第20話 ギルド長の訪問【side:ガイアック】


 気がつけば俺は、ヒナタ・ラリアーク――あの忌々しきポーション師の家まで来ていた。

 かつての従業員の家くらいは知っているのだ。


「おい、出てこい」


 俺が扉を叩くと、数秒でヤツが姿を現した。


「なんです? ギルド長……。いや、いまはガイアックさんと呼んだ方がいいかもしれないですね」


「呼び方なんぞどうでもいい。今日はキサマに言いたいことがあって来た」


「はぁ……僕も忙しいんですけどね? まあいいや。聞きましょう」


「お前のせいで俺は大変な目にあったんだぞ? なにか言うことは?」


「はぁ……? 僕が何をしたって言うんです?」


「お前がやめるときに、ポーションのことに関する注意を怠ったせいで、ギルドでは大変なことになったんだ。感染症で人が死ぬところだったんだぞ?」


 俺がまくしたてるも、ヒナタはまるで堪えてないようすで。


 肩をすくめ、ため息をついているしまつ。


 何だコイツ?


 俺を舐めているのか?


「そのセリフ、そっくりそのままお返ししますよ……」


「はぁ?」


「そもそも、聖水を知らないってなんなんですか? ポーションのこと知らないにもほどがあるでしょう……」


「そんなの知らないに決まっているだろう? なんで俺がそんなこと知らないといけない」


「いい加減にしてください! もっと人の命を預かっているって自覚しろ! 呆れた人だよ……」


「……!?」


 俺はあっけにとられる。


 今までこいつが俺に反抗したことなどなかったのに。


「おい、なんだよその態度!」


「え? 僕はそもそももうあなたの部下ではないですからね? もはや赤の他人ですよ?」


「たしかにそうだが……」


「それなのに、僕があなたの尻拭いをしてやったというんです。感謝してもらいたいものですね」


「どういうことだ」


「ガイアックさん、あなたのミスに気がついたのは僕なんですよ」


「は?」


「まあそういうことだから、じゃあ」


 ヒナタはそう言うと、扉を閉めてしまった。


 俺はしばらくその場に立ち尽くす。


「やっぱり、アイツのせいなんじゃないか……!」


 どこまでも舐めた野郎だ。


 そもそもヒナタがちゃんと聖水について説明してくれていれば、こうはならなかったはずだ!


 どこまでも無能なヤツめ。


 俺だって聖水の存在は当然知っている。


 そしてそれがポーションに使われるものだということも……!


 でもそれを使わなければいけない・・・・・・・・・・なんて知らないだろ、普通。

 

 だって実際、ヒナタは使っていなかったんだから。


 だとしたら、なんでアイツは問題を起こさなかったんだ?


 俺ははめられたのか?


 許せない……! 

 

 俺は復讐を誓った。





【side:ヒナタ】


「はぁ……」


 扉を閉めた僕は、疲れて椅子に腰かける。


 ヒナドリちゃんが入れてくれた紅茶に口をつける。


「どなたでしたの?」


「前の職場の上司だよ」


「へえ……」


「まったく、ガイアック医院長にも困ったものだよ……」


「どうしたんですの?」


「ポーションに聖水をつかわなければならないことを知らなかったんだ」


「え!?」


 ヒナドリちゃんが目を丸くする。


 やっぱり、ヒナドリちゃんが聞いても驚くよね。


「そんなことも知らないで、医術ギルドをやっている人がいるんですの!? 信じられませんわ!」


「だよねぇ」


「そんなこと、子供でも知っているのー」


 ヒナギクも同じ意見のようだ。


 病気でずっと外に出ていないヒナギクでも知っているのだから、当然の知識だ。


「やっぱり、あんなギルド、クビになって正解だったな」


「ですね。さっすがお兄様!」


「なのー!」


 今はライラさんに優しくしてもらってるし、可愛い妹たちに囲まれて、僕は恵まれてるなぁ……。





 無知を晒したガイアックは、ヒナタに復讐を誓う。


 そんな彼が次にとる行動とは一体……!


 そして順風満帆じゅんぷうまんぱんなヒナタには、新たなる出会いの予感……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る