第37話 勇者パーティの来訪

 

 僕が朝、出勤してきてギルドに入ろうとしたところ。


「やあ、ちょっと君。ここのギルドの人かい?」


「はい、そうですけど……」


 後ろから声をかけられ、振り返ると――そこにはキレイな女性がいた。


 白い鎧に身をまとった、白髪の美しい女性。


 後ろにはパーティーメンバーらしき面々を引き連れている。


世界樹ユグドラシルというギルドのポーションが評判だときいてきたんだが……ここで合っているかな?」


「はい! ぜひうちのポーションを!」


 店舗じゃなく、うちのギルドに直接買いに来るなんて珍しい。


 なにか重要な案件なのかな?


 普通の冒険者にしては豪華な鎧だし、貴族の方かな?


「ぼくはユーリシア・クラインツ。勇者なんだ」


 へえ、女の人なのに一人称が「ぼく」なのかぁ……。


 ボーイッシュな雰囲気の方だから、不思議と違和感はない。


「……って、ええ!? ゆゆゆ、勇者!?」


「あはは、驚かせてしまったかな?」


「そりゃあ驚きますよ! まさか生きてる間にお目にかかれるなんて……」


「ははは、きみは大げさだなぁ」


 だが勇者さんがなんの用なんだろう?


 勇者さんってたしか専属のギルドからしかポーションを買わないんじゃなかったっけ?


 その主な理由としては――たしか、暗殺防止とかだった気がする。


 そのため専属のギルド内でも、一部の人間にしか知らされていないとか……。


「きみは、ここの掃除夫かなにかかい?」


「いえ、ここでポーションを作っています」


「え!? ポーションを!?」


「ええ、まあ一応ポーション部を任されてはいます」


「その若さでか!? すごいんだなぁ!」


「はは、ありがとうございます」


「でもちょうどよかった」


「?」


 なにがちょうどいい・・・・・・なんだ?



「ぼくの専属ポーション師になってくれるかな?」



 ……。



 って、ええええええええええええええええええええ!!!!!????



 僕は目を丸くしてその場に静止した。





 場所はいつもの応接室へ。


「何度も驚かせてすまないね。大丈夫だったかい?」


「ええ、もう慣れます。今後何をきいても驚きません……」


 いちいち驚いていては身が持たない。


 勇者と関わるということはこういうことか……。


「でも、どういうことなんですか? 勇者さんにはもともと契約しているギルドがあるのでは?」


「それが、契約していたギルドに裏切られたんだ。ひどい失態だよ……。前のギルド長はすごい人だったんだがな……」


 それって、もしかして……。


 心当たりがないわけではない。


「まあとにかく、前のギルドとは縁を切った。今度は世界樹ユグドラシルにお願いしたい」


「そういうことでしたら、こちらとしても嬉しい限りです」


「試しに、きみの作ったポーションを見せてもらえるかな?」


「ええ、ぜひ」


 僕は机の上に3種類のポーションを並べる。



 ひとつは普通の上級回復ポーション。


 もうひとつは万能オールポーション。


 最後にお馴染み、世界樹ユグドラシルの果実だ。


「これは、かなり質がいいね」


「ありがとうございます」


 一目見ただけで質がわかるなんて、さすが勇者さんだなぁ。


 契約の内容は問題なくまとまり、勇者さんはささっとサインを済ませた。


「やりましたね、ライラさん! これは大きな契約ですよ!」


「……」


 さっきから隣に座っているというのに、ライラさんは一向に口を開かない。


 こんなにめでたいときなのに……。


 なにか考え事でもしているのかな?


 それにしては不機嫌そうな顔だけど……。


「ライラさん、どうしてさっきからそんなに無口なんですか?」


「いえ、勇者さんとお話しするヒナタくんが、やけに楽しそうだなぁ……と。口元がにやけてましたよ?」


 え!?


 そんなの自分では気がつかなかったなぁ……。


 だとしてもそれでなんでライラさんが無口になるのかはわからないけれど。


「すみません……つい、勇者さんに会えたのが嬉しくって。それに、勇者さんがこんなに可愛らしい人だとは思ってなかったので……」


 僕は自分の感情を素直に口にする。



「「!?」」



 なぜかさっきの発言で凍り付く人物が二人。


 ライラさんは相変わらず不機嫌そうだし、さらに眉間のしわが深くなる。


 勇者さん――ユーリシアさんはというと……。


 なぜだか顔を赤くしてわなわなと震えていらっしゃる。


「わわわわわ、私が可愛いだと!?」


「え、はい。そう思いますけど……」


 なにか言ってはいけないことだったのかな?


「そ、そんなこと言われたのは初めてだ……」


「え!? そうなんですか!? ユーリシアさんほどの人なら何度も言われ慣れてそうなものなのに……」


 勇者という特別な立場もあって、みんなあまり思ったことを口に出せないのだろうか?


「ヒナタくん、その辺にしておいてあげて……」


 そう言ったのは、勇者パーティの魔導士リシェルさん。


 帽子をかぶった赤毛の女の子だ。


 やれやれと言う感じで軽く嘆息している。


「え?」


「ユーリシアは男性に免疫がないのよ……。ずっと戦ってばかりの毎日だったからね……」


「そうなんですか……」


「まして、勇者に可愛いなんて言ったのは、あなたが初めてよ?」


 それはなんだか……。


 申し訳ないことをした。


「もう、ヒナタくんはすぐに女の子につばつけるんですから!」


「すみません、ライラさん。そんなつもりじゃ……」


「はぁ、またライバルが増えました……」


「え?」


 僕はライラさんが小声でなにか言ったのを、聞き逃さなかった。


 ライバル?


 なんのことだろう?


 ライラさんとユーリシアさんが軽く目くばせをしていたけど……。


 僕にはさっぱりわからない。


 なにか女性の間だけにあるテレパシーのようなもの、なのだろうか?


「それじゃあ、勇者さんたちを出口まで送ってさしあげてください」


「え、ライラさんはついてこないんですか?」


「いいんです。私はいつでもヒナタくんとお話できますから。アドバンテージです」


「? はぁ、……」


 まったくなんのことかわからない……。


 またライラさんとユーリシアさんの間でアイコンタクト……。


 どういうことなのだろう?


「そ、それじゃあユーリシアさん。出口までご案内しますね」


「そ、そうだな。お願いするよ、ひ、ヒナタくん……」


 だからなんでそこで赤面するの!?


 勇者さん!

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