第27話 嘘つき商人を懲らしめろ!


 ――万能鑑定オールアプリ―ザル


 僕は新たなスキルをふんだんに活用する。


 素材マテリアル鑑定アプリ―ザル万能鑑定オールアプリ―ザルに進化したことによって、格段に使い勝手が増した。


 まず、人に対しても使えるし、素材以外の物に対しても使える。


 既製品のポーションの成分を確認したりすることもできるなんて!


「ふむ、この薬草はダメだな……」



 ●薬草(B)


  採取から2週間が経過。

  完全に劣化するまで8日。



 こんなふうに素材の状態についても、詳しくみることができる。


 ますます研究がはかどりそうだ!


「うーん、それはどうでしょうか……」


 突然、ライラさんの声が聞こえてきた。


 といっても、ここにライラさんはいないし……。


 隣の部屋かな?


 僕は作業を中断して、ライラさんの声の方へ行く。


 また応接室で話し込んでいるみたいだね。


 だけどどうも妙だな。


「ですから、その値段ではちょっと……」


「まあまあ、そう言わずに」


 揉めているみたいだね。


 ちょっと加勢してみようか。


「どうしたんですか?」


「あ、ヒナタくん! ちょうどいいところに。今呼びに行こうと思ってたところなんですよ。こちら、商人のデルアダさんです」


「どうも。ポーション師のヒナタです」


「おお、あなたがポーション師の方ですか。でしたらこちらの商品の価値がおわかりになるはず」


 なになに?


 商人さんに促され、僕は机に置かれた商品を見る。


「たしかにこれは……」


「なんと、こちらのポーションが今なら5000Gです!」


「はぁ……まあ、お買い得ですね。とっても」


「そうでしょう、そうでしょう」


 僕の目から見ても、たしかにお買い得の商品だ。


 だとしたらなんで、ライラさんはさっき揉めていたのだろう。


「ライラさん、なにか問題でも?」


「いえ、特に問題があるわけではないのですが……」


 ライラさんは僕に困った顔を向ける。


 まあたしかに商人さんの目の前で理由をいうわけにもいかないだろうね。


 僕なりに推測してみよう。


 僕にもひっかかるところはある。


 たしかに、このポーションはお買い得だ。


 それも、ありえないくらい・・・・・・・・に。


 もしもガイアック医院長のような短絡的な人間なら、すぐに飛びつくのだろうね。


 でもライラさんは慎重で賢い人だし……。


 なにか裏があるのではと考えるのも当然だ。


「デルアダさん、このポーションは本当に・・・、ここに書かれた内容のものなんですよね?」


 僕はポーションの説明書を指さして、商人さんに念を押して訊く。


「と、当然ですよ! もしかしてニセモノとお疑いなのですか? 酷いですねぇ……。このギルドはこれといった理由もなく商品をニセモノ呼ばわりするのですか?」


「いえ、失礼。そういうつもりでは……」


 やけに強気な言い分だな。


 もしかしたら本当に、お買い得なだけの商品なのかもしれない。


「もしよければ、お手に取ってお確かめくださいな。もしニセモノなのだとしたら、ポーション師の方でしたら、おわかりになるはずです」


「それでは、見させていただきますね」


 僕は確認のため、ポーションを一つ手に取った。



 そして――



万能鑑定オールアプリ―ザル!」


 

 ――スキルを使った。





【side:デルアダ】


 俺は商人のデルアダ。


 闇の世界ではそこそこ有名だ。


 今日も無知で人のよさそうなギルドを騙しにやってきた。


 こいつらは根っからの善人ぽいからな。


 簡単に騙せそうだぜ。


 と思っていたがなかなか疑り深い慎重な連中みたいだ。


 それにしても、さっきはドキッとした。


 だが大丈夫だ。


「もしよければ、お手に取ってお確かめくださいな。もしニセモノなのだとしたら、ポーション師の方でしたら、おわかりになるはずです」


 まあ、並みのポーション師が見ても、わからないように細工はしてあるがな……。


 このポーションは下級回復ポーションを上級回復ポーションに細工してあるのさ。


 特殊な魔術で細工してあるから、まずバレることはない。


 実際に使用するまではな……。


「それでは、見させていただきますね」


 ポーション師が俺のポーションを手に取る。


 まあいくら見てもわかりっこないから、存分に見るといい。


「商人さん、最後にもう一度確認しますが、これは本当に・・・、上級回復ポーションなのですね??」


「いやだなぁ、そう言ってるじゃないですか!」


 やけにしつこいな。


 だがその分、一度騙せばいいカモになってくれそうだ。


「はぁ……」


 ポーション師がため息をつく。


「?」


 なんのつもりだ?


「これはどう見ても、上級回復ポーションではありませんね?」


「は!?」


 どういうことだ!?


 バレるはずはないのに!


 まさかコイツ、ポーション師というのは嘘で、名うての大魔術師とかなのか!?


 いや、そんなはずはない。


 偽装は完ぺきだったはず!


 ここは強気でいこう。


「どどどど、どういうことだ!!!! うちのポーションにケチをつける気か!? 証拠をみせろ! 証拠を!」


万能鑑定オールアプリ―ザル、それが僕のスキルです」


「なんだと!? そんなスキル、一介のポーション師ふぜいが使えるわけないだろう」


「それが使えるんですよ……。最近ちょっとね……」


「だったら、このポーションの成分を言ってみろ! それが本当ならできるはずだ」


「いいですよ? これは……上級回復ポーションではなく、下級回復ポーションに偽装フェイクの魔法でカモフラージュしたものですよね? 違いますか?」


 な……!


 その闇魔法の名前まで言い当てるとは……!


 こいつは何者なんだ?


「くそ! 商売あがったりだ! ポーションを返せ! こんなギルド、潰れちまえ!」





【side:ヒナタ】


「くそ! 商売あがったりだ! ポーションを返せ! こんなギルド、潰れちまえ!」


 商人さんは、そう言って部屋を出ようとする。


「ええ、こちらとしても、ぜひお引き取り願います」


 僕は商人さんにポーションを投げ渡す。


 それを受け取ると、彼はそそくさとギルドを後にした。


「ヒナタくん……助かりました。まさか商品が本当にニセモノだったとは……! さすがです! ヒナタくんがいなかったら、まんまと騙されていたかもしれません」


「いや、僕はスキルを活用しただけですよ。それもたまたま進化したスキルですし」


「いえ、スキルが進化したのもヒナタくんの実力ですよ!」


「ええ? そうですかね……」


 あまりその実感はない。


 スキルアップポーションを作れたのも、たまたまだし……。


「さっすがヒナタ先輩っス! 自分の未熟な判断力では、ポーションがニセモノだとは見抜けませんでした!」


「いやいや、大したことではないよ」


 どうやらウィンディも見抜けなかったみたいだね。


 それだけ巧みに仕掛けがされていたんだね……。


「今回は鑑定スキルに助けられたよ……」


「そんなことないっスよ。先輩ほどの人なら、きっとスキルがなくても見抜いてたっス!」


「そうかなぁ? どうだろうね……」


 正直、自信は半々といったところだ。


「そうですよ! 私もそう思います!」


 と、ライラさん。


 まったく、ライラさんもウィンディも大げさだなぁ。


 まあともかく、騙されることがなくてよかった。


 ああいった悪徳商人も、最近は増えているし、気を付けなくてはいけないね。


「一応、他のギルドにも報告しておきましょうか」


「そうですね、他に騙される人が出る前に、お知らせしましょう」


 僕たちはその日のうちに報告書を書き、商業ギルド協会に提出した。


 これで安心だ。

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