第32話 商人の裏の顔
「ヒナタくん、今日午後から商人さんと商談があるので、同席してくれますか?」
朝ギルドにて、ライラさんからそんなことを言われた。
僕が商談に同席?
まあ確かに以前からもそういったことはあったけど……。
「いいですけど、どうして?」
「以前もヒナタくんがいてくれたおかげで助かりましたからね……」
「あれはたまたまですよ」
「いえ、ヒナタくんには確かな商才があると確信しています。それに居てくれるだけで私も安心できます」
そんな風にいってもらえると、僕としても嬉しい。
僕もライラさんの力になれて嬉しいな。
「まあ僕に商才があるかはわかりませんが……。僕で良ければいくらでもご一緒しますよ」
「ありがとうございます」
◇
「私は商人のグスクスです。よろしくお願いします」
今日の商人さんは、また新しい人だね。
正直、いろんな商人さんがいすぎて、名前と顔が覚えられないよ……。
「では、さっそく商談に取り掛かりましょうか……」
それほど複雑な取引じゃなかったから、商談はスムーズに進行した。
「では、そういうことで……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そんな感じであっという間に話がまとまった。
「ヒナタくんのおかげで、スムーズに取引ができました」
「いえ、僕は何も……」
ライラさんと話していると、商人さんが口を挟んできた。
「おや? お二人はお付き合いされているのですか?」
「「へ? おおおおお、お付き合い? そそそそんなことはありません!」」
僕もライラさんも、同時に顔を見合わせて、赤面する。
「おや、そうでしたか……。いや、仲がよさそうでしたので……」
「そ、そうですか……」
まったく、商人さんも余計なことを言う……。
そしてそれをごまかすように――。
「で、ではヒナタくん。グスクスさんを出口までお見送りしてあげてください」
「は、はい! そうですね……。では、こちらへ」
僕はライラさんから逃げるように、商人さんを連れて部屋を出る。
そしてそのまま外へ。
商人さんの馬車はギルドの前に止めてあって、たくさんの荷物が詰め込まれている。
そしてその中には――。
奴隷紋を刻まれた女の子の姿――。
「グスクスさん……、これは?」
「なに、獣人の奴隷ですよ……。もしかしてお気に召しましたか? でしたらお譲りしますよ? でもいいんですか? あんなにキレイなギルド長がいるのに」
グスクスさんはまだ笑いながら、そんなことを言う。
だが僕の心の中は穏やかではなかった。
奴隷の子は確かにたくさんいる。
ありふれている。
でも……。
この子は――。
「彼女、病気じゃないですか……。治療をうけさせないと」
「ああ、いいんですよコイツは。所詮は奴隷なんで」
なんだって!?
僕は耳を疑った。
真面目な商人さんだと思っていたのに。
人って言うのはわからないものだな。
「ダメですよ! かわいそうじゃないですか!」
「は? 何を言ってるんだアンタは? いいですか? 奴隷にそんなお金はかけられませんよ! まあ別にこんな獣人、死んでもどうってことないですから」
あ、この人最低な人だ……。
たしかに奴隷は大事に扱われることのほうが少ないけど……。
僕はこんなかわいい女の子を放っておけない。
「それに、もうこれは助かりませんぜ? せいぜい死ぬまで荷物運びでもさせて元をとるとしますよ。こんな病気のやつは性奴隷にもできませんしね」
なんてヤツだ……。
黙っていれば次々と暴言が出てくる……。
僕は許せなかった。
もう助からないからって見捨てるなんて。
命をそこであきらめてしまうなんて、僕は絶対に認められない!
脳裏にヒナギクのことがちらつく。
絶対に治らない病気なんてないんだ……。
僕はそれを証明してみせたい!
僕は意を決して、口を開いた。
「お言葉ですが、商品の状態も管理できないような人とは今後、取引できませんねぇ……」
「は? なんだと? もっぺんいってみろ」
「ですから、奴隷だとしても……、それを大事に扱うことが商人としての責任では?」
「べつにこいつが死んでもかわりの商品はいくらでもあるんだ! 腐りかけの薬草(F)をいつまでも大事に取っておく馬鹿がどこにいる?」
この人は、商人としても腐ってる……!
もちろん人としても間違っている。
僕は腐りかけの薬草だとしても、扱い方ひとつで有効活用できることを知っている。
今までだってそうしてきた。
そして僕だって、一度は前の職場で無能とみなされたけれど……。
今ではこうして幸せに暮らせている。
一度だめだって思っても、人はまた変われるんだ!
絶対にダメな人なんていない。
あきらめてしまったら、見捨ててしまったら、そこで終わってしまうんだ!
「もういいですか? もめごとはごめんなんで。帰らせていただきますよ……」
「ええ、お引き取り願います。もうあなたとは取引できません」
「ふん、クソギルドめ。偽善者は大変だな……?」
「でもその前に……、お忘れ物ですよ?」
僕はグスクスさんに大金の入った袋を差し出す。
「こ、これは……なんという大金!」
「そちらの奴隷をもらっても?」
僕は先ほどの獣人の少女を指さす。
「ふん、かまわん、どうせ利益にもならんようなゴミだ。それがこんな大金に化けるなら、問題はないですよ……」
「では……」
グスクスさんは少女をその場に置いて、馬車で駆けて行った。
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