第17話 ギルド長は聖水を知らなかった【side:ガイアック】


「よし、今度こそ、ポーションを作るぞ」


 俺はギルド全体に命令する。


 ようやくポーションの素材がそろったのだ。


 ここまでくるのに長かった。


「ギルド長、水はどうしましょう?」


「は? 水?」


「ポーションを作るのには水を使いますので」


「そんなの適当に用意しろ」


 まったく、それくらい自分で判断してもらいたいものだ。


 医術ギルドなのだから、井戸くらい完備してある。


 手術にも水は使うからな。


「水を汲んできました!」


「ん? ちょっと汚れてるな」


「昨日、雨が降りましたからね。ひどい風で、ゴミなどが入ったのでしょう」


「そうか、だが大丈夫だろう。飲むわけじゃないしな」


 あくまで手術用のポーションは、傷口に塗ったりして魔法の補助に使う。


 口に入れるのならゴミを嫌がる者もいるだろうが、皮膚くらい気にするヤツはいないだろう。


 数時間後、ポーションの調合が完了した。


 これで当分の間はもつだろう。


「よし、よく頑張ったな! ポーションを混ぜたことない者もいたが、簡単だっただろう?」


「はい! ありがとうございます、ギルド長!」


「やっぱりポーション師なんかいらなかったんだ! またしても俺が正しかったというわけだ! ガッハッハ!」


「さすがギルド長です! ヒナタをクビにしたのはまさしく英断でした!」


 俺は部下に褒められて、いい気分だった。


 いろいろあったが、ようやく俺のギルドも成功に向かって歩き出した。


 これからたくさん儲けるぞ!


 俺は意気込みを新たにする。


「さあ、ポーションができたらさっさと手術の準備をしろ! 今日もたくさんの患者がくるぞ!」


 最近、ぶっそうな事件とかが多くて、負傷者がたくさん出ている。


 まあ、風が吹けば桶屋が儲かるし、けが人が出れば俺が儲かるというわけだ。


「それにしても、ヒナタはこんな簡単な作業に毎日時間を使っていたのか……? とんだ給料泥棒だな」


「ですね。自分たちでポーションを混ぜたらすぐでしたからね」


「やっぱり、ポーション師ってのは不要な職業だな! 他のギルドにも教えてやろう!」





 俺は週末、行きつけの酒場へと向かった。


 ちょうど、知り合いの医師が飲んでいたので合流する。


 他の医術ギルドで、ギルド長をしている、俺と同じような境遇のヤツらだ。


 まあようは、エリート中のエリートだ。


 ポーション師なんかの底辺と違って、かしこい連中だ。


 ――ぐびぐびぐびぐびぐびぐびぐびぐびぐびぐび。


「おい、ガイアック。お前さん、今日はやけに羽振りがいいな。そんなに高い酒ガバガバ飲んで大丈夫かよ?」


「最近、大幅な経費削減に成功してな。まあ人員を削ったんだ。ちょっと失敗して薬草を多めに買わされたがな。長い目で見れば、大儲けってとこよ」


「ほう? そいつはどんなカラクリなんだ?」


「なあに、単純さ。ポーション師をクビにしただけだよ。お前のとこもポーション師を追い出すことをおすすめするぜ? あいつら、働かないで金だけ持っていく金食い虫だからよ」


 俺の言葉に、友人たちはびっくりする。


 まあ画期的なアイデアだからな。


 俺の頭脳の明晰さに、驚いたのだろう。


 無理もない。


「おいおい、そいつはなんの冗談だ? ポーション師をクビにしたら、一体誰がポーションを混ぜたり、素材の管理をするんだ?」


「簡単さ。うちの医師に空いた時間にやらせればいい話だ」


「はぁー……。そりゃあまあ、お前のところは優秀なヤツがそろってるかもしらんが……。うちの医師には真似できねえよ。第一、そんな時間なんてどこにもねぇしな」


「そうか? やってみれば簡単だぜ?」


「……ッハ! 言うねぇ! さすがガイアック!」


「ハハハ!」


 俺たちは、そんな感じで朝まで酒を飲み交わした。


 明け方になって、ぶっそうな話が出た。


「なんだか最近、みょうな感染症が流行ってるらしいぜ?」


「おいおいやめてくれよ酒がまずくなる」


「いや、真剣な話なんだ。まだ対策がわかってないらしくて、患者が来てもどうしようもないらしい」


「そうか。まあ覚えておくよ」


 俺は話半分にそれを聞き流した。


 まあ感染症くらい余裕だろ。


 なんたって、俺の医術魔法の能力は超優秀だからな!





 ガイアックは知るよしもない。


 まさかその感染症の原因が自分にあろうとは……!

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