第18話 新種の感染症から街を救え!


「なんだか最近、感染症が流行っているらしいですよ。ヒナタくんも身体には気を付けてくださいね?」


「あ、はい。ありがとうございます。ライラさんも忙しいでしょうが、休んでくださいね」


 仕事終わり、ギルドから出る際に、そんなことを言われた。


 感染症かぁ……。


 もし僕が感染し、妹にうつしでもしたら大変だ。


「心配だなぁ……」


 念のため、今日はどこにも寄らずに帰ろう。





「ただいまー」


「おかえりなさいませ、お兄様」


「……ってあれ!? ヒナドリちゃん、どうしたの?」


 ヒナドリちゃんは、すごく厚着をしていた。


 季節から考えて、ちょっと異常なほどだ。


 口元には布を巻いている。


「これは、感染症対策ですわ。ヒナギクにもしものことがあってはいけませんもの」


「それにしてもやりすぎじゃないかな? まだどういった病気かわかっていないんだし……」


 ヒナドリちゃんは汗をびっしりかいて、苦しそうな顔をしている。


 感染症以前に、むしろそっちが心配になるくらいだ。


 まあ未知の病気から身を守るとなったら、なんでもやらないよりはましかもしれないけど……。


「それが、お隣の奥さんが例の感染症だとかで……」


「え!? それは怖いね……」


 ヒナドリちゃんの怯えようも、納得がいく。


 お隣の奥さんのことも心配だし……。


 そうだ!


「僕ちょっと行ってくるよ!」


「あ、ちょっと! お兄様!?」


 僕は小脇にポーションを抱え、家を飛び出した。





「ごめんください」


「ああ、ヒナタくん。どうしたんだい?」


 お隣の旦那さんが対応してくれた。


「奥さんに用があって……」


「残念だが妻は病気だ。例の感染症でね……」


「わかっています。僕に病状を見せてください。治せるかもしれません」


「え!? キミが!?」


 どんな症状かがわかれば、それに合ったポーションを作ることで、回復するかもしれない。


 それに、知らないでいるより、知っておいたほうが怖くない。


 僕はなんとしても妹を守らなければいけないのだから!


「はい、僕が治します!」


 旦那さんは、いぶかしみながらも、僕を家に入れてくれた。


 僕が医術ギルドに勤めていたことを知っていたからだろうか。


 それとも熱意が伝わったのか。


「失礼します」


 眠っている奥さんの部屋に通される。


「これは……!」


 奥さんの腕を見て、僕はすぐに気がついた。


 僕の嫌な予感は当たっていたのだ!


 奥さんの腕には包帯が捲かれていて、その包帯にはポーションがしみ込ませてあった。


 だけどそこからうみのようなものが染み出していて、そのせいで傷口から感染症を引き起こしている。


 そしてその包帯の処置の仕方を見れば、僕には一目瞭然。


 ガイアック率いるあの医術ギルドによるものだ。


「ガイアックギルド長は、聖水のことを知らなかったんだ……!」


「どういうことだ?」


 僕は旦那さんに説明する。


「ポーションは聖水で作らないとダメなんです。でもこのポーションは汚れた水で作られたものだ。そのせいでこんなことに……」


「なんだって!? そんなヒドイこと……」


 まあとにかく、妹に感染するようなものじゃなくてよかった。


 それにしても、これは許せないね。


「安心してください。これなら僕にも対処できます」


「お! そうか! 頼むよ」


 僕は奥さんから不潔な包帯を外し、新しい包帯に取り換える。


 新しい包帯には、しっかり僕のポーションをしみ込ませる。


 このポーションはちゃんと聖水で作った、キレイなポーションだ。


「おお! 傷口がキレイになっていくぞ!」


「これであとは安静にしていれば、大丈夫だと思いますよ」


「それにしても、あの医術ギルド、とんでもねえ雑な仕事をするもんだな。二度と行かんわ」


「そうですねぇ……。僕もまさかここまでとは思っていませんでした。すみません……」


「おっと、キミも以前はあそこで働いていたんだったな……。すまん。キミが謝るようなことじゃない」


「でもどうしましょう。このことを伝えるべきなんでしょうけど……」


 僕がガイアックギルド長に何を言っても、きっとあの人は聞き入れないだろうし。


 へんな角が立つのも嫌だ。


「それなら俺に任せておいてくれ。俺から医術協会の本部に、報告をしておくよ」


「それは助かります! ありがとうございます」


「いいってことよ。こっちこそありがとうな」


 こうして後日、医術ギルドに対して、調査委員が派遣されることになる。





「はぁ……よかった」


 僕はようやく家に帰って座ることができた。


「お疲れ様です、お兄様」


「ありがとう、ヒナドリちゃん」


 へとへとな僕に、ヒナドリちゃんが温かいスープを出してくれる。


「それにしても、お隣の奥さんを助けてしまうなんて、すごいですわ!」


「そうでもないよ。あんなの、ポーションに詳しい人が見れば一発さ」


「それでもやっぱり、さすがお兄様ですの! これもヒナギクを思ってのことですものね」

「まあね。もちろん、ヒナドリちゃんのこともいつも大切に思ってるよ」


 僕はヒナドリちゃんの頭にそっと手を置く。


 するとヒナドリちゃんの顔が少し赤くなった。


「まあ、お兄様!」


「いつもありがとうね、ヒナドリちゃん」


 きっと僕だけでは、ここまでちゃんと生活できていない。


 ヒナギクを助けるために、ヒナドリちゃんも全力で頑張ってくれているのだ。


 だから――


 ――僕ももっと頑張るぞ!





 なんと未知の感染症は、ガイアックによる雑なポーション作成が原因だった!


 それほどまでにガイアックは、ポーションのことをヒナタに任せっきりだったのだ!


 そしてもう、医術ギルドにはヒナタはいないのである……。


 それもすべては、ガイアックの愚かさ故の過ち……。

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