第49話 監視役【side:グラインド・ダッカー】


俺は医術協会本部所属――監視役員のグラインド・ダッカーだ。


仕事一筋、勤続きんぞく20年のベテランだ。


俺の仕事は、落ちこぼれやクズの監視と矯正きょうせい


なにかヘマをしたやつをなんとかしてやるのが俺の役目というわけだ。


まあようは他人のしりぬぐい。


縁の下の力持ちって感じだ。


そんな俺が今回派遣はけんされることになったのが、とある医術ギルド。


事前資料によるとガイアック・シルバという男がギルド長を務めるらしい。


それで問題なのがこの男――ガイアック・シルバギルド長、張本人なのだ。


彼は愚かにも、自分のギルドの運営ひとつできないでいるそうだ。


そんな人物がなぜギルド長になれたのかは疑問だが……。


まあこれが世襲制せしゅうせい弊害へいがいというやつなのだろうな。


おっと、そうこう考えてるうちにギルドに着いた。


俺はゆっくりとその扉を開ける――。





「今日から配属された監視役のグラインド・ダッカーだ。よろしく頼む」


「ああ、あんたが……。まあせいぜいやってくれ」


俺の挨拶に、ぶっきらぼうに答えた男。


こいつがガイアック・シルバか。


まったく、やはりというべきか礼儀がなっていない。


これだから世襲制のバカ息子というやつは……。


「おい、その態度はなんだ?」


「は?」


「俺は監視役だ。キサマの態度もその監視対象だ。改めてもらおうか」


「は? 何言ってんだコイツ。俺がここのギルド長だぞ? 俺が一番偉いに決まってる。あんたが監視役だろうがなんだろうが知ったこっちゃない。なあ? キラ、レナ?」


ガイアックはそう部下に問いかける。


だが部下は気まずそうに愛想笑いを返すのみだ。


当然だ。


私の目があるから、ガイアックには同意しにくいだろう。


これもパワハラとして報告せねばな……。


「まあキサマがその態度を貫くというのならそれもよかろう。俺はそれを医術協会に報告するのみだ」


「っち……。わかりましたよ……」


ふん、初めからそうすればいいのに……。


「ところで、このギルドにはポーション師がいないのか? さっきから見当たらないようだが?」


「ああ、ポーション師ならそこに。何人か親父が雇った奴らがいますよ」


「なに!? 彼らがポーション師?」


「ああ、そうだ。なにか問題でも?」


それは驚いた。


あまりにレベルが低い……。


先代のガイディーン氏が雇ったにしては手際が悪いな……。


「ちょっと、いいかな? 君はガイアック氏についてどう思う?」


「あ、おい! 勝手なことするなよ」


俺は作業中のポーション師一名に話しかける。


ガイアックの制止は無視だ。


「……。この際だから正直に言いますけど、ガイアックさんはなにもわかってませんよ」


「そうそう、俺たちポーション師のことを信用してくれてない」


「こちらの好きな手順をやらせてくれないんです。押し付けが酷い」


ほう……。


ポーション師の本音が聞き出せたな。


俺がいることでガイアックへの遠慮がなくなったのだろう。


いい傾向だ。


「だ、そうだが? ガイアックギルド長……?」


「な!? そんな、俺にはそんなこと一言も……」


「それは君のそのパワハラ体質のせいだろう? きみがそんなだからみんな意見を言えないんだ!」


「なに!? そうだったのか……」


「まあこれからはもっとポーション師の言うことをきくんだな」


「俺がポーション師なんかのいうことを!?」


問題はコイツ――ガイアックの差別意識にあるな……。


コイツはポーション師を見下し過ぎている。


そんなのでは連携などとれるはずもない。


「きみは差別するのをやめることだな。それができなければおしまいだ。監視役として、君をクビにするしかなくなる。つまりは医師免許はく奪だ」


「そんな!?」


「当然だろう? 他人ひとを大切に出来ない人物に、医師はふさわしくない」


「……っく……!」


まあこの調子だと……。


ガイアックをクビにするのも時間の問題かな……。


そうなれば俺がここのギルドを引き継ぎまで束ねるわけだが……。


そのまま俺のギルドにしてしまうのも悪くないな。


そろそろ監視役なんてのには飽きてきたんだ。


腰を落ち着けるのもいいかもしれない。


ギルド長か……悪くない響きだ。


そのためにも、もっとガイアックの悪いところを探さなくてはな。


まあほっといても見つかるだろうが……。


がっはっは!

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