第23話 新しいポーション師【side:ヘルダー】
俺はヘルダー・トランシュナイザー。
駆け出しのポーション師だ。
まあポーション師といっても、大学でちゃんと学んだエリートだ。
ポーション師のほとんどは、大学にも行かない、貧乏人だからな。
そんなクズどもと比べて、俺はすこぶる優秀だ。
だから俺の未来は明るい!
そんな俺も、医術ギルドに所属するときがきた。
ガイアックという人物が経営している、一流の医術ギルドに就職が決まったのだ。
さすが俺といった感じの就職先!
「緊張するなぁ……」
ガイアック医院長という人は、優秀だが気難しい人と聞いてるからな。
嫌われないようにしないとな。
「失礼します」
俺は恐る恐る、医術ギルドの扉を開ける。
「おう、お前が新しいポーション師か」
「はい」
眉間にしわを寄せた鋭い目つきの、野心に溢れた若者。
これがガイアックさんか……。
「よろしくお願いします!」
「こんどはまともなポーション師ならいいがな」
「え?」
「なんでもない」
いきなり怖そうな人だなぁ……。
それに比べて――
レナさんという人は優しそうな人だ。
女性の医術師で、ギルド長の秘書的なこともしているらしい。
優秀な人なんだなぁ。
「貴族でポーション師になるなんて珍しいですね」
「ええ、昔から薬品つくりに興味があったもので」
そんな世間話を交わす。
その後、勤務表を見て俺は、驚くことになる。
「え!? このギルドには僕しかポーション師がいないんですか?」
「当たり前だ。なに寝ぼけたこと言ってんだ?」
ガイアック医院長があからさまに機嫌を悪くして言った。
どうしよう……。
ここでなにか言っても、さっそく印象が悪くなるだけだし……。
とりあえずやれるだけやってみよう。
もしかしたら、みなさん優秀で、なんてことない仕事量なのかもしれないし。
「じゃあ、さっそくこの聖水と薬草とスライムコアを混ぜていってくれ」
「はい!」
俺は言われたとおり、素材を受け取る。
そして鍋を火にかける。
「おいおいおい! 何やってんだ!?」
「はい? ポーションを混ぜる準備ですが……」
「
「え? そんなの使えませんよ」
「は?」
「そんなのできるのは、大学でも主席の生徒くらいなものですよ」
まったく、どれほど期待されてたのやら。
面接のときでも、そういうことは言われなかったしなぁ……。
さすがは一流のギルドと言った感じか。
求められる基準が高すぎる……。
これは俺を試しているんだろうな。
負けないように、しっかりしなくちゃな!
「ま、まあいいだろう……。
「ええまあ、それなりには……」
「ならよし。しっかりたのむぞ」
「はい!」
◇
【side:ガイアック】
さあて、新人のポーション師はどれほど使い物になるのかな。
「な、なんだこれは……!?」
昼頃になって、俺がようすを見に行くと、そこには信じられない光景が――。
「あ、ガイアック医院長。ちょうど今、一区切りついたところです」
「は?」
新ポーション師――ヘルダーとか言ったか――のもとには、6つのポーションが置かれていた。
「これだけか……?」
「はい?」
「これだけかと訊いている」
「はい。足りませんか?」
「当たり前だ! こんなペースでは日が暮れてしまう」
「で、でも、僕一人なんですよ!?」
「いい訳をするな!」
信じられない……。
あれほど時間があったのに、たったの6つ……?
今まで何をしていたんだこいつは。
「そんなこと言われても、できませんよ。普通のギルドではポーション部なんて3人いてようやく回せるくらいですよ? ここの人たちは優秀かもしれませんが、普通に考えたらもっと雇ってもらわないと……」
「じゃあなにがポーション師なんだよ! ただ混ぜるだけのことがなんでできない!」
「……ただ混ぜるだけと思ってるのか?」
「は?」
なんだコイツ?
俺に口答えするのか?
「アンタはほんとうに医術大学をでたのか?」
「あいにく俺はポーションにかんする講義はとってないんでな。ポーションなんか無能に混ぜさせればいいだろ」
「ポーションをつくるには、たしかな目利きと、素材の繊細な扱いや知識が必要なんだ。ただ混ぜればいいってもんじゃない……」
「ち、つかえないやつめ。ポーション師ってのはどいつもこうなのか?」
「……っく!」
「前任者は一人でやっていたぞ? しかも平民のガキだ」
「一人で……? その人は怪物かなにかなのですか?」
「は? そんなわけないだろう。お前が無能なだけだ」
まったく、せっかく新しいポーション師を雇ったというのに……。
これじゃあ悪化してるじゃないか。
あのヒナタより使えないとは驚いた。
よくもこんなゴミが大学を出れたものだな。
まあ、おおよそ、どこかの上級貴族の息子が、道楽でやってみたというだけのことなのだろう。
それにしても、どうして面接で弾けなかったのか。
「おい、レナ……。面接をしたのはお前だったよな?」
「すみません……。まさか
「だよなぁ? 今回は許すぜ。だが今度からは気をつけろよ?」
「は、はい。ありがとうございます」
◇
【side:ヘルダー】
どういうことなのだろう……。
優しかったレナさんまでもが、俺のことをゴミを見るかのような目で見てくる……。
前任者は一人でこの量をこなしてたと言っていたが……。
どれほどの化物なのだろうか。
仮に、
とにかく、ここのギルドは想像以上に優秀な人が集まる場所のようだな。
今日は怒られてしまったが、これは気合を入れて頑張らなきゃ!
ガイアック医院長も、きっと俺を奮起させるためにあえてキツく言ったに違いない!
◆
愚直なヘルダーはまだ、ガイアックの悪意に気づけないでいるのであった。
そして今後ますます、ガイアックはヘルダーに失望することになる。
そしてそれと同時に、ヒナタの本当の価値を思い知ることになるのだ……。
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