第28話 ギルド長は商人に騙される【side:ガイアック】
「だ、ダメだ……。やっぱりこのままではダメなのか?」
俺は机に突っ伏しうなだれる。
新しいポーション師を雇ったはいいが無能だし……。
このままじゃ赤字がかさむばかりだ。
俺は間違っていたのか?
いや、そんなはずはない。
「そうだ! ポーション師をもっと雇おう!」
「でも医院長、それだと元も子もないのでは……?」
「うるさい! 他にどうしろと言うのだ!」
――ドガ!
俺はレナを壁に突き飛ばす。
まったく、ストレス発散にしか使えないゴミめ。
「とりあえず、ポーション部の人員を補充するまでの間、さらに市販のポーションを買うぞ。それでなんとか場を繋ぐんだ」
「結局お金がかかってしまっている気が……」
「は? まだ口答えすんの?」
「いえ、すみません……」
そもそもはあのヒナタが満足いく働きをしていれば問題はなかったのだ。
アイツが無能だったから俺も魔が差した。
その結果がコレだ。
結局、なにをするにも金がいる。
だが幸い、このギルドにはまだまだ金があるからな。
前任者である父のころからの貯金がたんまりと残っている。
俺がよほどのへまをしない限りは、潰れることはないだろう。
「そういえば、酒場で聞いた話だが、最近話題のブランドものポーションがあるそうなんだ。なんでもものすごく安いらしい」
「さすがギルド長は耳が早いですね。さっそくその商人を呼びましょう」
俺の提案に、キラが相づちを打つ。
「そうだろうそうだろう、はっはっは。では、取り次ぎ、頼んだぞ」
「はい!」
こうして、俺は急場しのぎでポーションを取りそろえることにした。
まったく、無能のしりぬぐいは疲れるよ……トホホ……。
◇
「わたくし、商人のデルアダと申します」
「俺はギルド長のガイアック・シルバだ。まあ座れ」
キラが連れてきた噂の商人は、デルアダという髭面の男で……。
まあとにかく不気味な雰囲気の奇妙な人物だった。
なんだかニヤついた顔の、気色悪いヤツだ……。
まったく、こんなやつでも商売ができるんだから、商人ってのは楽な仕事だよ。
まあ魔法医術師に比べればどんな職業でも糞みたいなものだがな。
「で、噂のポーションというのは本当にあるんだろうな?」
「はい、もちろんです!」
「さっそく見せてもらおうか」
「はい、なんとこちら! 下級回復ポーション並みのお値段で、上級回復ポーション並みの回復力を備えた、特製のポーションなのです!」
「ほう……」
こいつは今までの商人と違って、話の分かるヤツのようだ。
話が手っ取り早くていい。
「おい、一応確認してくれ……」
俺はポーション師のヘルダーを呼びつける。
「これは信頼できるポーションか?」
「え? そんなのわかりませんよ!」
は?
ヘルダーはポーションを見るなりそんなことを言う。
どういうことだ?
「お前ポーション師のくせに、ポーションの良し悪しもわからないのか!?」
「市販のものならわかりますが……こういった特注品の類は、自分はちょっと……」
「おいおい、無能かよ」
「す、すみません……」
まったく、なんのためのポーション師なんだか。
呆れるぜ。
だが、俺の心配する様子をみて、商人が口を開いた。
「ギルド長さん、そう心配なさらなくても、これは信頼できる商品ですよ? うちが保証します!」
「お、そうか?」
「はい! まさかあの有名なガイアック医院長を騙そうなんて、考えてもいませんよ!」
「そうか、疑って悪かったな! ガッハッハ」
まあ補償すると言ってくれてるし、大丈夫だろう。
「よし! 買おう!」
「まいどあり!」
こうして俺は、商人のデルアダから大量のポーションを買いつけた。
◇
「……で、どうしてこうなった?」
受け取ったポーションを、後日使ってみたところ――。
「これじゃあ下級回復ポーションに毛が生えた程度じゃないか!」
ポーションの効果はお世辞にも高いとは言えないものだった。
聞いてた話と違うじゃないか!
俺は騙されたのか!?
「どうやら、一杯食わされたようですね……」
「うるさい! そんなことはわかっている!」
「どうしますか? デルアダを探し出しますか?」
「当たり前だろ! こんなもの返品だ!」
数時間待って――。
「ギルド長、デルアダの事務所に行ったのですが……」
「?」
「すでにもぬけの殻でした……」
「なんだと!?」
俺は頭が沸騰して、はらわたが煮えくり返りそうだった。
脳の中がぐつぐつぐつぐつ。
血管が千切れる!
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ギルド長!? お気を確かに!」
「くそくそくそ! 許せない!」
「言葉もないです……」
赤字はかさむばかり……。
いったいこれから俺はどうすればいいんだ!?
せっかく俺のバラ色の人生が始まったと思ったのに!
◆
【side:デルアダ】
「っくっくっく……」
俺は大金を握りしめ、いい気分だった。
「
そう、俺は悪質商品を騙して売る、悪徳商人。
騙されるほうが悪いのだ!
「それにしても、ガイアックとかいうあの男。部下のせいにしていたが、本当に無能だな……」
◆
悪徳商人の罠を、スキルを駆使し華麗にくぐり抜けたヒナタだったが――。
一方のガイアックはというと、愚かにもまんまと騙されてしまったのだった。
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