第45話 正面突破!


「急がないと、表彰式に遅れちゃいますよ!」


「い、いまいきます!」


 ドレス姿のライラさんが、ドレスの端を持って走りながら僕をせかす。


 もうすっかり夕方になってしまった。


 あんまり観光するような暇もなかったなぁ。


 もっとライラさんとゆっくりしたかったけど。


 まあそれは表彰式が終わってからでもできるかな。


「あ、ちょっと僕忘れ物をしちゃいました!」


「大丈夫ですかヒナタくん!?」


「ええ、大丈夫ですから。ライラさんは先に行ってください。万が一にも王様をお待たせしてはいけませんから」


「急いできてくださいよ? 絶対ですからね? 私、ヒナタくんにそばにいてほしいんですから! それに、今はもうかたときも離れたくありません……」


「わ、わかってますよ! 絶対にすぐに追いつきますから!」


 なんだかあれからすっかりライラさんは甘えん坊さんになっちゃたなぁ……。


 まあそんなところが可愛くて好きなんだけどさ。


 僕は急いできた道を引き返す。


 ホテルに戻り、カギを預けておかなければならなかった。


 セキュリティの問題は大事だからね。


 とくにこういう旅先の都会だと、なにがあるかわからないから慎重にいかないと!


「すっかり遅くなっちゃったな……。間に合うといいけど……」


 僕はお城までダッシュする。


 走ればなんとか間に合うだろう……。


 大きな問題さえなければ……。





「やっと着いたぁ……はぁ……はぁ……」


 僕は息を切らしながらも、なんとか時間までに駆けつけることができた。


 王城の門は厳重な警備に守られている。


「あの、パーティーの参加者なんですけど……」


 僕はおそるおそる、警備の男性に声をかける。


「ん? キサマは……平民か?」


「え、たしかに僕は貴族ではありませんけど……どうして?」


「ふん、そんな貧相な顔をしたやつは平民と相場がきまってる。わかるんだよ、俺たちには違いがな。アッハッハッハ! ここはお前のようなのがくる場所じゃねえ!」


「えぇ……」


 なんなんだろうこの人。


 王都の人ってみんなこうなのか?


 さっそく都会の怖さを思い知ったよ。


 差別っていやだなぁ……。


「いちおうあなたのために言いますけど、僕は王様に呼ばれてるんですけど……?」



「「……」」



 警備兵二人は、顔を見合わせる。


 あ、これはやっぱり――。



「「どわぁあっはっはっはっはっはっは!!!! そんなわけないだろう」」



 そうなるよねぇ……。


「でも事実なんです……」


 まあ、信じないならしょうがないけど……。


「いいからとっとと去れ!」


 どうしようかな……。


 僕がそう思っていると、後ろから声がした。


「どうかしたのかね……?」


 渋い、おじさんの声だけど……。


「こ、これは! ジールコニア子爵殿! ようこそおいでなさいました!」


 じ、ジールコニア子爵だって!?


 たしか以前、僕がポーションで救った人だ……。


「それが、この平民が、身の程知らずに王に呼ばれたなどとうそぶいているのです!」


「ふむ……?」


 ジールコニア子爵が僕の顔を覗き込む。


「おや? 君は以前私を死の淵から救ってくれたポーション師、ヒナタくんではないか!?」


「ど、どうもジールコニア子爵」


 よかった。ジールコニア子爵も僕のことを覚えていてくれたみたいだね。


「どどどど、どういうことです? ジールコニア子爵」


「どうもこうもない。それともまだ私の友人――いや、恩人を中に入れれない理由があるのかね?」


「い、いえ! ありません!」


「よろしい」


 ジールコニア子爵の鶴の一声で、僕は中に入れることになった。


 あぶないところだったなぁ。


「ありがとうございます、ジールコニア子爵」


「いやいや、礼を言うのはこっちこそ。君に救われなければなかった命だ」


「ジールコニア子爵も今日のパーティーに?」


「ああ。世界樹ユグドラシルというギルドが表彰されると聞いて、まさかと思いやってきたんだが。やっぱり君だったのだな」


「覚えていただいてたみたいで……。ありがとうございます」


「私もうれしいよ。今日は君の晴れ姿が見れて、鼻が高い」


 ジールコニア子爵のような人までもが僕たちを祝福してくれているなんて……。


 それに、僕にはライラさんがいるし……幸せ過ぎる……。





「あ、ヒナタくん! 遅かったじゃないですか!」


「ご、ごめんなさい。ちょっと手間取ってしまって……」


 よかった。すぐにライラさんが見つかって。


 やっぱり、ライラさんほどの綺麗な女性だと、こんなに大勢の中でも目立つなぁ。


 そんな特別な人が、僕の隣にいるなんて……。


 今でも信じられないよ。


 だけど僕たちの幸せは、まだまだ終わりじゃなかった――。

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