第52話 冒険者登録をしてみよう!


「冒険者登録……ですか。たしかに、身分証にもなりますし、しておいた方がいいですね」


「やっぱり、ライラさんもそう思いますか」


僕は冒険者登録の件を、改めてライラさんに相談した。


冒険者登録をすると、クエストを受け、モンスターと戦ったりできるんだけど――。


まあ今のところその予定はない。


でも、冒険者さんについて行って回復役を務めたり、資格試験に挑んだりもできるみたいだから、まあ持っておいてもいいか。というところだ。


貴族でもないと資格試験に必要な身分証は得られないからね。そうでなければ、冒険者として身分証を得るしかない。


「だけど、冒険者登録っていうのにも条件がありますよね。いろいろと……」


「そうですね。でもヒナタくんなら大丈夫ですよ! だって、爆発テロ騒動のとき、ヒナタくんがあのスパイの男をやっつけたんですよね! だったらもう、実績としては十分ですよ!」


「そうなのかなぁ……。そうだといいけど」


戦績が勝利数1、というのも心もとない……。僕の自己評価的にはそんなだった。


でも――。





「あ、はい。それでは、ヒナタ・ラリアークさまですね。これにて登録完了となります!」


ギルドの看板娘、受付嬢のミーナさんは笑顔でそう言った。


ミーナ・クロレンツさんは、【世界樹の精鋭達ユグドラシルグレート】の冒険者ギルド部門の所属で、一級受付嬢の資格を持つすごい人だ。


ミーナさんはライラさんがスカウトしてきた、優秀な人材だ。【世界樹の精鋭達ユグドラシルグレート】の新しい仲間として、僕も仲良くやっていきたいね!


一般的に、冒険者登録をしに来た人が冒険者足り得るかどうか、というのを判断するのは彼女たち――受付嬢の仕事だ。


それについても、一定のランク以上の受付嬢である必要があるんだってね。


なんでも資格や試験が必要で、僕みたいな平民にはなかなか住みにくい世界だよ。


でも、なんでそんなに難しいはずの、冒険者登録がこんなにあっさりと終わるんだ?


「え? も、もう終わりですか?」


「え、まだなにかありましたか!? 私、なにかとんでもない勘違いを!?」


ミーナさんは口を押えてわたわたと慌てている。普段冷静な人がそうしていると、可愛くて思わず笑ってしまう。


「い、いえ。間違いがないんならいいんです。だけど……どうして僕のことを見ただけで、冒険者登録しても大丈夫だって判断できたんですか?」


普通はもっと、目の前で魔法を放ったりとか、これまでの実績をきかれたりとか、いろいろするものだ。少なくとも僕の前に並んでいた人はそうだった。


「またまた、ヒナタさんもお冗談がお好きですね。ライラさんからうかがっていた通りの可愛い人だ!」


ミーナさんはまた口をおさえてクスクス笑う。目元のほくろが、笑みで歪んだ目と相まって、なんだか笑っているだけで妖艶な雰囲気を感じてしまう。不思議な女性だ。


なんだか僕はからかわれているのか? いたずらっ子な笑みを浮かべるミーナさんに、僕は照れくさくてよくわからない表情になってしまう。オドオド……。


「冗談なんかじゃないですよ! ただ疑問に思っただけです!」


「アハハ……。だって、ヒナタさん、あなた、自分がやったことわかっています?」


「へ?」


「あなたは、国を襲ったテロリストを倒し、さらに彼に襲われた多くの被害者たちの命まで救ったんですよ? それでまだ実績がいるんですか? 冒険者としての資質は十分だと思いますけど……?」


ミーナさんはそう言ってにっこりと笑う。今度はさきほどと違って、僕を柔らかく肯定し、受け入れてくれる、そんな笑み。


「そ、そうですか……。い、言われてみると、あらためて……僕はすごい経験をしたんですね。実感がまだないですけど……」


「そうですよ! 自信をもってください! ヒナタさんはこの国の英雄なんですから! きっと冒険者としてもうまくいきますよ!」


「あはは……。ありがとうございます」


ま、まあそう言われても、冒険者としてやっていくつもりなんてないんだけどね……。


僕が今回登録したのはあくまでも、身分証としての役割を求めてだ。


まあ冒険者の資格があれば、危険なダンジョンに自らおもむいて、レアな調合の素材アイテムとかを探しにいけるかもしれないしね!


そうなればまた、ヒナギクの寛解につながるかもしれない!


それに、やれることが増えるというのはいいことだしね。その分、いろんな面でライラさんを支えられる。


そして、この国を戦争から守ることにもつながるかもしれない……!


ひいては、ヒナギクを守るため――。

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