第31話 強引な勧誘、だがもう遅い!【side:ガイアック】
「ギルド長、ただいま戻りました」
しばらくして、ポーション師の勧誘に行ったヘルダーが帰ってきた。
ヘルダーには
「おう、はやかったな。それで?」
「それが……見事に断られました……」
「なんだと!? 無能だな。金は積んだんだろうな?」
「それが……どうも金では動かないタイプのようで……」
しらじらしい。
金が欲しくないヤツなどいないだろうに。
どうせコイツの勧誘方法が下手だっただけだろう。
「ようし、それなら俺が直接勧誘に行こうじゃないか。ギルドの長が直々に会いにいくのだからさすがに断ったりはしないだろう。それに俺もそんな優秀なポーション師の顔を見ておきたいからな」
「そうですか。案内します」
俺はヘルダーに連れられるまま、商業ギルド――
◇
「ここが
見るからにしょぼくれたギルドだな。
建物自体は新しめのキレイな感じだが、なにせオーラというものがない。
ま、所詮は商業ギルドだからな。
「こんなところで働いているヤツだ。簡単に引き抜けるだろうな。だって俺のギルドのほうがいいに決まっている」
「そうだといいですが……」
俺たちはとりあえずギルドの受付に話を通す。
「おい、ここのポーション師に会いたい。
「はい、それでしたらこちらへ……」
俺たちは応接室のようなところへ案内される。
みすぼらしいギルドにしてはまともな対応だ。
「遅いな……」
「まだ一分も経ってませんよ……」
「黙れ」
しばらく待たされる。
すると急に扉が開き、一人の青年が顔を出した。
「お待たせしました……。このギルドのポーション師です」
さて……、どんな顔の奴なのかな……?
――現れたのは、俺もよく知った顔の人物。
ヒナタ・ラリアークだった。
「な……!? なぜお前がここに!?」
「ガイアックギルド長こそ……!」
「俺は
「はぁ……」
ヒナタは小さく嘆息する。
相変わらずのいけ好かないヤツだ。
「ですから、僕がそのポーション師ですが……」
「は? そんなはずはないだろう? お前のようなクズポーション師が、こんなにいい商品を作れるはずがない!」
「本当ですよ。嘘だと思うなら他の人にも訊いてみてくださいよ……」
「なんだと!? 本当にお前がコレを……?」
俺はもうなにがなんだかわからなかった。
あんなに無能だったヒナタが、こんなにいいポーションを作るなんて信じられない。
俺の元では実力を隠していやがったのか……?
それがこのギルドに移籍したとたんに、こんな成果を……?
それじゃあまるで俺が馬鹿みたいじゃないか……!
許せない!
認める訳にはいかない!
「ま、まあいい……。お前がこのポーションを作ったのなら、それでもいい。なんだってかまわないさ」
「はぁ……? それで、僕に今更何の用なんですか?」
「そうだ。お前、もう一度俺の医術ギルドに戻ってこないか? どうせこんなちっぽけな商業ギルドじゃあロクな仕事がないだろう。お前がどうしてもというならもう一度雇ってやってもいいぞ?」
「は?」
どうだ、これぞ完ぺきな勧誘だ。
俺は寛大だからな。
大きな心で過去の過ちをも許せるのだ。
「そんなの嫌ですよ。戻るわけないじゃないですか……。僕にしたことを忘れたんですか?」
「は? 俺はお前に良くしてやっただろう? 何で嫌なんだ? 俺の元で働けるのは光栄だろう?」
「そんなわけないじゃないか! まったく、救いようのない人だ……」
「は?」
どうやら俺は完全に舐められているらしい。
キレちまったよ……。
俺はヒナタに殴りかかろうとする。
「ギルド長! 抑えてください!」
「やめろ! 放せ!」
ヘルダーが俺を羽交い絞めにする。
何だコイツ?
俺は怒りで頭がどうにかなりそうだった。
◇
【side:ヒナタ】
突然ガイアック医院長が尋ねてきたから何事かとおもったけど……。
まさか今更僕を連れ戻しに来たなんて……。
「放せよ!」
僕の目の前では、ガイアック医院長が部下の人に羽交い絞めにされている。
まったく、こんなところで暴れられてはいい迷惑だ。
自分の怒りや感情を抑えられない人って、ほんとうに人として未熟で嫌になるね。
こんな大人にだけはならないでおこう……。
「ガイアックさん、これ以上なにか問題を起こすようでしたら、お引き取り願います」
僕はあくまでも相手を刺激しないよう、丁寧に告げる。
「うるさい! 俺のところに戻ってこい!」
「うるさいのはあなただ。僕はこのギルドで幸せに働いているんです。今更そんなことを言ってももう遅いですよ!」
僕は扉を開け、ギルドのセキュリティに声をかける。
こういうときのために、応接室の前には屈強なガードマンが待機しているのだ。
「お客さんがご乱心です。おかえりのようなので、外までご案内してください」
僕がそう言うと、ガードマンの男性はガイアック医院長を取り囲んだ。
「なんの真似だ!? 俺はお客だぞ? 医術ギルドの長だぞ?」
「礼儀のなっていない客人に用はありませんよ」
ガイアック医院長はそう一蹴され、ガードマンに連れられて行った。
あとに残ったのは、僕とガイアック医院長が連れてきた部下の男性。
「どうも、うちのガイアックギルド長がご迷惑をおかけしまして。すみません……」
「いいえ、あの人にはホント、困りますものね……。僕もよくわかりますよ」
部下の男性が頭を下げてきた。
まあ、彼も苦労しているんだろうな……。
以前の僕みたいに。
「申し遅れました。自分はガイアック医院長のギルドでお世話になっている、ポーション師のヘルダー・トランシュナイザーと申します」
「あ、僕は
「ギルド長とはどういったご関係で? どうやら訳ありのようですが……」
「いや、以前僕は彼の元で働いていたんですよ……」
「え!? あなたが前任者の方ですか!? でしたらあの疲労回復効果のあるお茶もあなたが!?」
「ええまあ……」
「いやあ本当にすごいです。それに、
「それはどうも」
そんなに褒められると照れるな。
しかも同じポーション師の人に……。
見るからにこの人は貴族だろうし、大学も出ているだろうね。
そんな人からも認めてもらえるなんて。
「余計なお世話かもしれせんが、あなたもあんな医術ギルドははやく辞めたほうがいいですよ? あそこにいて得るものは何もありません」
「ええ、それはもう、さっきのガイアック医院長の行動を見ていてはっきりと感じました。もともと酷い扱いにはうんざりしていたので、明日にでも辞めるつもりです」
「それはよかったです。どうです? あなたもうちで働きませんか? 僕からライラさんに――あ、ここのギルド長に、話をつけておきますよ」
「え!? いいんですか!?」
「ちょうど、ポーション師は僕を含めても二人しかいませんのでね」
「いやぁ、ヒナタさんのような優秀なポーション師の元で働けるなんて! ぜひお願いしますよ!」
ヘルダーさん。
彼とは同じ思いを経験したどうし、上手くやっていける気がするなぁ。
とにかくもう、ガイアック医院長とは関わりたくないなぁ……。
◆
自分の身勝手な理由で行動したガイアックは、新しいポーション師を得るどころか、ヘルダーの信頼までも失ってしまった……。
一方でヒナタは、ヘルダーという可哀そうなガイアック被害者を、救済することでさらなる感謝をされるのであった。
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