第19話 ギルド長は協会から怒られる【side:ガイアック】


 ある日のこと――。


「はぁ? なんで俺が医術協会に呼び出されなくちゃならねえ? 意味わかんねえ」


 俺は届いた書類を前に、あっけにとられる。


「ですがギルド長。協会に従わないと、大変なことになりますよ?」


「うるせえ!」


 ――ドン!


 俺はレナを払いのける。


 レナの身体が壁にぶつかった。


「きゃぁ!」


「大丈夫ですか!?」


 レナにキラが駆け寄る。


 ふん、うっとおしいヤツらだ。


「とにかく、俺は仕方がないから行ってくるが……」


「大丈夫です。ギルドは私に任せてください」


 倒れながらも、レナは俺に言ってくる。


 忠実な女だ。


 まあそういうヤツだからこそそばに置いているのだがな。


「おう、任せたぞ?」


 俺はしぶしぶ、協会に向けて歩き出す。


 いったいなんの用なんだ?


 俺が何をした?


 あ、もしかして褒められるのか?


 表彰されるのか?


 そうだ、そうに違いない!


 歩いているうちに俺は上機嫌になる。


 協会の呼び出しというとどうしても悪いイメージが先行するが、まだそうと決まったわけではないのだ!





「会長がお呼びだ」


 医術協会本部にて、俺は医術協会会長――ドレイン・ヴァン・コホックと面会をしていた。


「ガイアック・シルバくん、君には失望したよ……」


 医術協会長のおっさんが、俺にそんなことを言う。


 偉そうに髭をたくわえた、白髪の老人。


「どういうことですか……?」


 俺が何をしたというのか。


「報告があったのでね、君のいない間に調べさせてもらったよ」


「は?」


「君のギルドでは井戸水でポーションを作っているそうだね?」


 会長は、丸い小さな眼鏡をくいっと上げて、言った。


「それがなにか?」


「はぁ……救いようがない……」


「?」


 俺はおっさんが何を言っているのか疑問だった。


 からかっているのか、舐めているのか。


 とにかくもったいぶった、いけ好かないじじいだ。


「ポーションはね、聖水をつかわなければいけないのだよ……」


「は? 聖水?」


 そんなはずはない。


 ポーション師のヒナタだって、井戸水で作っていたはずだ。


 ヤツがそんなものを使っているのを、俺は見たことがない。


「でも、だって……! 前のポーション師はそんなこと……!」


「いい訳をするな! みっともない!」


「……ッ!」


 俺に怒鳴りつけるなんて……!


 この男、正気ではない。


 絶対に許せない!


「馬鹿なお前にもわかるように説明しよう」


「馬鹿だと?」


「ポーション用の水はだな……教会で清めてもらう必要があるんだ。そうじゃないと、傷口から感染症を引き起こすなどの問題が生じるのだ」


「感染症……?」


 そういえば、酒場でそのようなことを聞いたな。


 感染症、その原因が俺にあるというのか?


「今回は幸運にも、それほど被害は大きくなかったが……。君の行動は処罰に値する」


「は!? そんな……!」


「これから一か月間、毎日協会におもむいて、再発防止のための研修を受けてもらう」


「なんで俺が……!」


「まだわかっていないようだな?」


「はい?」


「君の父は立派な人だったのだがな……。いいか? 貴様がその年で医術ギルド長をやれているのは、父親のあとを継いだからなのだぞ? それを自分の実力と勘違いしてはならない。お前はまだまだ未熟なのだ。もっと学ぶがよい!」


「は、はい……」


 何様のつもりだ?


 俺は天才だぞ?


 だがここは黙ってうなずくしかないのも事実。


 会長に逆らっても、なにも得るものはない。


「くそう……くそう……!」


 俺はじだんだを踏みながらギルドへ帰る。


 何でこうなった?


 誰も聖水のことに気がつかなかったのか?


 この数年、我がギルドではそんなものは使っていなかった。


 だってポーションはヒナタに一任していたしな。


 まさにそのせいだ!


 うちの他の医師たちは、大学を出て、すぐに入ってきたようなヤツばかりだ。


 当然、他のギルドのことなんてしらないだろう。


 ヒナタが俺のギルドに変な常識を植え付けたのだ!


 まさに悪魔!


 悪習を広めて、俺のギルドを台無しにしやがった!


 全部あいつのせいなのだ!

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