第39話 ギルド長は救えない【side:ガイアック】


 俺は昼休憩の最中、考え込んでいた。


 俺はこれからどうすればいいのだろうか。


 だが世間はそれを許してくれないようだ。



 ――ズドーーーーン!!!!



 窓の外から大きな爆音が聴こえる。


 その後しばらくして、人々の叫び声や、逃げ惑う声……。


「ん? なんだか外が騒がしいじゃないか……」


 俺が立ち上がって窓の外を確認すると、遠くで煙が上がっていた。


「何事だ!?」


 ちょうどそれに答えるようにして、昼飯を買いに行っていたキラが帰ってきた。


「ギルド長! 大変です! また例の爆破テロです!」


「なんだと!? 爆破テロだと!? くそ、この俺様が大変だってときに……」


「ギルド長、うちのギルドの状況は関係ありません! 今からここにもけが人が運ばれてきますよ?」


「そんなことはわかっている! だがどうする!? 今のこの医術ギルドに、今の俺たちに……そんなことができるのか!?」


「なにを弱気になっているんですか、ギルド長! あなたらしくもない!」


「ああ、そうだな。とりあえずやるしかない。それで俺の名誉をばん回する! ここで手柄をたてれば、表彰も間違いなしだからな! ガッハッハ! そうなれば、金も儲かり、俺たちはギルドを立て直せる!」


「その意気です!」


 珍しくキラの意見が役に立ったな。


 これはチャンスだ。


 けが人には気の毒だが、俺はラッキーとしか思えなかった。


 せいぜい俺のために利用させてもらうさ……。


「急いでポーションを用意してくれ! 即席でいい。とにかく量を優先しろ!」


「はい!」


 こっちには、勇者パーティに渡すはずだったポーションも残っているからな。


 もとはと言えば、騙されて買わされた粗悪ポーションだが、この際なんでもいい。


 けが人は大量にやってくるのだ。


 質より量!


 しかも臨時とはいえ、父が用意したポーション師も何人かいるしな。


 完ぺきだ!


 俺はついている!





 ――と、思っていたのに……。


 なんだこれは?


 どうなっている?


「ダメだ……、患者が多すぎる……」


 運ばれてきた患者は、俺の想像をはるかに超えていた。


 それは量の面でも、傷の深さという点においてもだ。


「いったいどれほどの爆発が……」


 四肢が欠損した患者。


 火傷を負った患者。


 ガラス破片でキズを作った患者。


 煙を吸い込んだ患者。


「ダメだ、こんなの……無理だ……」


「何を弱気になっているんですか!」


「だってお前も見ただろ!? こんな様々な、バラバラの症状、俺たちだけで対応できるわけがない」


「ギルド長、俺たちだけではありませんよ。ほかのギルドもみんな頑張っています」


「なに!? 患者はこれで全部ではないのか!?」


「ええ、これはほんの一部です。一つのギルドでは対応できないので、みんな手分けして頑張ってるんですよ。私たちも頑張りましょう!」


 だがそんなこと言われたって、無理なものはむりだ。


 一部の症状が軽い患者ならなんとかなるが……。


 これはポーションや魔法医師になんとかできるレベルを超えているぞ?


「医術ギルドが商業ギルドになんかまけていられません!」


「なに!? 商業ギルドだと?」


「ええ、彼らにも患者が割り当てられています。なにせ医術ギルドだけでは対応できませんからね」


「はっはっは、そうか」


 商業ギルドごときに何ができるというのだ。


 とんだお笑い種だな。

 

「これで俺たちは救われたな」


「え? どういうことです?」


「このままだと、俺たちはろくに患者を救えずに、無能の烙印を押されていただろう……。だがどうだ? 商業ギルドも関わっているとなると、あいつらより俺たちのほうがマシだとは思わないか?」


「なるほど! たしかに……、商業ギルドなんかに患者が救えるわけがありませんもんね……。さすがはギルド長!」


「そういうことだ。ポーションなんかで回復できるのなんて、たかがしれてる。これで俺たちは責任を逃れたな。よし、だがまあやれるだけのことはやろう! そのほうがちょっとでも怒られないで済む」


「ですね!」





 だが思ったようにことが進まなかった……。


「ギルド長! 大変です、傷口がふさがりません!」


「くそう、粗悪なポーションを使っているからか?」


 このままでは商業ギルドよりも救えないんじゃないのか?


 いや、そんなことはない。


 一人だけでも救えれば大丈夫なはずだ。


 商業ギルドなんかには誰も救えないだろうしな。


「ポーションはもういい。自力で、医療魔法だけで回復させるんだ!」


「そんな、無茶ですよ!」


「くそ! 血が止まらない!」


「うおおおおお! 治れ!!」


 俺たちは苦戦を強いられた。



「ぐわああああああああああ痛いいいいいいいいいいいいいい!!!!」



 患者が叫ぶ。


「うるせえ! じっとしてやがれ、余計に傷が開くぞ!」


 まったく、困ったものだ。


「おい! こっちにもけが人がいるぞ! はやくなんとかしてくれ!」


「まだなの!? 医者はどこ?」


 ああああもう!


 どいつもこいつも患者のくせにうるさいな。


 黙ってくれないかな?


 俺はストレスで手元が狂う。


「あっ……」


 それを見ていた患者が一人。


「おい、今のなんだ!? あっ、って……まさか……」


「いや、なんでもないですよ。大丈夫ですから、手術中の患者に近寄らないで!」


 どいつもこいつも邪魔をしやがる。


 手術は極めて難航した。





「結局、救えたのはこれだけか……」


「まあ十分ですよ。少ない人員と物資で、なんとかやったほうだと思います」


「だな、商業ギルドにはおくれをとることはないだろう」


「ですね! さすがギルド長です!」


「なぁに、お前たちも頑張ったさ」


 うちの医術ギルドに運ばれてきた患者は、計250人。


 その中でなんとか助けることができたのが15人。


 主な死因はポーションが効かなかったこと。


 俺のストレスがマッハだったこと。


 人員が足りなかったこと、などさまざまだが……。


 わりと奮闘した方だと思う、うん、マジで。


 だって商業ギルドは0人とかだろうし、これでいいだろう!


 わっはっは!

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