第56話 勇者パーティのホームギルド


「そう言えば……勇者さんたちはどうしてここに?」


僕は訊ねる。


だって、勇者さんたちならすでにホームギルドがあるだろうし……。


わざわざこんな出来立ての冒険者ギルドに顔を出す必要がない。


「ぼくたちも冒険者登録に来たのさ。冒険者登録はギルドごとにしないとだめだからね。あ、そうそう……ついでに、ここをぼくらの新しいホームギルドにしようと思うんだ。だからこれからは基本ずっと一緒だよ」


「ええ!? 【世界樹の精鋭達ユグドラシルグレート】をホームギルドにですか!?」


「うん、そうだよ」


たしか、勇者パーティのホームギルドといえば【光のしもべたちホーリーエンジェル】っていう、超巨大なギルドだったはず……!


首都近郊の大都市にあるギルドで、勇者さんたちはそこを拠点に、毎日世界を救っているんだ。


「で、でも……どうして?」


「ライラさんから聞いたよ。ヒナタくんは、戦争を回避するために戦うつもりなんだろ? だったら力を貸すよ。勇者として、そんなことは絶対にさせない!」


「勇者さん……ありがとうございます!」


勇者さんがいっしょに戦ってくれるなんて、頼もしいよね!


これで【世界樹の精鋭達ユグドラシルグレート】は百人力だ!


王女スカーレットを殺してでもとめよう」


「いやそんなことはやめてくださいね、ぜったい……」


物騒な発言をする人だ……。


もし誰かに聞かれでもしたら、大変なことになるぞ……。


「じゃあぼくたちはさっそくクエストに出発するから、これで」


「あ、はい。いってらっしゃい」


僕はとっさに手を振る。


ほんとうならもっとお話ししていたいんだけどな……。


まあ勇者さんたちはいそがしいだろうし、しょうがないか。


「じゃあね、ヒナタくん!」


「行ってきます、ヒナタさん」


「はい! リシェルさんケルティさんも、お気を付けて」


去り際に、リシェルさんが僕に近づいて来て、耳元でささやいた。


「勇者はね、ほんとはもっと君とお話していたいけれど、恥ずかしがりやさんだから……今日はこのくらいでがまんしてあげて。あれでも、だいぶ頑張ったんだから!」


「は、はあ……そうなんですか……」


あんなにどうどうとしているのに、恥ずかしがりやさん……?


勇者さんも意外な一面があるもんなんだな……。


でもなんで? 僕なんかに恥ずかしがる必要ないのに……。





【side:ユーリシア】


私たちはヒナタくんに背を向け、受付嬢の方へ歩き出す。


リシェルがなにやらヒナタくんに耳打ちしていたようだが……。


余計なことを言ってないといいのだけれど。


「なあリシェル。さっきヒナタくんになにを言ったんだ?」


「さあね、なんでもないわ」


そう言うとリシェルは、いたずらっ子な笑顔で笑う。


どうせろくでもないことに決まってる。


ああ、それにしても今日のヒナタくんも……。


かわいかったなぁ……。


「どうしたの? ユーリシア、またヒナタくんのこと考えてぼーっとしてる?」


「な、なななな! そんなことはない! お前がへんなことをするからだ!」


まったく、からかうのもたいがいにしてほしい。


どうもヒナタくんと出会ってからというもの……戦闘でも調子がでないのだ。


「ユーリシア、また耳まで赤くなってるわよ」


「う、うるさい! はやくいくぞ!」


私はもうリシェルの言葉を無視して、先に歩く。


この先、たいへんなことになるだろうが……ヒナタくんは私が護る。


彼のような心の清いポーション師を、戦争なんかに加担させるわけにはいかない。


本来なら私も戦争に、真っ先に駆り出される立場にあるが……。


私にとって国なんてものはどうでもいい。


目の前の、手の届く範囲にいる、大切な人たちを守れないで――なにが英雄だ! なにが勇者だ!


それにどうも――話を聞く限り、今回の件はかなりきな臭い。


王女スカーレット・グランヴェスカー――彼女には何度かあったことがあるが……あれはどうも……。


「ユーリシア、はやくいくわよ?」


「あ、ああ……」


「まーたヒナタくんのこと考え込んで……あきれた……」


「な! こ、今度は違うぞ! 別のことだ!」


「今度は? じゃあいつもはヒナタくんのことなんだ? 認めたわね?」


「う、うう……。そんなにぼくをいじめないでくれ……」


「あはは、ごめんごめん! もういじめないわ」


まったく、リシェルには困ったものだ。


だが仲間としては非常に頼りになる。


リシェル、ケルティ。この二人となら、ヒナタくんを守れるだろう……。


私は再び自分に誓った。


こんな私を初めて可愛いと言ってくれた人……。


そしてこの国を、救った英雄でもあるヒナタくん。


彼を絶対に守り、幸せにする。


それが私の勇者としての使命なのだ――。

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