第55話 新しいギルド長【side:グラインド・ダッカー】


ガイアックが去って、俺ははれてギルド長となった。


このギルドにとって、最大のガンだったヤツが消えれば、しだいに信頼は回復するだろう。


ま、俺の手腕をもってすれば、こんなギルドでも国一番の医術ギルドにすることは時間の問題だ。


「さぁ、あと始末だ」


「はい! 新ギルド長! よろしくお願いします!」


元ガイアックの側近、キラ・マクガエルが元気よく返事をする。


相変わらず立ち回りだけは上手い男だ。


誰が一番偉いかを瞬時に判断し、そこに取り入る。


権力者こそを第一に考えるから、こういう手合いは単純で付き合いやすい。


まさに、側近として置いておくにふさわしい有能だ。


だが――。


「なにを勘違いしている? キラ・マクガエル、お前も追放だ」


「は?」


「ん? 聞こえなかったか? それともなにか? キサマもガイアックみたいにギャアギャアわめくつもりか? ん?」


「そ、そんな! おかしいじゃないですか! ガイアックの追放に、手を貸したんですよ!?」


「ああ、そうだな」


キラに告発を持ち掛けたのも俺だ。


「約束が違うじゃないですか! 決定的な証拠をだせば、出世させてくれると……!」


「約束……なんてした覚えはないがな?」


「アンタ最初から……! 悪魔め……!」


ふん、人聞きの悪い。悪魔ならついさっきそこの扉から出ていったところじゃないか。


「でも、どうしてそんな回りくどいことを……!」


さっきこいつを有能だと言ったが、それは撤回だ。


こいつはバカ。どうしようもないバカだ。


出世をなにより望んでいるようだが、この調子だと一生出世しないな。


「そんなの当たり前だろう? 一体だれが、上司ボスを裏切るような部下バカをそばに置く? 俺はガイアックと同じてつを踏むつもりはない」


「そんな! 俺は裏切ったりなんかしません!」


「オイオイオイ、誰がさっき裏切ったばかりの奴を信じる?」


「……っく!」


「分かったならキミも出ていってもらおうか……? お帰りはあちらだ」


これでまた一つゴミが片付いたか。


だがまだだ――。


「さあ、残りのものもみんな出ていってもらおうか……?」


俺は有象無象の下っ端職員たちにも声をかける。


――ざわざわざわ。


「え、どういうこと?」


「お、俺たちもクビなのか……?」


「そんな……明日からどうすればいいの?」


まったく、吞み込みの悪い連中だ。


そんなんだからガイアックをより助長させるのだ。


「お前たちは全員、世間知らずのバカ貴族ばっかだ。だからガイアックの暴走を止めることができずに、あいつはどんどんつけあがってしまったんだ! お前たちがあの怪物を作り出したようなものだ、恥を知れ!」


「で、でも……必死に働いてきました!」


「馬鹿野郎! 必死に働くのなんて当たり前だ。俺たちは人の命を預かるんだぞ? それだけじゃない、チームワークや職場環境も大事だ。それがわからんような奴らに、用はない」


「っく……これじゃあ、前に追放されたポーション師のやろうと同じだ……。みじめだ……。貴族の俺たちが、ポーション師なんかとおんなじ末路をたどるなんて……」


ふん……ポーション師、か。そんな仕事もあったな……。


俺は知ってる。ポーション師が、裏方が、どれだけ大事なピースであるかを――。


「俺たち医師はたしかに花形だ。貴族だし、稼ぎもいい。なにより、人に感謝される仕事だ。だけど――それを支えているのは、ほかならぬ裏方たちなんだ。


 魔法医術オペのあとの片付けや、使用するポーションの準備、建物や道具の管理や整備、そういうことをやる人がいてこそ、仕事が成り立つ。俺たちは誰よりも感謝される仕事だが――


――だからこそ、感謝を忘れちゃいけねぇ」


説教は終わりだ。


これでこいつらも少しはまともになるだろうか。


「さあ、話は以上だ。出ていってくれ」


あとは協会から、俺の選んだ人員を招き入れれば、はれて俺の理想のギルドが完成する。


ぞろぞろと出ていく元従業員たちにならって、レナもそれに続こうとする。


「おい、お前は残れ」


俺は後ろから彼女の肩に手を置き、制止する。


「え、私が……ですか? どうして?」


「君はガイアックに忠誠を誓っていたな。上司を最も大事にすることを徹底している。仕事をするにあたって、そういう人間は貴重だ。君は相手を見ない。相手が誰だろうと、それが仕事であれば全うする。すばらしいプロ意識だ。そういう部下こそを、私は必要とする」


なんてったって、あの・・ガイアックだからな……。


あんな怪物に、愛想をつかさずに尽くしきれるのは、彼女くらいしかいないだろう。


「ありがとうございます、ギルド長」


そう、レナの目にはギルド長・・・・しか映っていない。


それは俺でもなくガイアックでもない。ギルド長、という役割に対して忠誠を誓っているのだ。


彼女は絶対にそれを裏切らない。だからこそ信用できる。


ま、まあ……ちょっと、可愛いからっていう理由もあるがな……。


それは俺の胸の内にしまっておこう――。


「これから、新しい医術ギルドを作っていこう。よろしく頼むぞ」


「はい!」

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