第54話 ガイアックの流儀【side:ガイアック】


「さあ、部外者は出ていってもらおうか」


グラインド・ダッカーが俺にそう告げ、出口を指さす。


そうなのだ。ここはもう俺のギルドではない。ヤツが乗っ取りやがった。


「……っく! で、でも……どうしてだ!? 一体どうして粗悪ポーションのことがわかった!? そんなのバレるはずがない! だって、だって……。……っは!? まさか……!」


「そうだよ、お前の想像通りだ」


俺は黙ってみていたキラの方を見る。


キラはそれに対しバツが悪そうに顔をそらした。


「き、キサマぁ!! 俺を売ったのか……!? あんなに一緒だったのに!」


まさか飼い犬に手を嚙まれるなんて。


俺にとって一番の部下だろ!


俺を尊敬し、なんでも言うことをきく、そういった忠実な部下だったんじゃないのかよ!?


「最初に裏切ったのはギルド長の方ですよ……!」


「なに!? 俺がいつお前を裏切ったッ! 言ってみろ!」


「僕は今まで必死にあなたにあわせてきました。だけどアンタはちっともそれに報いてくれない……! 僕は耐えた……! 嫌な命令にも従ったし、できるだけガイアックさんの言うとりにしたんです! それなのに……っく……!」


キラはそう言うと泣き出した。そうだったのか……!


こいつ、俺に従うふりして、腹のなかではそんなことを考えていたのか……。


「だからって……そんな! 俺は仕事をクビになるんだぞ!? やりすぎじゃないのか!? 俺は仕事を失い、財産も失う! 終わりじゃないか……! 責任とってくれよ!」


俺が叫んだ直後、俺の腹に一発のパンチが入る。


「ぐえ」


「これは、ガイアックさん。あなたのせいで不幸になってきた人たちの分です」


は? コイツ、何を言ってるんだ!?


俺に手を出すなんて、気でも狂ったか?


それにこんな仕打ち、理不尽すぎるじゃないかッ……!


「こんなくらい、ちっともやりすぎじゃありませんよ……。あなたのしてきたことに比べればね……」


クソ……! キラのやろう……! こんなヤツだったのか……!


早めにクビにしておくべきだったな……。


これだから無能は嫌なんだ。人のせいにしてすぐに裏切る。


そ、そうだ! 俺にはまだもう一人、とっても忠実な部下がいるじゃないか!


「お、おいレナ! お前はどうなんだ! お前は俺の味方だよなぁ!?」


そう言ってレナに向き直るが、彼女はふいとそっぽむく。


「な、なんでだ……」


「なんで……? わからないのですか……?」


レナはもともと感情をあまり表へださない、冷淡な女だったが……。


俺の前ではもう少し愛想よく振舞っていたはずだ。


それなのに今の彼女は、声色も冷たく、表情も死んでいる。


特に俺に向けられた目線は、とても尊敬する俺に向けるような目ではなかった。


「私があなたに尽くしてきたのは……あなたが私の上司だったからです」


「は?」


俺は言われた意味がわからない。


レナは俺のことを愛しているんじゃなかったのか……!?


ま、まあたしかに、プライベートな誘いには一切応じてはくれなかったが……。


それでも仕事中はあんなに愛情のこもったやり取りをしていたじゃないか!


「愛情……? 私がいつそんなものを持って接しましたか?」


「え?」


どうやらまた俺の心の声は口に出ていたようだ。


だが、待ってくれ……。そもそも俺の思い違いだったというわけか?


意味が分からない。足元が崩れ去るような気分に襲われる。


「私は仕事で・・・やっているんです。お給料をもらっているんですからね、当然です。そうじゃなかったら、あなたなんかとは口もききませんよ。


 それに、あなたに取り入ったおかげで、秘書として高給取りになれましたからね。無駄ではなかったです。でもそれだけでしょう? あなたと私の関係は。

 

 あなたは注文の多いめんどくさい上司。そういう感情しか抱いていませんでした。もしかして、勘違いされていたんですか……?」


「勘違い……だと!?」


バラバラと音を立て、俺の信じていた世界が崩れていくのを感じた。


俺ははなから見ていたものが違っていたのだ。


俺と部下たちが見ていたものは違っていた。


決定的に違っていたのだ。


「ほ、他のみんなはどうなんだ……!?」


俺はその他有象無象の連中たちに目を向ける。


またしても、全員沈黙したまま気まずそうに眼をそらす。


「……っくぅ……」


俺はこいつらを信じていたのに。信じていたからこそ、遠慮なく命令ができたんだ。


俺の信頼を裏切って、みんなして俺を追放しようってわけか……。


薄情だな……。


「クソっ! もういい! こんなクソギルド! こっちから願い下げだ!」


そうだ、俺は追放されるんじゃない! 自分の意思で出ていってやる!


「願い下げだと? まだ上から目線なのか、救いようがないな」


監視役の男がなんか言ってるが、無視だ。


監視役の男の名前なんてもうすでに忘れたが、とにかくもう俺はこいつらとはおさらばだ。


「お前ら全員、泥船に乗って沈んじまえ! こんなクソギルド!」


いままで俺が上手くまとめていたからこそ、なんとかやってこれたんだ。


俺がいなくなってそれを思い知るがいい!


「っは、捨て台詞にしてもセンスがないな。沈むのはお前だよ、ガイアック」


「いいや、俺はここからまた這い上がるね。それがガイアック・シルバ。勝利の星のもとに産まれた、男の名だ――よーく覚えておけ」


俺はギルドのマスターキーを床にたたきつけ、部屋をでた。


っふ……決まった。


去る時もあくまでクールにかっこよく。


それがガイアックの流儀!

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