第39話 ギルド長は救えない【side:ガイアック】
俺は昼休憩の最中、考え込んでいた。
俺はこれからどうすればいいのだろうか。
だが世間はそれを許してくれないようだ。
――ズドーーーーン!!!!
窓の外から大きな爆音が聴こえる。
その後しばらくして、人々の叫び声や、逃げ惑う声……。
「ん? なんだか外が騒がしいじゃないか……」
俺が立ち上がって窓の外を確認すると、遠くで煙が上がっていた。
「何事だ!?」
ちょうどそれに答えるようにして、昼飯を買いに行っていたキラが帰ってきた。
「ギルド長! 大変です! また例の爆破テロです!」
「なんだと!? 爆破テロだと!? くそ、この俺様が大変だってときに……」
「ギルド長、うちのギルドの状況は関係ありません! 今からここにもけが人が運ばれてきますよ?」
「そんなことはわかっている! だがどうする!? 今のこの医術ギルドに、今の俺たちに……そんなことができるのか!?」
「なにを弱気になっているんですか、ギルド長! あなたらしくもない!」
「ああ、そうだな。とりあえずやるしかない。それで俺の名誉をばん回する! ここで手柄をたてれば、表彰も間違いなしだからな! ガッハッハ! そうなれば、金も儲かり、俺たちはギルドを立て直せる!」
「その意気です!」
珍しくキラの意見が役に立ったな。
これはチャンスだ。
けが人には気の毒だが、俺はラッキーとしか思えなかった。
せいぜい俺のために利用させてもらうさ……。
「急いでポーションを用意してくれ! 即席でいい。とにかく量を優先しろ!」
「はい!」
こっちには、勇者パーティに渡すはずだったポーションも残っているからな。
もとはと言えば、騙されて買わされた粗悪ポーションだが、この際なんでもいい。
けが人は大量にやってくるのだ。
質より量!
しかも臨時とはいえ、父が用意したポーション師も何人かいるしな。
完ぺきだ!
俺はついている!
◇
――と、思っていたのに……。
なんだこれは?
どうなっている?
「ダメだ……、患者が多すぎる……」
運ばれてきた患者は、俺の想像をはるかに超えていた。
それは量の面でも、傷の深さという点においてもだ。
「いったいどれほどの爆発が……」
四肢が欠損した患者。
火傷を負った患者。
ガラス破片でキズを作った患者。
煙を吸い込んだ患者。
「ダメだ、こんなの……無理だ……」
「何を弱気になっているんですか!」
「だってお前も見ただろ!? こんな様々な、バラバラの症状、俺たちだけで対応できるわけがない」
「ギルド長、俺たちだけではありませんよ。ほかのギルドもみんな頑張っています」
「なに!? 患者はこれで全部ではないのか!?」
「ええ、これはほんの一部です。一つのギルドでは対応できないので、みんな手分けして頑張ってるんですよ。私たちも頑張りましょう!」
だがそんなこと言われたって、無理なものはむりだ。
一部の症状が軽い患者ならなんとかなるが……。
これはポーションや魔法医師になんとかできるレベルを超えているぞ?
「医術ギルドが商業ギルドになんかまけていられません!」
「なに!? 商業ギルドだと?」
「ええ、彼らにも患者が割り当てられています。なにせ医術ギルドだけでは対応できませんからね」
「はっはっは、そうか」
商業ギルドごときに何ができるというのだ。
とんだお笑い種だな。
「これで俺たちは救われたな」
「え? どういうことです?」
「このままだと、俺たちはろくに患者を救えずに、無能の烙印を押されていただろう……。だがどうだ? 商業ギルドも関わっているとなると、あいつらより俺たちのほうがマシだとは思わないか?」
「なるほど! たしかに……、商業ギルドなんかに患者が救えるわけがありませんもんね……。さすがはギルド長!」
「そういうことだ。ポーションなんかで回復できるのなんて、たかがしれてる。これで俺たちは責任を逃れたな。よし、だがまあやれるだけのことはやろう! そのほうがちょっとでも怒られないで済む」
「ですね!」
◇
だが思ったようにことが進まなかった……。
「ギルド長! 大変です、傷口がふさがりません!」
「くそう、粗悪なポーションを使っているからか?」
このままでは商業ギルドよりも救えないんじゃないのか?
いや、そんなことはない。
一人だけでも救えれば大丈夫なはずだ。
商業ギルドなんかには誰も救えないだろうしな。
「ポーションはもういい。自力で、医療魔法だけで回復させるんだ!」
「そんな、無茶ですよ!」
「くそ! 血が止まらない!」
「うおおおおお! 治れ!!」
俺たちは苦戦を強いられた。
「ぐわああああああああああ痛いいいいいいいいいいいいいい!!!!」
患者が叫ぶ。
「うるせえ! じっとしてやがれ、余計に傷が開くぞ!」
まったく、困ったものだ。
「おい! こっちにもけが人がいるぞ! はやくなんとかしてくれ!」
「まだなの!? 医者はどこ?」
ああああもう!
どいつもこいつも患者のくせにうるさいな。
黙ってくれないかな?
俺はストレスで手元が狂う。
「あっ……」
それを見ていた患者が一人。
「おい、今のなんだ!? あっ、って……まさか……」
「いや、なんでもないですよ。大丈夫ですから、手術中の患者に近寄らないで!」
どいつもこいつも邪魔をしやがる。
手術は極めて難航した。
◇
「結局、救えたのはこれだけか……」
「まあ十分ですよ。少ない人員と物資で、なんとかやったほうだと思います」
「だな、商業ギルドにはおくれをとることはないだろう」
「ですね! さすがギルド長です!」
「なぁに、お前たちも頑張ったさ」
うちの医術ギルドに運ばれてきた患者は、計250人。
その中でなんとか助けることができたのが15人。
主な死因はポーションが効かなかったこと。
俺のストレスがマッハだったこと。
人員が足りなかったこと、などさまざまだが……。
わりと奮闘した方だと思う、うん、マジで。
だって商業ギルドは0人とかだろうし、これでいいだろう!
わっはっは!
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