第13話 孤児院の貧乏人は死ね!【side:ガイアック】


「お願いです! 助けてください!」


 なにやらギルドの外が騒がしい。


 一体何があったんだ?


「おい、どうかしたのか?」


「それが……孤児院の者がやってきて、外で助けてくれと騒いでるのです」


「なに? 金もないのにか?」


「そうです。まったく、迷惑な連中ですよ……」


 なおも外の声は大きくなり……。


 ――ドンドンドン!


 扉を叩く音もうるさくなる。


「おい、外の連中を黙らせろ!」


「はい!」


 キラは窓を開けて、孤児院のみすぼらしいシスターに呼びかける。


 二階の部屋から玄関前にいるシスターを見下ろすようすは、まるでそのまま社会階級の差をあらわしているようだった。


「金がないのなら治療はできない! ギルド長も迷惑されている、帰れ!」


「そんな! お願いです! 孤児たちが熱を出して死にそうなのです!」


 シスターはやつれた孤児を抱えて、地面に頭をすりつけて、祈るように懇願こんがんしている。


 いい気味だ。


 貧乏人にお似合いの様相ようそうといえる。


「孤児がいくら死のうが俺たちのしったことではない。こっちも慈善事業じぜんじぎょうでやっているわけではないのでな」


「お礼ならいくらでもいたします! ギルドの草むしりや雑用など、孤児の熱が下がったら手伝わせますから!」


「は? ここは医術ギルドだぞ? 孤児のような汚れた存在が立ち入っていい場所ではないが? たいせつな貴族の患者さまに、病気がうつったりしたらどうしてくれるんだ?」


「そんな……ひどいです! 神はこのことをご覧になられていますよ?」


「ひどいのはキサマらだ。金もださずに口だけは達者なのだな? アバズレめ」


「お望みとあらばこのわたくしの身体をささげても構いません! ですからどうか子供たちの命だけはお救いください!」


「お前のようなガリガリの、貧相な身体の貧乏人、そんな価値ないのだが? こっちは貴族で医師なのだぞ? 女には苦労していない。何を言っても無駄だ! 帰れ帰れ!」


「うう……」


 シスターはボロボロの身体を引きずって、とぼとぼと帰っていった。


 キラがこっぴどく追い返してくれたからな、これでもうやってこないだろう。


「よくやってくれた、キラ」


「はい、ありがとうございます、ギルド長。あいつらはこの街に巣くうガンみたいなヤツらですからね、容赦はいりませんよ。一回でも助ければ、つけあがってなんでも要求するようになるに違いません」


「おう、そうだな」





 だが俺の予想、希望、に反して……。


 翌日もシスターはやってきた。


 しかも俺が出勤してくるのにあわせて、待ち伏せをしていたのだ。


「待ってください! お願いします! 何でもしますから!」


「うるさい!」


 わざわざ待ち伏せまでしてくるとは、さすがは貧乏人だな。


 すると、あろうことか、シスターは俺の腕をつかんできた。


「触るな! 薄汚いゴミムシめ!」


「キャっ!」


 俺は急いで払いのける。


 シスターは吹っ飛ばされて尻もちをついた。


 そのまま建物の角に身体をぶつけ、シスターはその場に倒れる。


 どうやら軽く脳しんとうを起こしたようだな……。


 ま、この程度ならほっといても命に別状はないだろう。


 だがこんなところで寝られては邪魔だ。


「おい、キラ。このゴミを片付けておいてくれ」


 俺は出勤してきたばかりのキラに命令する。


「はい、わかりました」


 キラは意識がもうろうとしているシスターを、道のはじに押しやる。


「これでよし」


 さあ、ゴミは片付いたことだし、今日の仕事を始めようか。


 俺たち医師には救わなきゃならない人がいる。


 ああ、人の役にたつ仕事って最高だ。


 感謝されて金をもらえる。


 こんな気持ちのいい、すがすがしい高潔な仕事は他にはない!


 それなのに朝から嫌な気分を味わったぜ。


 ポーション師だとか孤児院のシスターだとか、そういった平民と同じ空気を吸うだけでイライラする。


 まあ、金さえ出せば、平民でも救ってやらんこともないがな!

 ガッハッハ。




 

 孤児院のシスターをひどく追い返したガイアック。


 だが意識を失ったシスターを、ヒナタが見つけて救うまで、それほど時間はかからないのであった。


 そしてガイアックはまたしてもその悪行を恥じず、どん底への階段を、一歩、また一歩と下っていくのであった……。

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