第18話 新種の感染症から街を救え!
「なんだか最近、感染症が流行っているらしいですよ。ヒナタくんも身体には気を付けてくださいね?」
「あ、はい。ありがとうございます。ライラさんも忙しいでしょうが、休んでくださいね」
仕事終わり、ギルドから出る際に、そんなことを言われた。
感染症かぁ……。
もし僕が感染し、妹にうつしでもしたら大変だ。
「心配だなぁ……」
念のため、今日はどこにも寄らずに帰ろう。
◇
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、お兄様」
「……ってあれ!? ヒナドリちゃん、どうしたの?」
ヒナドリちゃんは、すごく厚着をしていた。
季節から考えて、ちょっと異常なほどだ。
口元には布を巻いている。
「これは、感染症対策ですわ。ヒナギクにもしものことがあってはいけませんもの」
「それにしてもやりすぎじゃないかな? まだどういった病気かわかっていないんだし……」
ヒナドリちゃんは汗をびっしりかいて、苦しそうな顔をしている。
感染症以前に、むしろそっちが心配になるくらいだ。
まあ未知の病気から身を守るとなったら、なんでもやらないよりはましかもしれないけど……。
「それが、お隣の奥さんが例の感染症だとかで……」
「え!? それは怖いね……」
ヒナドリちゃんの怯えようも、納得がいく。
お隣の奥さんのことも心配だし……。
そうだ!
「僕ちょっと行ってくるよ!」
「あ、ちょっと! お兄様!?」
僕は小脇にポーションを抱え、家を飛び出した。
◇
「ごめんください」
「ああ、ヒナタくん。どうしたんだい?」
お隣の旦那さんが対応してくれた。
「奥さんに用があって……」
「残念だが妻は病気だ。例の感染症でね……」
「わかっています。僕に病状を見せてください。治せるかもしれません」
「え!? キミが!?」
どんな症状かがわかれば、それに合ったポーションを作ることで、回復するかもしれない。
それに、知らないでいるより、知っておいたほうが怖くない。
僕はなんとしても妹を守らなければいけないのだから!
「はい、僕が治します!」
旦那さんは、いぶかしみながらも、僕を家に入れてくれた。
僕が医術ギルドに勤めていたことを知っていたからだろうか。
それとも熱意が伝わったのか。
「失礼します」
眠っている奥さんの部屋に通される。
「これは……!」
奥さんの腕を見て、僕はすぐに気がついた。
僕の嫌な予感は当たっていたのだ!
奥さんの腕には包帯が捲かれていて、その包帯にはポーションがしみ込ませてあった。
だけどそこから
そしてその包帯の処置の仕方を見れば、僕には一目瞭然。
ガイアック率いるあの医術ギルドによるものだ。
「ガイアックギルド長は、聖水のことを知らなかったんだ……!」
「どういうことだ?」
僕は旦那さんに説明する。
「ポーションは聖水で作らないとダメなんです。でもこのポーションは汚れた水で作られたものだ。そのせいでこんなことに……」
「なんだって!? そんなヒドイこと……」
まあとにかく、妹に感染するようなものじゃなくてよかった。
それにしても、これは許せないね。
「安心してください。これなら僕にも対処できます」
「お! そうか! 頼むよ」
僕は奥さんから不潔な包帯を外し、新しい包帯に取り換える。
新しい包帯には、しっかり僕のポーションをしみ込ませる。
このポーションはちゃんと聖水で作った、キレイなポーションだ。
「おお! 傷口がキレイになっていくぞ!」
「これであとは安静にしていれば、大丈夫だと思いますよ」
「それにしても、あの医術ギルド、とんでもねえ雑な仕事をするもんだな。二度と行かんわ」
「そうですねぇ……。僕もまさかここまでとは思っていませんでした。すみません……」
「おっと、キミも以前はあそこで働いていたんだったな……。すまん。キミが謝るようなことじゃない」
「でもどうしましょう。このことを伝えるべきなんでしょうけど……」
僕がガイアックギルド長に何を言っても、きっとあの人は聞き入れないだろうし。
へんな角が立つのも嫌だ。
「それなら俺に任せておいてくれ。俺から医術協会の本部に、報告をしておくよ」
「それは助かります! ありがとうございます」
「いいってことよ。こっちこそありがとうな」
こうして後日、医術ギルドに対して、調査委員が派遣されることになる。
◇
「はぁ……よかった」
僕はようやく家に帰って座ることができた。
「お疲れ様です、お兄様」
「ありがとう、ヒナドリちゃん」
へとへとな僕に、ヒナドリちゃんが温かいスープを出してくれる。
「それにしても、お隣の奥さんを助けてしまうなんて、すごいですわ!」
「そうでもないよ。あんなの、ポーションに詳しい人が見れば一発さ」
「それでもやっぱり、さすがお兄様ですの! これもヒナギクを思ってのことですものね」
「まあね。もちろん、ヒナドリちゃんのこともいつも大切に思ってるよ」
僕はヒナドリちゃんの頭にそっと手を置く。
するとヒナドリちゃんの顔が少し赤くなった。
「まあ、お兄様!」
「いつもありがとうね、ヒナドリちゃん」
きっと僕だけでは、ここまでちゃんと生活できていない。
ヒナギクを助けるために、ヒナドリちゃんも全力で頑張ってくれているのだ。
だから――
――僕ももっと頑張るぞ!
◆
なんと未知の感染症は、ガイアックによる雑なポーション作成が原因だった!
それほどまでにガイアックは、ポーションのことをヒナタに任せっきりだったのだ!
そしてもう、医術ギルドにはヒナタはいないのである……。
それもすべては、ガイアックの愚かさ故の過ち……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます