第34話 ギルド長は父親に怒られる【side:ガイアック】


「くそう……もう終わりだ……」


 俺は机に突っ伏していつものようにうなだれる。


 だが今度こそは本当にピンチだ。


 結局、優秀なポーション師とはヒナタのことだったし……。


 そのヒナタももう戻ってこない。


 さらに、あの日以来ヘルダーも出勤してこないのだ。


 俺に黙って辞めるとはいい度胸だが、許せん。


「ギルド長、お気を確かに」


 レナが慰めてくれるも、気分は沈みゆくばかりだ。


「これでどうやって正気を保っていられる!?」


 医術ギルドはすっかり荒れ果てていた。


 そこらじゅうにゴミが散乱している。


 ポーション師がいなくなったのだ。


 ポーションを作ることはできなくなった。


 市販のポーションを買うにも限界が近い。


 買いためてあった分も残り少ない。


 もう数日、患者の診療をストップしている。


 このまま続けていては、赤字がかさむばかり……。


「これも全部ヒナタのせいだ……」


「ギルド長……」


 俺とレナ以外の者は今日は休みだ。


 診療がストップしている以上、ここにいても意味ないからな。


 俺たちがそうして憂鬱に浸っていると……。


 突然ギルドの扉が開いて、事務所に誰か入ってきた。


「ガイアックはいるか……?」


「げ、この声は……」


 現れたのは俺によく似た顔立ちの初老の男性。


 そう、俺の親父でありこのギルドの前ギルド長――ガイディーン・シルバだ。


「お父様……」


「久しぶりだな……」


「何の用ですか? もう引退されたはずでは?」


「お前が上手くやれているのか心配になってな……」


 俺がこのギルドを正式に譲り受けてから、数週間。


 そろそろ様子を見に来たというわけか。


「で、なんだ? このありさまは……」


「う、それは……」


 だが現状はこの通り。


 俺は上手くギルドを回せていない。


 こんなところを見られてしまっては、いい訳もできないな……。


 俺もとうとう終わりか。


「なんでこんなことに?」


「それが、ポーションを上手く用意することができなくて……。完全に失敗しました……」


「ポーション? ヒナタくんはどうしたんだ? 彼がいればそんなことにはならないはずだが?」


「クビにしました」


「なんだって!? せっかく私がお前のために優秀な彼をそばに置いたのに……」


「あいつが優秀……?」


 どういうことだ?


 たしかに親父はやたらとあいつを気に入ってたが……。


 それはあいつが上手く媚びを売ったからじゃないのか?


「今からでも遅くない。謝って、連れ戻してこい」


「それはできません……!」


「どうしてだ……?」


「そもそも俺はお父様がアイツを気に掛けるのが嫌だったんだ! あんな出来損ないを評価するなんて! この俺という息子がいながら!」


 ――パシ!


 頬が痛い。


 何が起こった?


 俺は叩かれたのか?


 親父に?


「いいかげんにしなさい! お前がそんなんだからヒナタくんを補佐に付けたんだ。それもわからないほどの愚か者だとは……。我が息子ながら残念だ……」


「お父様……?」


 今までぶたれたことなんかないのに……!


 ヒナタをクビにしたせいで?


 それで俺が殴られなきゃいけないのか?


 狂っている。


 こんな世界は間違っている!


「間違っている……」


「うるさい! 間違っているのはお前の頭だ」


 たしかに……。


 親父の言うことも一理あるのかもしれない。


 実際、俺はこうやって失敗したわけだしな……。


 だけど今更どうしろと?


 ヒナタにはもう再勧誘をかけたが、断られたし。


 謝ったところで帰ってはこないだろう。


「……」


 俺は黙ってその場にしゃがみ込むしかなかった。


「しょうがない、私が行こう」


「え? お父様が?」


「ああ、私が代わりにヒナタくんに頭を下げる」


「そんな……」


「いいんだ。愚かな息子の尻をぬぐうのも、親の務めだ」


「お父様……」





 こうしてガイアック親子はヒナタへの謝罪を決めた。


 だがはたしてそれをヒナタが受け入れるかどうか――。


 それはまた別の問題だ。

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