第19話 ギルド長は協会から怒られる【side:ガイアック】
ある日のこと――。
「はぁ? なんで俺が医術協会に呼び出されなくちゃならねえ? 意味わかんねえ」
俺は届いた書類を前に、あっけにとられる。
「ですがギルド長。協会に従わないと、大変なことになりますよ?」
「うるせえ!」
――ドン!
俺はレナを払いのける。
レナの身体が壁にぶつかった。
「きゃぁ!」
「大丈夫ですか!?」
レナにキラが駆け寄る。
ふん、うっとおしいヤツらだ。
「とにかく、俺は仕方がないから行ってくるが……」
「大丈夫です。ギルドは私に任せてください」
倒れながらも、レナは俺に言ってくる。
忠実な女だ。
まあそういうヤツだからこそそばに置いているのだがな。
「おう、任せたぞ?」
俺はしぶしぶ、協会に向けて歩き出す。
いったいなんの用なんだ?
俺が何をした?
あ、もしかして褒められるのか?
表彰されるのか?
そうだ、そうに違いない!
歩いているうちに俺は上機嫌になる。
協会の呼び出しというとどうしても悪いイメージが先行するが、まだそうと決まったわけではないのだ!
◇
「会長がお呼びだ」
医術協会本部にて、俺は医術協会会長――ドレイン・ヴァン・コホックと面会をしていた。
「ガイアック・シルバくん、君には失望したよ……」
医術協会長のおっさんが、俺にそんなことを言う。
偉そうに髭をたくわえた、白髪の老人。
「どういうことですか……?」
俺が何をしたというのか。
「報告があったのでね、君のいない間に調べさせてもらったよ」
「は?」
「君のギルドでは井戸水でポーションを作っているそうだね?」
会長は、丸い小さな眼鏡をくいっと上げて、言った。
「それがなにか?」
「はぁ……救いようがない……」
「?」
俺はおっさんが何を言っているのか疑問だった。
からかっているのか、舐めているのか。
とにかくもったいぶった、いけ好かないじじいだ。
「ポーションはね、聖水をつかわなければいけないのだよ……」
「は? 聖水?」
そんなはずはない。
ポーション師のヒナタだって、井戸水で作っていたはずだ。
ヤツがそんなものを使っているのを、俺は見たことがない。
「でも、だって……! 前のポーション師はそんなこと……!」
「いい訳をするな! みっともない!」
「……ッ!」
俺に怒鳴りつけるなんて……!
この男、正気ではない。
絶対に許せない!
「馬鹿なお前にもわかるように説明しよう」
「馬鹿だと?」
「ポーション用の水はだな……教会で清めてもらう必要があるんだ。そうじゃないと、傷口から感染症を引き起こすなどの問題が生じるのだ」
「感染症……?」
そういえば、酒場でそのようなことを聞いたな。
感染症、その原因が俺にあるというのか?
「今回は幸運にも、それほど被害は大きくなかったが……。君の行動は処罰に値する」
「は!? そんな……!」
「これから一か月間、毎日協会におもむいて、再発防止のための研修を受けてもらう」
「なんで俺が……!」
「まだわかっていないようだな?」
「はい?」
「君の父は立派な人だったのだがな……。いいか? 貴様がその年で医術ギルド長をやれているのは、父親のあとを継いだからなのだぞ? それを自分の実力と勘違いしてはならない。お前はまだまだ未熟なのだ。もっと学ぶがよい!」
「は、はい……」
何様のつもりだ?
俺は天才だぞ?
だがここは黙ってうなずくしかないのも事実。
会長に逆らっても、なにも得るものはない。
「くそう……くそう……!」
俺はじだんだを踏みながらギルドへ帰る。
何でこうなった?
誰も聖水のことに気がつかなかったのか?
この数年、我がギルドではそんなものは使っていなかった。
だってポーションはヒナタに一任していたしな。
まさにそのせいだ!
うちの他の医師たちは、大学を出て、すぐに入ってきたようなヤツばかりだ。
当然、他のギルドのことなんてしらないだろう。
ヒナタが俺のギルドに変な常識を植え付けたのだ!
まさに悪魔!
悪習を広めて、俺のギルドを台無しにしやがった!
全部あいつのせいなのだ!
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