こんな私を初めて可愛いと言ってくれた人……。
そしてこの国を、救った英雄でもあるヒナタくん。
彼を絶対に守り、幸せにする。
それが私の勇者としての使命なのだ――。
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