第38話 初めての戦闘


 ギルドの出口まで勇者さん――ユーリシアさんを送っていく。


 なんだか外が騒がしい。


「敵国のスパイだ! 逃げたぞ!」


 そんな声がどこからか聞こえてきた。


 衛兵の人だろうか?


「なに!? スパイだと!? 任せろ!」


 言うやいなや、ユーリシアさんはギルドの外へと飛び出した。


 きっと勇者としての正義感がそうさせるのだろう。


 なにかあればすぐに駆けつけるのが勇者としての使命だ、とばかりに。


「ちょ、ちょっと勇者さん! 状況がわからないのに危険ですよ!」


「そうよ! 置いてかないで!」


 僕と勇者パーティのメンバーも、慌てて後を追いかける。


 ギルドを一歩出ると、外は大騒ぎになっていた。


 大通りの向こうからは煙が上がっている。


 話し込んでる間に、なにかあったらしい。


 そういえば、スパイというのは?


「うおおおおおおお! どけどけどけどけ! 殺すぞ!」


 そう叫びながら、黒ずくめの男が、大通りをこちらへ向けて走ってくる。


 あれがスパイ……。


 刃物を振り回しながら逃げているので、人混みが海のように割れていく。


 その後を衛兵が追っている形だね。


「そういえば勇者さんは?」


 あたりを見渡す。


 ちょうど、黒ずくめの男の軌道上に、ユーリシアさんが立ちふさがっているじゃないか!


「まさか……止める気じゃ!?」


「どうやらそのまさかのようね……」


「リシェルさん、あなた仲間でしょう? 助けに行かないでいいんですか?」


「大丈夫よ、ポーション師さん。ユーリシアを誰だと思っているの? 彼女は勇者なのよ? あんな黒ずくめの犯罪者一人、簡単に……って……」


 なんとユーリシアさんの姿をみて、黒ずくめの男は逃げる方向を変えたのだ。


 それはそうだ。


 何と言ったって、ユーリシアさんの見た目は明らかに強そうだ。


 あんな鎧の人に向かって行くほうがどうかしている。


「ちょっと、こっちに向かってきてない!?」


「え!? ほんとだ!」


 なんと黒ずくめの男は僕と魔導士リシェルさんのいる方向へ向かってくるじゃないか!


 たしかに大通りは勇者さんと衛兵さんたちで挟み撃ちになってるけど……。


 だからと言ってこっちに向かってくるなんて!


 まあこのギルドがここらへんで一番目立つからなぁ……。


「り、リシェルさん! なにか魔法を撃って!」


「そ、そうね!」



 ――火炎小球ファイアボール!!



 リシェルさんから放たれた火炎が、黒ずくめの男へ直進する!



 しかし――。



 ――スカッ。



「あれ?」


「えええええええ!!??」


「いやぁ私、命中率悪いのよ……」


「そんな……」


 勇者パーティの魔導士だというのに、なんでなのかな……。


 でもそれどころじゃない。


 黒ずくめの男はナイフを振り回し、こっちへ向かってきている。


 このままじゃ……。


「ポーション師さん、あなた、なんとかならないの!?」


「そんなこと言われても……」


 僕に出来ることなんて……。


 そうだ!


 一か八かだけど、やってみるしかない。



 ――万能鑑定オールアプリ―ザル!!



 僕は万能鑑定オールアプリ―ザルをリシェルさんに向けて放った。


「なにを!?」


「失礼しますね」


 万能鑑定オールアプリ―ザルは文字通り、万能・・なのだ。


 きっとスキルの詳細なデータも確認できるはず!


 あった!


 えーっと……。



 ●火炎小球ファイアボール


  消費MP5

  手に力を込めて炎のイメージをする



「見よう見まねでやってみるしかない!」


 僕は黒ずくめの男に向けて叫んだ!



 ――火炎小球ファイアボール!!!!



 ――ボウ!


 するとなんと、僕の手から火炎が発射された。


「成功だ!」


「すごい!」


 まさかとは思ったけど、本当に真似できてしまうなんて!


 万能鑑定は思ったよりも応用できそうだ……。


「ぐわあああああああああああ!!!!」


 発射された火炎は見事に男に命中した。


 男はその場にうずくまる。


 その後ろから、衛兵さんとユーリシアさんが駆け付けた。


 ユーリシアさんは心配そうに僕の元へやってきてくれる。


「大丈夫だったか!?」


「なんとか……」


「それにしてもすごいな、ヒナタくんは。攻撃魔法まで使えるポーション師なんて……」


「いや、リシェルさんのを見よう見まねで使っただけですよ……」


「え!? じゃあ今のが初めての攻撃魔法だったのかい?」


「まあそうですけど……。鑑定スキルのおかげですよ……」


 ユーリシアさんは驚いているようだ。


 リシェルさんも一緒になって驚いている。


「ひ、ヒナタくん……。どうかな? ぼくたちのパーティーでいっしょに冒険してみるってのは?」


「え!? 僕が勇者さんとですか!? む、むむっむムリですよぅ!」


「そんなことないと思うけどなぁ。それに我々としても、いちいちポーションを買いに来なくて済むし助かる」


「で、でも僕はギルドの仕事がありますし……。妹のためにいろいろ研究もしないといけないんです。その……妹は病気で」


「そうか、残念だ。いっしょに冒険すれば、妹さんの病気の手がかりも見つかるかもしれないけど……」


「あ、たしかに……」


 勇者さんといれば、レアな素材とかも手に入るだろうし……。


 たしかに魅力的なお誘いだね。


「まあ考えておいてくれよ」


「ええ、そうします……」


 そうこうしているうちに、衛兵さんたちが黒ずくめの男の身体に付いた火を消し終えた。


「では、この男は我々が引き受けます」


「ええ、お願いします」


 黒ずくめの男は衛兵さんたちに連れられて行った。


 スパイだと言われていたし、これから拷問とかされるのだろうか?


 これにて一件落着かと思われたが……。


「そういえば、さっきの煙はなんだったのだろう……」


「あの男がなにかやったのでしょう」


 僕たちの疑問に回答するかのように、人混みから一人の男が現れた。


 ギルドの情報伝達係の人だ。


「おい、大変だ!」


「なにかあったんですか!?」


「爆発テロだ! これから怪我人が大量に運ばれてくる」


「そんな!」


 爆発テロ……。


 そういえば前にもそんなことがあったなぁ……。


 最近隣国との関係が不安定だというし……。


 さっきのスパイの仕業か。


 これはいよいよ大きな戦争になりそうだ。


「医術ギルドだけじゃ手に負えないから、うちにも運ばれてくるそうだ!」


「いますぐ準備します!」


 大変だ!


 僕は慌てて、ギルドの中に踵を返す。


「それではユーリシアさん、僕はこれで!」


「あ、ああ! 頑張って! ぼくたちもなにか手伝えることがあるかもしれないから、現場に行ってみるよ」


 ユーリシアさんたちははそう言って煙の方へ向かって行った。


 勇敢な人だ。


 たしかにまだ逃げ遅れた人とかがいるかもしれない。


 勇者さんたちなら力になれるだろう……。


 僕はギルドでやることがある!


 まずはライラさんに知らせないと!


 そして倉庫でポーションの準備だ!


 僕たちはあくまでポーション師。


 医術ギルドの魔法医師にはかなわないけれど、なんとかやれることはやろう!


 一人でも多くの人を救うんだ!

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