第15話 孤児たちを救おう


「でもその前に、ポーションを用意しないといけませんね」


「今から……ですか?」


「ええ、すぐに作ってしまいますので」


「……って、6000個ですよ!? そんなこと……できるんですか?」


「ええまあ薬品調合ポーションクリエイトをつかえば、30分くらいで」


「ヒナタさま……あなたホントに何者なんですか……」


 僕とシスターマリアが病室で会話していると、ライラさんが通りかかった。


 なにか用があるのかな?


 シスターの件は伝えてあるはずだけど……。


「ヒナタくん。きみにお客さんですよ……?」


「お客さん……? 誰だろう?」


 ライラさんの後ろから登場したのは、先日僕が薬草6000個を買い取った相手。


 医術ギルドのザコッグさんだった。


「あれ、ザコッグさん。どうしたんですか?」


「やあヒナタさん。この前はどうも。助かりましたよ本当に!」


「それはよかったです」


「今日はお礼に来たんです。あれから、なんとか経営も持ち直しました」


「そんな、お礼なんていいのに」


「そう言わずに、受け取ってください。きっとお役に立つと思いますよ?」


「これは……!?」


 ザコッグさんが取り出したのはスライムコアだった。


 下級回復ポーションを作るのに必要な素材の一つだね。


「ちょうど今、孤児院のためにポーションを作るところだったので、助かります」


「そうなんですか! いやぁヒナタさんはいつも誰かを救っていますね。見習わねば」


「たまたまですよ」


 ザコッグさんの登場で、さらにポーションの経費を削減できたね。


 やっぱり、人助けはまわりまわって、こういういいことに繋がるね。


「では、僕はポーションができしだい、孤児院へお伺いしますので、シスターさんは先に行って子供たちのようすを見てあげてください」


「わかりました」


「と、言いたいところですけど、正直まだ体の調子を考えると、動かないほうがいいですよね?」


「え? わたくしでしたらもう大丈夫ですよ!」


「でも、やっぱり僕としてはシスターさんも心配なんです」


「ヒナタさま……。こんなわたくしのことをそこまで案じていただけるなんて……!」


 それはそれとして、子供たちのことももちろん心配だ。


 きっとなかなかシスターが帰ってこなくて、不安な気持ちで待っているのだろう。


 熱を出して苦しんでいる子もいるのだし、はやく行ってあげたい。



「でしたら、私が行きましょうか?」



 そう名乗りを上げたのは、他でもないライラさんだった。


「え? いいんですか? ライラさん。忙しいんじゃないですか?」


「今日はもう大丈夫ですよ。それに、ヒナタくんが困っているのを、ほっとけないじゃないですか!」


「でしたら、助かります! すみません、ライラさんは上司なのに……」


「いいんですよ! 私はヒナタくんのためならなんだってしますって! だからいつでも頼ってくださいね……?」


 うう……ライラさん。


 なんていい人なんだろうか……!

 

「では後ほど」


「はい、後ほど……」


 軽くアイコンタクトをしあったあと、ライラさんは孤児院へと出かけて行った。


「いやぁ、ライラさんとヒナタさん。まるで夫婦のように息ぴったりだ!」


「もう、からかわないでくださいよ、ザコッグさん!」


 僕は照れるどころか、そんなことありえないことすぎて、想像もつかない。


 だってライラさんは貴族で、ギルド長で、美人で……。


「むー……ヒナタさま。わたくしというものがありながら……!」


「だからシスターさんは落ち着いてくださいって!」


「ははは……ヒナタさんはモテますねぇ……うらやましいですよ」


「そうなんですかねぇ……?」


 僕はザコッグさんの反応が、どうもいまいちに落ちないでいるのであった。





【side:ライラ】


 まったく、なんなのでしょうかあのシスターさんは。


 私のヒナタくんを見る目が、まるで獲物を狩る狩人でした……。


 これは先手を打つ必要がありますねぇ。


「ここが孤児院ですか……」


 それにしても、ボロボロですね……。


 孤児たちの衛生状況や栄養状態が心配です。


 そりゃあ病気にもなるって話ですよね。


「おじゃましまーす……って、ケホッ! ケホッ!」


 ホコリがすごいです。


 カビ臭いし、すごい湿気……。


「……!?」


 大変です……!


 大広間に無造作に並んだ布団からは、異臭が漂っています。


 熱でうなされ、動けない孤児たちが、一晩ほうっておかれたのですものね……。


 とりあえず、私に今できることは、身体を拭いて清潔にしてあげることくらいですかね。

 それから、温かい食べ物を用意してあげなくては!


 食材があればいいですが……。


「ヒナタくん……! はやく来てください……!」





「……ふう。こんなもんですかね」


 私はとりあえず孤児たちに簡単な世話をしました。


 幸い、まだみんなおかゆを食べれるだけの気力はあるようです。


「ライラさーん! お待たせしましたー!」


「ヒナタくん!」


 するとちょうど、ヒナタくんがポーションを持ってやってきました。


 思ったよりずいぶん早い登場ですね。


「もうポーションの調合が終わったんですか……!?」


「ええ、急いで作りましたから」


「さっそく孤児たちに飲ませましょう……!」


 私たちは手分けしてポーションを飲ませていきました。


 一口飲ませると、衰弱しきっていた身体に、みるみるうちに力がみなぎってきます!


「ありがと……おねえちゃん……」


「早く元気になってくださいね……」


 よかった、話せるようになったみたいです!


 これは完全に回復するのも時間の問題でしょう。


 余ったポーションは孤児院の倉庫へ納めます。


 こればかりはいくらあっても困ることはないでしょう。


「それにしても、さすがヒナタくんですね」


「ライラさんが子供たちを看ていてくれたおかげですよ」


 あいかわらず、うれしいことを言ってくれます。


 彼はいつだってそうです。


 私のことを、一番ホメてくれるし、認めてくれます。


 他の人は、優秀なギルド長ならできて当然――という態度で接してくる。


 そして私は、そんな彼のことが――。



「なんだか、こうしていると、本当に夫婦になったみたいですね……」



 え?


 ヒナタくん、今なんて言ったの?


「あひぇ!?」


 思わずおかしな声がでてしまいます。


「え、僕今声に出してました……!?」


「え、ええ……」


「す、すみません! さっきザコッグさんが変なこと言うもんだから……アハハハハハー……」


「ま、まあ私は別にかまいませんけどね……」


「いやいや、そんなことあり得るはずないですもんね! 僕とライラさんが夫婦だなんて!」


 そこまで強く否定されると、どう反応していいものか困ります。


 彼は私のことをなんとも思っていないのでしょうか……?


「……パパ……ママ……」


 突然、孤児の一人の子が、そんなことを言いました。


 寝ぼけているのか、うなされているのか、わからないですが。


 少なくともそれは、この状況ではマズイ言葉です。


「「~~~~~~!!!!」」


 私もヒナタくんも、顔を真っ赤にして、目をそらし合ってしまう。


「え、えーっと! ぼ、ぼぼぼぼ僕、これ片づけてきますね……!」


「そ、そうですね! 頼みます!」


 ヒナタくんの下手なごまかしで、なんとか切り抜けたみたいです。





 その後も、一週間ほど孤児院へ通って、今では孤児たちは元気に走り回っています。


 シスターさんも元気になりました!


「本当にありがとうございました! 世界樹ユグドラシルの方々へはなんとお礼を申していいか……」


「気にしないでください。地域と密着して、助け合っていくのも、ギルド本来の立派な役割ですから」


 私たちは、シスターと子供たちに簡単な別れを告げて、ギルドへと戻ります。


 その帰り道、私は気になっていたことを、ヒナタくんにたずねてみることにしました。


「あのポーション、ほんとに下級回復ポーション(E)だったんですか?」


「さぁ、なんのことでしょう?」


「だって、それにしてはやけに効き目がよすぎるというか……」


「まあ、僕の勝手にやったことですから、僕のお金で支払いました。以前、子爵さまを助けたときにもらったお金もありますし……」


「そんなことしていいんですか? 妹さんのこともあるし、それに食費だって……」


「いいんですよ。妹の病気は、そこらのポーションでは治らないみたいなんで」


 そう言った彼の表情は、どこか哀しみを帯びた顔でした……。


「優しすぎますね、ヒナタくんは……」


「そうでもないですよ」


 私はこっそり、彼のお給料にボーナスをはずむことを決めました。


 そんな優しすぎるヒナタくんですが、彼が私の気持ちに気づくのはいつになることやら……。

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