第9話 ギルド長は呆れられる【side:ガイアック】


「おい、このクズ素材の山をなんとかしろ」


 俺はキラに命令する。


「む、ムリですよ……」


「は? どっかにひきとってもらえ」


 無能はすぐにムリと口にする。


 こいつも捨ててやりたいくらいだぜ。


「そんなのできませんよ。捨てるしかないです」


「ならせめて、まともな素材を売る商人を連れてこい」


 幸い、金ならまだ余裕がある。


 新しく素材を買いなおせばいいだけだ。


「は、はい」


 キラは急いで部屋を出ていった。


 今度はまともな商人がくるといいがな……。


 はたして無能なアイツにそれができるだろうか。





「商人のノルワイアさんをお連れしました」


「おう、入れ」


 ほどなくして、キラが新たな商人を連れてきた。


 名前は何と言ったかな。


 長くて聞き取れなかった。


 まあ、商人の名前なんて覚える気もないがな。


「あなたがギルド長のガイアックさん?」


「ああ、よろしく。座ってくれ」


「それで……ポーションの素材を買いたいとのことで?」


「そうだ。ゴミ品質のものじゃなくて、ちゃんとした素材を、だ」


「でしたら……ランク(C)のものでいかがでしょうか」


「ふん、まあそれならいいだろう」


 ランク(B)や(A)だと大量に使うには高すぎるからな。


 かといって(D)や(E)だとポーション自体の質も悪くなるし、調合も失敗しやすい。


「でしたら……薬草(C)2000個で、85000Gです」


「は? なんで薬草ごときでそんなにするんだ……?」


「え? 普通に相場の値段だと思いますが?」


「いままでは10000Gで買ってたぞ? お前も10000Gで売れ」


「無茶言わないでくださいよ。それは薬草(F)の値段でしょ? このランクのはこの値段じゃないと売れないよ」


「は? ふざけるな! なんでポーションの素材ごときがそんな値段するんだ? ただの草だぞ? そんな値段だったら、俺のギルドは赤字になっちまう」


 俺が声を荒げると、商人は立ち上がって興奮しだした。


 なまいきなヤツだ。


 商人としての心得ができていない。


 そもそも貴族で医師の俺が、商人ふぜいを相手にしてやっているんだぞ?


 感謝しろ!


 なのに……っ!


「あのねぇ、あんたら医術師はポーションを使いすぎなんだよ。そりゃあ、それだけかかるにきまってるだろ! こっちも慈善事業じぜんじぎょうじゃないんだ」


「……っち。話の通じねぇヤロウだ……」


「あんた、メリダさんにも酷い対応をしたって言うじゃないか」


「は? 誰だ、ソイツ?」


「……なっ!?」


「先日の商人のことです。ギルド長が追い返した……」


 レナが耳打ちで教えてくれる。


 頭は悪いが気が利く女だ。


「メリダ……? ああ、メリダね。あのバカなら俺の言うことを聞かないから追い返したよ。まったく、いけ好かないヤロウだ。俺を騙してクズ素材を売りつけやがった。あんたもアイツには騙されないように気をつけな」


「いけ好かないのはアンタだ!」


「なに……!? 商人の分際で、なんのつもりだ!」


「商人たちはみんなうんざりしているんですよ。アンタのような貴族にはね! もうアンタの悪名は商人界隈かいわいに広がっているんですからね? もう誰もアンタとは取引しないだろうよ。少なくともまともなところはね」


 なんだ!?


 商人というのはどいつもこいつも。


 金があればいいんじゃなかったのか?


 誰が金を出してやっていると思ってる?


「悪徳貴族め! アンタなんかいなくても、善良な貴族とだけ取引していれば、十分に利益はでるんだよ! もう二度とアンタの顔は見たくないね!」


「うるさい! 商人のクズめ! 出ていけ!」


 俺は手当たり次第に、そこらの物を投げつける。


 いつのまにか商人はどこかへ消えていた。


「はぁ……はぁ……」


「大丈夫ですか……? ギルド長」


「これが大丈夫に見えるか?」


「す、すみません!」


「くそっ! とにかく素材は必要だ。他の商人を呼べ」


「ですが、もううちのギルドと取引してくれるようなところは……」


「なぜだ!?」


「それは……ギルド長が追い返したりするからです」


「俺のせいだというのか!?」


「い、いえ……」


 くそ……。


 どいつもこいつも。


 俺のことを追い詰める。


 なぜだ……。

 

 いつからおかしくなったのだろう?


 アイツを追い出してからか……?


 ポーション師のヒナタ……。


 いや、そんなはずはない!


 あんなゴミクズ一人いなくても、俺のギルドは安泰だ。


「とにかく商人を連れてこい! どんなヤツでも構わない! 裏のルートからでも引っ張ってこい!」


「は、はい!」


 そうだ……。


 なにも表の商人だけが商人ではない。


 特に、医師なんかは、裏の世界と通じてる者も多いと聞く。


 臓器売買や、人身売買なんかで……。


 それができてこそ、一人前の医師だとかも言われていたりするほどだ。


 とうとう俺も、一流の医師の仲間入りというわけだ。


「ふっふっふっふっふ……」





「ギルド長、商人のダクワさんをお連れしました」


 今度こそ、まともなヤツなんだろうな……?


「よし、入れ」


 裏の商人は、いかにもな怪しい見た目の男だった。


「よろしくお願いいたします、ギルド長。どうやら表の商人たちからは総スカンだそうで」


「うるさい。薬草を売るのか売らないのか、どっちなんだ」


「まあまあ、落ち着いてください。商品でしたらいくらでも売りますよ。私ども裏の商人は、細かいことは気にしないんでね……」


「そうか、それはよかった。俺も細かいことは好きじゃない」


 裏の商人たちは、独自のルートをもっているそうだ。


 そして、汚い方法とかも使って仕入れをしている。


 だから格安で売ってくれたりもすると聞いている。


 俺は内心、期待していた。


「で、いくらなんだ? 薬草(C)を2000個だ」


「はい、それでしたら……100000Gになります」


「なに!? 表の相場よりも高いじゃないか! 裏の商人のくせに、なんでそんな高いんだ!」


「文句があるなら、表の商人から買えばいいじゃないですか。ああ、売ってもらえないんでしたっけ?」


「キサマ……! 足元見やがって……!」


「いえ、別にいいんですよ? 値段に納得いかないのであれば、買わなくても」


 くそ、そんな値段……おかしいだろ!


 元の値段より高くなってる……。


 あのとき素直に表の商人から買っていれば……。


 いや、それだけは絶対にない。


 俺はムカつくヤツには絶対に媚びない!


「ギルド長……。多少高くても、この人から買わないと……。ポーションが作れなくなります」


 レナのヤツが俺に耳打ちしてくる。


「うるさい! わかっている」


「それで、買うのですか? 買わないのですか?」


「もういい! その値段で買ってやろう……。少々しゃくだがな……仕方がない」


「まいど! お買い上げ、ありがとうございます」


 裏の商人は、ニヤリとアコギな笑みを浮かべた。


 まったく……散々な目にあったぜ。





 こうして、結局ガイアックは、ポーションの素材に、大量の出費をするハメになったのであった。

 

 そしてこれがきっかけとなり、とんでもない事件が起きるのである……!

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