第16話 水をキレイにしよう


――素材活性マテリアルブースト!!


 僕がいつものように倉庫にこもっていると……。


「今、何をしたんですか!?」


 後ろからライラさんだ。


「ああこれは、水を素材活性マテリアルブーストで浄化していたんですよ」


「そんなことまでできるんですか!?」


「ええ、ようは聖水って、ただのキレイな水ですからね」


 ポーションを作るときには、キレイな水――聖水を用意しなくてはならない。


 本当なら、教会まで行って、お祈りをしてもらうんだけどね……。


 僕の場合はスキルで自作できてしまう。


 素材活性マテリアルブーストでの素材活性化は、本当ならすぐに戻っちゃうんだけど……。


 聖水の場合はあくまでスキルを応用して、水をキレイにしているだけだから、大丈夫なんだよね。


 僕がポーションを作るのがはやいのにはそういう理由もある。


「教会いらずですね……。ヒナタくんには信仰心というものがないのですか?」


「ははは……そんなことはないんですけどね」


「ふふ、冗談ですよ」


 最近では、ライラさんとの距離もだいぶ近づいて、こういった軽口を楽しむようにもなってきた。


 僕はお返しだとばかりに……。


「というかライラさんって、暇なんですか?」


「へ?」


「だっていつも僕のところにくるし……」


「う、それは……」


 すると会話を聞いていた他のギルドメンバーが、


「ギルド長はヒナタに会いにきてるのさ! そのために仕事をテキパキこなしてはやめに終わらしてんだよな?」


 と口を挟んできた。


「そ、そうなんですか?」


 だとしたら、ちょっとうれしいね。


「ち、ちがいます! もう! ヒナタくんのことなんて知りません!」


 ライラさんはそれだけ言い残すと、倉庫から出ていった。


 そういった仕草もかわいい。


「あらら。すまんなぁヒナタ」


「いえいえ……」


 とまあこんな風に、ギルドでの仕事も、なんとか楽しくやっている僕だ。



 そういえば……。



 前のギルドでも、聖水は自分で用意していたなぁ。


 僕がいなくなって、教会にもらいに行かなくちゃならないだろうけど……。


 大丈夫だろうか。


 そこのところを説明していなかったけど……。


 まあ、でもさすがに、医術ギルドなんだし。


 そんな初歩的なこと、知らないはずないよな。


 それに、クビになったギルドのことを心配しても仕方がないよね。


 僕は目の前のことを、できることをやるしかないんだ。


 さあて、集中だ!





 よし、今日もたくさんポーションを作った!


「ヒナタくん。ちょっと、いいですか……?」


 夕方、またライラさんが話しかけてきた。


「どうしたんですか?」


「うちで聖水を売ることってできませんか?」


「え!? ギルドで聖水を!?」


 たしかに、僕のスキルをつかえばそれも可能だけど……。


「でも、それだと教会のお株を奪ってしまうことになりませんかね? もともと水の浄化は、教会の仕事ですし……」


「それもそうですね……。失念してました」


「そうだ! 教会に許可をとればいいんですよ! それで売上の何割かを納めれば、問題にならないでしょう」


「それはいいアイデアですね!」


「では、僕が交渉に行ってきますね!」





「え? あなたが聖水をですか?」


「はい、ぜひうちのギルドで取り扱いたいと……」


 僕の提案に、教会のシスターさんは驚いた顔で応えた。


 あ、ちなみに孤児院のシスターさんとは別の人だよ。


 やっぱり、教会の役目を奪うことになるから、いい気はしないのだろうね。


 断られるかな?


 と、思ったのだけれど――。


「それは助かります!」


「へ?」


「正直、ポーション用に聖水を用意するのって、けっこう大変なんですよ」


「そうなんですか」


「人手も足りないし、毎日大量に商人さんが持っていくものだから……」


「ああ、たしかに大変ですね」


 毎日となると大変そうだ。


 教会にはほかの仕事もあるだろうし……。


 これはもしかしてお互いにいい関係が築けるかもしれないね。


「そのせいで、孤児院へ人員を回せずに、先日は子供たちを危険な目にあわせてしまいました……」


「え、あの孤児院はここの教会が管理しているんですか!?」


「ええ、あ、もしかしてあなたが孤児院を救ってくれたという……?」


「あ、はい。世界樹ユグドラシルのヒナタです」


「そうでしたか……。教会はあなたに救われてばかりですね……」


「いえいえ。こちらこそ、お世話になりますよ」


 教会には、毎朝寄っている。


 妹の病気のことを、神様にお祈りするためだ。


 何もしないよりは、そうすることで気が休まる。


「では、ギルドで聖水を売ってもいいんですね?」


「ええ、そうしていただけると、こちらの負担も減ります」


「何割ほど売り上げをお納めすればいいでしょうか?」


「え? お金を頂けるんですか?」


「当然ですよ。それに、教会だってお金が必要でしょう?」


「ええまあ……。でしたらいただきます」


 孤児院のサビれ具合を見れば、教会に寄付が足りていないことは明らかだ。


 聖水は数少ない収入源だろうし、それが減れば困るだろう。





「ヒナタくん! すごい売り上げですよ!」


「よかったです」


 数週間後、世界樹ユグドラシルの販売した聖水は、飛ぶように売れた。


「まさか聖水の需要がここまでとは……」


 教会は商業区画からは少し離れたところにある。


 商業区画では毎日、大量のポーションが右から左へ売り買いされている。


 だから多少割高でも、同じ商業区画で買えるのならと、うちで聖水を買っていく人が多いんだろうね。


「いやー、世界樹ユグドラシルで聖水が買えるようになって、うちは大助かりだよ。仕入れが格段に楽になった!」


 ギルドのとなりの店のおじさんも、喜んでくれているようだ。


「ヒナタさまー!」


「あ、シスターマリア」


 遠くから走ってやってきたのは孤児院のシスターさん。


 どうしたのだろう。


「今日はあらためてお礼を言いに来たんです」


「そんな! いいのに……」


「ヒナタさまのおかげで、孤児院の改装が決まったんです!」


「え!? ホントですか? それはよかった」


 聖水の売り上げを半分教会に寄付していたから、そうなったのだろう。


 力になれてよかった。


 正直、あの孤児院じゃ、いつまた子供たちが病気になってもおかしくない。


「やりましたね、ヒナタくん!」


「ライラさん、ありがとうございます」


「ちょっと、今は私とヒナタさまがお話しているのですよ!?」


「な、なんなんですか! 私だってヒナタくんとお話したいです!」


 なんだかシスターマリアとライラさんは、折り合いが悪いみたいだ。


「あはは……」





 こうして、ヒナタはまたしても孤児院を救った。


 だがガイアックときたら……聖水について、なんにも知らないのであった……。


 そしてそのせいで、あんなことが起ころうとは……!

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