第14話 孤児院に寄付をしよう


 ある日僕がギルドへ向かう途中、道ばたに倒れている人を見かけた。


 ボロボロな服を着てるけど、どうしたんだろう?


 服装を見るに、どうやらシスターさんみたいだね。


「あの……大丈夫ですか!?」


「う……」


 身体を揺さぶってみるが、返事はない。


 病院に連れて行かなきゃ!


 ここから近くなら……。


 以前僕が勤めていた、医術ギルドが近くにある。


 でも、おそらくギルド長は彼女を助けてはくれないだろうね。


 服が汚れているし、みるからにお金もない。


 僕だってそこまでのお金はだせないし……。


 それに、ガイアックギルド長の手を借りるのは、僕としてもしゃくだ。


 なら、世界樹ユグドラシルに連れていくのが一番だな。


 倉庫には多種多様なポーションがそろっているし……。


 この程度なら僕のポーションで治るだろう。





【side:シスターマリア】


「う……ここは……?」


 私は永い眠りから目を覚ました。


 目がまだ明かりに慣れなくてまぶしい。


 たしか……医術ギルドに助けを求めに行って……それから……?


 えっと……よく思い出せない。


「あ、目覚めましたか……?」


 声のしたほうを見ると、一人の青年が立っていた。


 年は若いが、しっかりしたたたずまいの、見るからに優しそうな人物です。


 きっと彼がわたくしをベッドまで運んでくれたのでしょう。


「えっと、ここは……?」


「ここは商業ギルド、世界樹ユグドラシルです。僕はポーション師のヒナタです」


「ヒナタさん、ですか。どうやら介抱していただいたみたいで。ありがとうございます」


「いえいえ、軽い打撲でしたので、上級回復ポーションで一発でしたよ!」


「じょ……上級回復ポーション!? そんな高価なものを!? いったいどうやってお返しをすれば……」


「そんな! お返しなんていらないですよ! 僕が勝手にしたことですし……」


 ああ神様……。


 彼はなんと素晴らしい人物なのでしょうか。


 見ず知らずのわたくしを救っておきながら、一切の見返りを求めないなんて!


 きっと神様がつかわしてくださった天使に違いありません!


「ヒナタさま! わたくしをめとっていただけますか!?」


「はい!?」


「ですから、わたくしと結婚を!」


「なんでそうなるんですか!?」


「わたくしにはそのくらいしかお返しできる方法が思いつきません……。大丈夫です。わたくしこう見えて、キレイに着飾ればそこそこの見栄えになりますよ?」


「た、たしかに、シスターさんはお綺麗な方だとは思いますが……! そういうことではなくてですね!」


 どうしたのでしょうか……。


 きっと照れていらっしゃるのね。


 まあそれも時間の問題です。


 いずれ振り向かせてみせますわ!


「あの……シスターさん。頭を打ったせいで、ちょっと気が動転しているのでは? まだゆっくり休んだほうがいいですよ」


「む、失礼な。わたくしは正常ですよ? それに、シスターさんではなく、シスターマリアです」


「し、シスターマリア。まだ安静にしておいてください。いちおう病人なんですから」


「まあたしかにそうですね。ヒナタさまのおっしゃることも一理あります。ちょっと急ぎすぎたかもしれませんね……」


「そうですよ、目を覚ましていきなり求婚なんて、普通じゃありませんよ……」


「そうでしょうか? わたくしはあなたさまに命を救われたのですよ?」


「ははは……大げさですよ」


「まあ、何はともあれ、あらためてお礼を申し上げますわ」


 そういえば……。


 何か大切なことを忘れている気がする。


 そもそもわたくしは何故、このようなことに……?


「……あ!」


「どうしたんですか!?」


「ヒナタさま、わたくし、今すぐに孤児院へ帰らねばなりません!」


「ダメですよ、まだ寝てなきゃ!」


「そうもいきません。孤児院の子供たちが、今も熱でうなされているのです。きっとわたくしの帰りを待っているに違いませんわ!」





【side:ヒナタ】


「そういう事情があったんですか……」


 僕はシスターマリアから、ことのあらすじを聞いた。


 どうやらガイアックギルド長に、ひどい目にあわされたみたいだね。


 そのへんは僕も親近感を覚えるところだ。


「でしたら、僕が力になりますよ……!」


「え? どういうことでしょうか」


「ちょうど先日、薬草(F)を6000個ほど大量に入荷したところだったんです。引き受けたはいいものの、ちょっと劣化が進んでいて、売り物にするにはどうだろう? と思っていたところなんですよ」


「はぁ……」


「ですから、世界樹ユグドラシルから孤児院へ、下級回復ポーション(E)6000個を寄付する……ということでどうでしょう?」


 我ながら、いいアイデアだと思う。


 風邪による発熱ていどなら、あまりランクの高くないポーションでも、なんとかなる。


 それに、6000個もあれば、複数使用することで、かなりの病状まで対応できるはずだ。


「そ、そんな……うそでしょう?」


「え? 足りませんでしたか?」


「と、とんでもない! わたくしども、孤児院のものが、そんなにほどこしを受けてしまっていいのでしょうか!?」


「ええ、こちらとしては、受け取っていただけるとありがたいのですが」


「ヒナタさま……あなたはまさに神様のつかい……いえ、神様そのものですわ!」


「ええ!? もう、大げさですって」


「わたくしを救っていただいただけでなく、孤児までお救いいただけるなんて!」


「まあ、僕も子供たちには元気で、そして笑顔でいてもらいたいですからね」


 妹のこともあるし、できればこの世から、悲しむ子供たちをなくしたい。


 すべての子供たちを幸せにすることはできないだろうけど……。


 せめて僕に救える範囲は、なんとか手を差し伸べたい。


「では、そういうことで。さっそく孤児院に行きましょうか!」


「ヒナタさま……! やっぱりステキです!」


「ははは……」

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